2.王城で待っているひと
街は森林地帯を背に扇形に開かれていて、王城はその中心にあった。
この国は、大陸諸国のご多分に漏れず、幾つかの内外危機を経てきたが、今は割合落ち着いている。
王様は、現在6代目。
可もなく不可もないというのが、もっぱらの噂だ。
組合の仕事に王城からのものがあるのは、リュージュも聞いていたが、何も言わずに、こんな場所に連れてこられた事には怒っている。
だが、今更抗議しても遅いのも分かっている。
流されることなく、馬車に乗る前に問い質すべきだったのだ――出来るなら。
組合長に、腕っぷしは当然としても、口でも勝てたことのないリュージュは、大人しくその後をとぼとぼついて行った。
彼らを待っていた若い侍従に案内された場所は、平均庶民のリュージュ基準で見て、『めっちゃ豪華!』な応接室だった。
初めて入った時は気後れした、組合にあるお貴族様用の貴賓室だって、これに比べれば安宿のエントランスだろう。
(王城だから……この国で一番金と人の手が掛かった場所と思えば、当然ではあるのだけど)
歩いて来た回廊も広く荘厳だったが、薄暗かったので、そう気にはならなかった。
しかし、ここは窓から光が差し込んでおり、壁紙も調度もよく見える。
ほぇー…と見惚れているリュージュに「こっちだ」との声がかかる。
あわてて組合長の後に付いて、部屋の中心にあるソファセットに近づくと、すでに男性が一人座っていた。
「お待たせして申し訳ありません」
「いや、急ぎで呼んだのはこちらだ……受けてもらって感謝する」
頭を下げる組合長と一緒に頭を下げ、上げると、とんでもなく整った顔が目に入った。
艶々の真っ直ぐな紺色の髪と、神秘的な紫水晶の瞳――この部屋が『めっちゃ豪華!』なら、目の前にいる男性は『信じられないくらいゴージャス!』なイケメンだった。
(うわ!目がチカチカする…)
……あ、この美形は知ってるぞ。いや、まさか……
リュージュの記憶が激しく刺激された。
「リュージュ、お前も座れ」
気が付けば、組合長はすでにイケメンの向かいのソファに座っている。
「は、はい!」
組合長の隣に座ったはいいものの、顔を上げないリュージュに、美青年は普通の口調で言った。
「楽にして構わない、こちらは仕事を頼む立場だ」
そうは言われても、こんな展開予想してない。
ちなみに『イケメンは声もイケメンなんだな』、とリュージュの頭のどこかでは、余計な情報が書き加えられていた。
頭の中は花火大会の雑踏のような状態で、リュージュは、己が倒れてないのが不思議だった。
なのに隣の銀熊は、呆れたように言う。
「お前も、殿下の前では緊張するんだな。ほら、挨拶!」
予想通り、目の前にいるのはこの国の第二王子殿下だったが、リュージュの隠された記憶にある彼のポートレートには、別情報がでかいラベルで貼られている。
『攻略対象者:クール担当』
リュージュはそれを、気力を振り絞って頭の隅に追いやると、カラカラに乾いた口を開いた。
「お初にっ、お目にかかります。リュージュ・ネイビー、冒険者組合所属の魔術師で、階位はBマイナーです」
「ランヴァルドだ」
――知ってます。前世から。
元・婚約者のような『世迷い言』が飛び出しそうな口を、ギュッと閉じて、リュージュは深々頭を下げた。




