7.証明と立会人
無理して思い出す必要はないし、施術の強要もしないと殿下は言ったが、
『思い出したら使いたくなった!』と、魔術師長は乗り気になったらしい。
――まぁ気持ちは分かる。
「……では、今回も?」
実験を行った相手は……
「今代の聖女だ」
「……よくお付き合いくださいましたね」
「……先代がやったのなら仕方ないわね、と言ってたな」
この言葉からも分かる通り、聖女様方は前世やその前の記憶は持たない。
前世はあるけど、その記憶は受け継がれないというのが常識なのだ……なのになぁ。
(いやそもそも常識のある人間なら、公衆の面前で『婚約破棄』などせんわなぁ……)
なにはともあれ、実験の際、今度も、聖女の姿をした女性が見えたそうだ。
「あのー、前世の姿が見えるのは、術をかけた魔術師だけですか?」
「いや、それだと証明されないだろう。他に、利害関係のない人間が見ていないと」
確かに、術者が見た姿を、本人に否定されたら意味がない。
「だからこの術は、術をかけた魔術師、それ以外に2人見る事が可能になっている。ちなみに今回の聖女の判定には、私と、前回の聖女を知っている老祭祀が立ち会って確認している」
「うわ~」
そっかー、前の聖女様がみまかられてからまだ30年位だったか!
生きてる人は当然いる。
「感動していたぞ」
「でしょうねぇ~」
これだけカジュアルに聖女様を使えるのも、初代以来我が国が聖女の出身地だからだろうな~
「ですが、聖女様みたいに分かりやすい存在ならともかく、ただの貴族っぽい人が見えた場合、言い逃れが効いてしまうのでは?」
相手側の主張は『前世で結ばれなかった恋人』だったっけ……そんなんどーやって否定するんだろうと思ったが、殿下はとてもイイ顔で笑った。
「それがな、あの王太子殿下は『前世も自分は王族で、約束を交わした彼女も敵国の王女だった』と言ったんだ」
ひえ~大きく出たなぁ。
リュージュの元婚約者の『前世は貴族』宣言といい……思いっきり夢見がちだ。
「誰にも証明できないと思って、好き勝手言ってくれたおかげで、何とか証明できそうだ」
今でこそ、平民の振りをして町を歩いている貴族もいるけど、昔はそんなこともない筈だ。特に女性は。
平民と貴族の服装はまるで違うけど、貴族と王族はどうだろう。
(王冠でもかぶっててくれれば分かりやすいけど……)
恋人であったか……は、証明しようがないとして、
「……両方とも王侯貴族っぽかったらどうします?」
我が国の王子殿下はきっぱりと言った。
「こちらに運がなかったと思って、諦めて祝福してやる。だが賠償はいただく。国同士で取り交わした約定だ。前世の約束だろうが何だろうが、あちらに責があるのは揺るがない」
リュージュも首を縦に振った。
言った方が勝ちは、念入りに誓約を交わす国同士ではありえない。
(これで戦争になってもいいなら、また別だろうけど)
近隣諸国で戦支度をしているという国の話は聞かない。
冒険者組合は他国の組合とも連携して、危機管理に努めている。
情報の速さは王城といい勝負の筈だった。
ならば、王太子の言葉を嘘と証明できれば、マラカイトの王様も賠償せざるを得ないだろう。
…この話では魔力を『魔術師が使う=魔術』、『誰でも使える=魔法』という分け方をしています。
…大雑把にいえば、それを行う場合、仕事として成立するか否かです。『魔術師』は職人区分です。
…ある意味国民全員が『魔法使い』なので『魔法使い』という職種はありません。




