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前世詐欺にはご用心!  作者: チョコころね


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1/7

1.表通りの三文芝居


「リュージュ、君との婚約はなかったものと考えてくれ。僕は前世での恋人を見つけてしまった」


 婚約者のアルバートからそんな言葉を聞かされたのは、今日の11時半。

 一緒に昼食でもどうか?と誘われた場所に行ったら、アルバートの他に、ウェーブを描く長い黒髪の女性がいた。


「僕と彼女の前世は、敵対していた()()だったんだ。結ばれない定めを背負っていた二人は、生まれ変わって一緒になろうと言って、涙ながらに別れたんだよ!」


 アルバートの実家は割と裕福な商人だが、自分も彼もバリバリの平民だ。

 貴族に憧れるお年頃だとでも言ってほしいのか――少し夢見がちな男だとは思っていたけれど、大分夢見がちの間違いだったらしい。

 リュージュは冷静に、『元』婚約者になりつつある男の評価を、下方修正した。


 その横で腰を抱かれている女性も、おそらく平民だ。

 化粧の濃い美人で、これ見よがしに上部が露出された胸には、紅い貴石が燦然と輝いているが品がない。

 服も上流っぽく仕上げているが、貴族の家からの払い下げ――中古品だ。

 息をするように鑑定魔法が使えるリュージュには、簡単に分かる。


「許してくれリュージュ……彼女と再会してしまったからには、僕は彼女と生きる道しかない!」


 アルバートは自分に酔ったように手を額にかざし、斜め下を見ている。

 一応顔はいいので、役者絵のように決まってはいるが、リュージュは心中で大きくため息を吐いた。

 コイツこんなに馬鹿だったのか……と。


 アルバートの家は、リュージュの祖父の代からの付き合いだ。

 仕事一本で、17を過ぎても男っ気のないリュージュを心配した父が、歳の近いアルバートとの縁談をまとめてしまったのだ。

 リュージュは多少悩んだが、アルバートの家は裕福だったし、仕事は続けたままでいいと言われ、縁談を了承した。

 昨今、女性の就業は当たり前だが、まだまだ世間は独り身には厳しい。

 とりあえず妥協した結果だったが……なんだかんだ、最後は顔で決めたリュージュは、己の面食いを恨めしく思うのだった。


「アルバート、仕方ないわ……私たちは前世から結ばれた、運命の恋人なんだから!」

「おぉ!メリッサ……我が永遠の恋人よ!」


 目の前の茶番を、冷めた目で見てリュージュは、ため息を一つ吐いた。


「分かったわ、アルバート。今を限りに別れましょう、それじゃ……」


 貴族と違って書面を交わした婚約ではない。

 あくまで家同士の口約束だ。

 未練は全くないし、己の選んだ男の顛末を話せば、父もしばらくは大人しいだろう。


「あぁ、メリッサ!僕はなんて罪な男なんだ!1人の女性を不幸にしてしまった…」

「あなたの罪は私の罪よ!愛しい人」


 背後から聞こえる三文芝居を無視し、無駄に使ってしまった昼食の時間をどうやって補填しようと、リュージュは悩みながらその場を去った。




 リュージュ・ネイビーは、冒険者組合に登録している魔術師だ。

 階級はBマイナー。

 最上位はSSSだが、そんなのは歴史上の人物だけで、現在国で登録されているSS級は3人、S級は11人、A級はプラスとマイナス合わせて50人にも満たない。

 17で登録して、1年目にしては上出来の階級だった。


 急ぎの仕事が入っているか確認しに、リュージュは冒険者組合の事務所に入った。

 仕事がなければ、今日はもう切り上げて、ご飯がてら買い物にでも行こうと思いながら。


 だが、行く手には、満面の笑顔の友人が手を振って待っていた。


「聞いたわよぉ、リュージュ。婚約解消ですって?」

「耳が早いわね、レイチェル」


 そこそこ有名なレストラン近くで、開演されていた茶番劇だ。

 通行人に話を聞かれていても、何ら不思議はない。

 しかもゴシップ好きな『赤毛のレイチェル』の得意魔法は、聴覚に関するもので、その気になれば、街中で語られる噂話もフォローできるだろう。


「良かったじゃない、お(ウチ)の押し付けでしょう? まー確かに顔はイイ男だったけど!」


 面食いを当てこすられて、元々低かったリュージュの機嫌はさらに下降する。

 すべてがどうでもよくなってきて、とりあえず空腹を満たしてからにしよう……と、背を向けた彼女の肘を、たくましい手が掴んだ。


「話は聞いたぞ」

組合長(ギルマス)……」


 刈り上げた銀髪も眩しい、この街の冒険者組合の長(ギルドマスター)は、渋いじーさんだが、元S級冒険者で、今でも手が足りない時は現場に立っている。

 うんざりした顔で自分を見上げる部下に、ファンクラブ(非公認)を持つ組合長はハキハキと告げる。


「婚約者が逃げたンならヒマだな? ちょうど良かった、『氷眼のリュージュ』に長期任務が入ってる!」

「え~……」


 デリカシーの欠片もないセリフと共に、リュージュはずるずる引き摺られ、再び両開きのドアを通り表の馬車に連行された。



 今にも鳴りそうなお腹を抑え、説明を求めるリュージュに、組合長は「まぁ、待て。すぐ着く」と取り合わなかった。

 確かに、それから程なく馬車は止まったが、その場所は……


「王城じゃないですか!」

「おぅ! お城の仕事だ、払いはいいぞ」


 そんなこと聞いてない……リュージュは深く座席に沈んだ。




 

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