3.うまい話には当然裏がある
案内してくれた侍従は、3人分のお茶を淹れた後、壁際にすっと立った。
「リュージュ・ネイビー、冒険者組合本部所属の鑑定魔法のエキスパートで間違いないな?」
念を押すような殿下の言葉に、リュージュでなく組合長が深く頷く。
「二年目ですが、リュージュは何をも見通すという『氷眼』の二つ名を継いだ鑑定魔法のエキスパートです」
「氷の眼か……」
……正直、己のメンタルでは『二つ名』とか『氷眼』とか恥ずかしすぎて、泣きながら「自分で名乗った訳ではありません!」と弁解したいが、冒険者としては紛れもなく『名誉』なので仕方ない。
(具体的にいえば報酬に差が出るんだよね……)
だから喜んで……とは言い難いが、甘んじて受けている。
今だって涼しい顔が出来ている――筈だ。
「鑑定魔法を使える者で、もっと上位の魔術師もおりますが、リュージュは鑑定専門でまだ18。これからの伸びしろが一番と言えます」
その説明に頷いた殿下は、リュージュの方を向いた。
心臓が高らかに跳ねたが、そんな事はお構いなしにイケメンはイケメンボイスでリュージュに尋ねた。
「仕事は最低でも半年かかるが、大丈夫か?」
半年!?
鑑定魔法がご入用みたいだが、今までのその手の仕事は殆ど王都内で済んだので、拘束時間は大体半日~3日だった。
「あ、あの、どこかへ派遣されるのでしょうか?」
どっか遠くのダンジョンへ他の冒険者と潜って、鑑定してこいって感じだろうか?
「それもある。だがそちらの問題じゃない」
ここで組合長は、心もち頭を下げて告げた。
「申し訳ありません。まだ具体的な説明はしておりません」
「分かった」
この国で上から数えた方が(めっちゃ)早い身分の青年は、鷹揚に頷いた後口を開いた。
「リュージュ・ネイビー、この仕事を請けた場合、君は三か月間、この王城からほぼ出られないと思ってくれ」
この部屋に入って初めて、目の前の顔より、驚きの内容がリュージュにもたらされた。
「秘密保持のためでしょうか?」
王城の仕事だ。高度の機密に触れるのかも、と思ったリュージュの想像をイケメンは難しい顔で遮った。
「それもあるが、君の生活に支障が出るのが一番の理由だ」
「は……?」
「この仕事は、君の魔力を『鑑定魔法』1本に絞る事で可能になる。他の魔法は一切使えなくなるため、こちらで保護することになる」
「え……えぇー!」
はしたなくも声を上げてしまったが、この国では全ての国民が『魔力』を持って生まれる為、生活の全てに魔力が必要になるのだ。
(魔力がないと水が出せない。台所の火も入れられない)
ドアでさえ、魔力を通さないと開かない場所があった。
……ただ、歳と共に、体力が衰えるように、魔力も衰える。
また、他国から来た魔力を持たない人間や、ごくまれに病気で魔力が使えなくなる国民の為に、魔力補助の道具も進んでいる。
「使えなくなるといっても、君は若いので、また魔力は戻る。不自由を掛けるが、その間はこちらで責任をもって面倒をみる。その期間がおよそ三か月だ」
事もなく云われたが、生まれた時から魔力と一緒に生活をして、その魔力を生かす仕事に就けた18歳には、魔力枯渇の生活はまだまだ先の話の筈だった。
それに本当に魔力が戻るのだろうか――?
戻らなかった場合を考えて、リュージュは背筋を震わせる。
顔色が変わったのが分かったのだろう、殿下がなだめる様に云った。
「宮廷魔術師が実験をしたので、それほど心配せずとも良い」
宮廷魔術師になるには、冒険者基準でA級以上の資格や、国への貢献による成果が必要だ。
魔術師の間では、最高峰の地位にある彼らを、疑うのは不遜だが……
「……質問をしてよろしいでしょうか?」
「構わない」
「宮廷魔術師の方々が使える魔法なら、何故、冒険者組合所属の魔術師への依頼が来たのでしょう?」
殿下は、少し眉を寄せ「最もな質問だな…」とつぶやいた。
横にいる組合長は既に話を聞いているのか、すました顔でお茶を飲んでいた。
「この魔法を作ったのは宮廷魔術師の長だが、彼はもう高齢だ。今回使うにあたり実験は彼の弟子が行った」
リュージュは頷く。
高齢の相手に、魔力量の多い魔法を使わせるのは酷だ。
「実験は成功したが、彼の専門は鑑定魔法ではない故に、計算よりも魔力が倍……とは言わないまでも、かなり消費された。その結果、目的の『鑑定』は一度きりしか使えなかった」
その一度で、魔法が正しく作用する事は保証されたが、そもそもの目的は果たされなかった。
「それが3ヶ月前。3ヶ月たってようやく、彼の魔力が戻ったので、この魔法は使えると判断した」
「使える……」
「そうだ。さすがに私も魔術師としての未来を潰してまで、この魔法を使用したいとは思わない」
第二王子は渋い表情だった。
魔術師長が作った際に試用した時は、
・魔法が作用したのは2回
・魔力回復までにかかった時間は2か月
だったそうだ。
…ちなみに実験は、魔術師長と弟子の独断専行。
…後で聞かされた王子はそんな危ない魔法だったのか……と青ざめました。




