4.まぁ『冒険者』ですし
「その時の彼より若く、また鑑定の専門家である君なら、もう少し時間を縮小できるかもしれない」
証明された例が2件あると考えるか、2件しかない、と考えるか。
やはりリスキーな案件である。
いったいどんな魔法を使わせたいのか……
「報酬は500万ギル。君が魔法を使えない間の生活費は、また別に支給する」
昨年のリュージュの年収はおよそ100万ギルで、駆け出しの魔術師としてはまあまあな収入だ。
それの約5倍……目を丸くしたリュージュは、首を勢いよく上下に振りたい衝動にかられたが、何とか踏みとどまった。
「これは危険手当でもある。万が一、この魔法によって君の魔術師として未来が閉ざされたとしても……」
(当方は一切関知しない、ですよね。分かります)
「……苦情は受け付けないが、その後の仕事の面倒はみよう」
え、とリュージュは顔を上げた。
「魔力がなくとも出来る仕事はあるし、もし君が望むなら、魔力を使わない国での生活を保障しよう」
「えぇ!?」
思わず大きな声が出てしまった。
ランヴァルト殿下は、不味い物を食べたような顔をした。
「当然だろう? こちらの依頼で、魔術師としての未来や、生活の不便を強いるんだ」
今まで仕事や生活の中で接した結果ではあるが、王侯貴族に対する
『優しげに見えても、庶民を消耗品と思っている』
という認識が変わりそうである。
「……とのことだ。リュージュ、受けるか?」
それまで黙っていた組合長が、軽ーく口を挟んだ。
(なるほど、無料の話はここまでなんだ)
この魔法が何であるか、なぜこうまで厚待遇を約してまで使いたいのかは、この仕事を請けるまで語られる事はないらしい。
おそらく9割方、自分の魔力は三か月以内に戻ってくる。
(だが1割、戻らない未来もある……)
それだけでも断るべきだと……自分は堅実派だと、リュージュは思っていた。
学校を出て魔術師として冒険者組合に登録して、一人暮らしできるぐらいの収入を得て、自分を養ってきた。
生活に余裕が出来たら、他国にも行ってみたい、なんて未来予想図もあった。
振り返ると笑ってしまうが、その未来図に具体的な『夫』の姿は全くなかった。
婚約者が元婚約者になる前から。
(新しい……誰も知らない魔法……ね)
「悩むようなら……2、3日余裕を」
「お受けします」
回答を譲歩してくれようとした殿下に、リュージュはきっぱり言って、よろしくお願いしますと頭を下げた。
ランヴァルド第二王子とリュージュの間で、正式な契約書を交わす。
立会人として、自らも署名した契約書を持って組合長は帰った。
これで、仕事が終了して魔力が戻るまで、リュージュは王城の住人となる。
(あのゲームの登場人物でもないのにね……)
前世の記憶が蘇ったあの日から、何度目かの『人生は何があるか分からない』との思いを、リュージュは再び胸に刻んだ。




