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6(もう一つの結末)

「――発見された遺体は、藤美奈子(ふじみなこ)さん。藤さんは切断された頭部と胴体がそれぞれ別の場所で見つかり、警察によって身元が特定されました。遺体は死後、一年程度が経過しているものと見られ、警察では殺人及び死体遺棄事件として捜査を続けており――」

 室川さんがいなくなってからほどなく、テレビではそんなニュースが流れた。

 でもそれは、ほかの事件や、事故や、どこかの戦争と同じで、たいして目立っていたわけじゃない。この世界では、いつでもどこかで誰かが死んでいて、そんなのはありふれたことでしかなかったから。

 マンションでは、室川さんの失踪はちょっとした話題になったけど、結局は何もわからずじまいで終わった。それは、そうだ。幽霊に食べられてどこかへ消えてしまったなんて、誰にもわかるはずなんてない。

 ――それを実際に、目にした人間以外は。

 事の顛末については、ぼくは花村さんにだけは話してあった。彼女には、それなりに世話になったわけだし、それくらいの責任はあると思ったのだ。それに、ほかの人に話したって、どうせ誰にも信じてなんてもらえない。

 ぼくの家からは生首も、首のない幽霊も、どっちもいなくなった。たぶん、呪いは完全に解けたのだ。無念は晴らされ、復讐は果たされた。

 それでもしばらくのあいだ、ぼくは冷蔵庫を開けるのが怖かった。腕を食べられた船長が、時計の音を聞いただけで震えあがるみたいに。

 今でも相変わらず、ぼくは幽霊とか、よくわからないものの姿を見かける。でもそれは、こちらから手を出さないかぎり安全なものだし、気にせず無視していれば問題はない。そうでなくったって、世の中には危険なものがいっぱいあるんだから。

 例えば、誰に頼まれたわけでもないのにごみ置き場を片づける、親切な男の人とか。



 ――ある日の夜、ぼくはベッドの上でなかなか寝つけずにいた。別に何かあったとか、気になることがあったわけじゃない。ただ何となく、大切なことを忘れてるような気がしていた。たいしたことじゃないけど、何かの名前とか音楽の題名が思い出せなくて、変に気になってしまうみたいに。

 天井にはいつか見たのと同じ、死んだ魚の骨みたいな丸い蛍光灯がぼんやり浮かんでいる。時計の音が、暗闇をゆっくりかきまわしていた。……デジャヴ?

 ぼくはそのまま、ぼんやり横になっている。一体、何を忘れてるんだろう、ととりとめなく考えながら。

 影人間に殺された、康介くん――

 室川さんに殺された、藤美奈子さん――

 幽霊になった藤さんに殺された、室川さん――

 ぼくは日記に書いたことを、思い返してみる。昨日とも明日ともたいして変わらない、いつも通りの一日のはずだった。問題は今日の出来事じゃなくて、もっと別の。


 ふと気づくと、顔の前半分がなくなった、がっしりした体格の男の人が、ベッドのすぐそばに立っていた。


 ぼくはようやく、そのことを思い出す。

 あれから、今日で一年が過ぎたのだ。

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