6.『聖女メリーアン様の伝説』
魔術師長は以前、幼い第二王子の魔法一般を教える任務についていた。
「イリスの事を聞いた時、授業の合間の世間話で、あの人が『若気の至り』だと言っていた話を思い出したんだ」
魔術師長は若き日、第二王女やリュージュと同じような理由で恋人に振られたらしい。
振られるのはいいが、そんなあやふやな理由では納得がいかない!――と怒った彼が、ろくに食事も睡眠もとらず七日間部屋にこもって作り出したのが……
「前世鑑定魔法、という訳だ」
「うわぁー……」
天才って怖い……
リュージュは思わず呆れたような声が出てしまったが、すぐに大切な事に気づいた。
「ですが、そ、その鑑定魔法が正しく作用しているという証明は、どうされたんですか!?」
勢い込んで尋ねるリュージュから、殿下がふっと視線を伏せて口を開く。
「この世にはいるだろう? 唯一、前世のはっきりしている御方が……」
「…………え、まさか……」
この国には、確かにいる。
その建前がある存在が。
「せ、聖女様ですか……!?」
思えばこの世界で、『前世』がある事が否定されないのは……つまりは、リュージュや王女の元婚約者たちが、世迷い事を抜かしても否定しきれいないのは、この方のおかげなのだ。
「当時の聖女様が、付き合ってくださったそうだ。面白そうだ……と」
「大胆な方だったんですねぇぇぇ~」
この国、というかこの大陸の殆どを統べる、統一宗教・聖白教の最高指導者が教主と聖女だ。
教主は常にいる存在だが、聖女は違う。
百年現れないと思ったら、ほとんど途切れず出てくることもある。
『ただ、同時に複数の聖女様が現れることはありません。
なぜなら、聖女とは、初代聖女であるメリーアン様の生まれ変わりだからです!』
初代聖女は、大陸に蔓延した疫病の源である魔物を特定し、全ての人を救った……幼少期、教会で聞かされた説話を思い出す。
「わたし……正直、『聖女メリーアン様の伝説』は、おとぎ話だと思ってました」
「王家に生まれた人間は、一度は真実だと聞かされるが……私もこの件が起きなければ、似たような認識だった」
(ですよね~)
なにせ軽く七、八百年前の話である。
「まぁ聖女の前世が、やはり聖女だった事が分かっただけで、初代聖女だと分かった訳ではないが、それで充分だろう」
術を行った魔術師長(当時はただの魔術師)には、前聖女か否かは分かる術はなかったが、同じ色の修道女の御仕着せを着た、別の顔の女性が見えたそうだ。
聖女と教主の衣装は特別なもので、聖白教内で門外不出となっている染色技術で作られる『白色』で仕立てられる。
この布は各地の教会の祭壇の上に飾られている(1年に一度取り替えられるらしい)から、一般にも知られている。
つまりこの色をまとっている女性は=聖女と言う事になる。
(一般のブラザー&シスターは黒か灰色だからはっきり分かるわね)
……ちなみに彼はその魔法が認められて、宮廷魔術師になった訳ではないそうだ。他にも色々発明?したらしい。
天才って……なんか嫌味ィー……
「作ったものの、聖女以外誰にも知らせず、封印していたらしい」
「少し考えただけでも、影響が怖いですからね」
「うん、使いどころが難しすぎる。賢明な判断だと思う」
子供心にもその魔法のヤバさは感じられたのだろう。
殿下も記憶の片隅に封印していたが、今回の騒動で思い出してしまった。
そして、思い出してしまったら頭から離れない。
いっそ、使うか使わないかは魔術師長自身に決めてもらおうと、尋ねると……
「本人もそんな魔法忘れていた……」
「それはまた……」
そんな凄い魔法、忘れる事が出来ちゃうのか。
いちいちやる事が天才ムーヴだわー。
…『聖女メリーアン様の伝説』、『聖女メリーアン様の冒険』、『聖女メリーアン様の献身』etc. 聖女シリーズ20巻(ジュニア版、愛蔵版など以下続刊!)は教会のドル箱です。




