1話 神ー1
「聞こえますか……」
誰の声だ
「ん……」
「ここは…」
目を開けると白煙が一面を覆う場所に座っていた…
見渡す限りの白景色
確かおれ…家にいて弟と口喧嘩してたような
「起きましたか、ゆずりさん」
「顔を見せてくれますか?」
オレの名前を呼ぶ優しく暖かい女声
声の方に顔を向けると
「な……」
「なんだあんた…」
目の前には生まれて26年の経験からは想像もできないようないでたち
白髪に金の瞳
銀白のローブに身を包み今まで見たどの女よりも……可憐で美しい顔
女神がいたらきっとこんな顔なんだと思ってしまう程に見入ってしまう
「ふふ…私の顔に何かついていますか?」
美しい女性は困り顔で俺をのぞいてくる
「え……いや」
「すみません」
微笑みかける彼女に言葉が詰まる
こんな俺って…童貞丸出しの男だったろうか…
「起きて早々申し訳ないのですが」
「早速本題に移りましょう」
そんな挙動不審の俺をよそに綺麗な声で進行が始まる
本題?
「あの…」
「その前に状況を説明して…頂きたいです」
何はともあれわからないのはこの状況
周囲を見てわかる事が一つ…ここは日本じゃない
綺麗な瞳が動く
「そうですね……どこから説明したら良いものか」
困っている姿も美しい
とういか所作の全てがど真ん中を射抜いてくる
できるのならお付き合いを前提に結婚したいくらい
「ゆずりさん」
「はい!」
「ゆずりさん…あなたは亡くなりました」
「はい?」
「ですが、あなたの魂に刻まれた善行の数により好きな望みを一つ神力で叶える権利を与えられました」
「はい!?」
「では願いを…」
「ちょ!」
「ちょっと待ってください!!」
頭が痛い
今この人はなんて言った…おれ…本当に死んじまったのか
眼下には白煙が漂う
!!!
煙が晴れると…そこにはあったはずの足が…ない
「認め難いのはわかりますが、認めない事には前には進めません」
「ゆずりさん…あなたは弟の京介と口論になりその中激情した京介に刃物で心臓を止められました」
理解不能な文に意識が止まりかける…そんな…京介が…俺を?
そんな俺を嘲笑うように不鮮明だった記憶が流れ込む
ーーーーーーーーー
夕暮れの家
「お前も24になったんだからよ、散歩でもいいから外出てこいよ」
「部屋にいるから気が滅入って……はぁ」
リビングで久しぶりに顔を合わせた弟はヒゲも髪もボサボサで……
口にはできなかったが見ていて痛々しかった
………
無口な弟の声を最後に聞いたのは10年前…中学2年くらいの時
………
「なんか言えよ京介」
「なんでもいいから言ってくれよ」
………
「お前……母ちゃんだって心労で倒れてんだぞ」
「父ちゃんだってもう定年間近で…オレだって上司に無理言ってこっち戻ってきたんだぞ」
「俺たちが支えないでどうすんだよ、家族だろ」
………
弟は学校のいじめにより不登校になり社会と距離を置いた
わかってる…1番傷ついてるのは京介だって事は……わかってる、わかってるはずなのに
母は寝たきり、父は仕事に疲弊し白髪も増え、オレだって家の都合で戻って昇進も遠のいて……
「いつまで甘えてんだ…もう大人だろ」
うつ向いていた弟の顔が俺を見る
「今まで散々育ててもらって……はっ」
「これからは親の年金か生活保護で生きていけばいいって思ってんのか?」
今まで考えた事もない罵詈雑言が口に映る
グッ!
「人生舐めてんじゃねぇぞ!!一回外出てから悩めってんだ」
「このひきこも……」
!!!
そこからの記憶は曖昧で…覚えているのは今まで見た事もない京介の顔
ーーーーーーーーーーーー
「大丈夫ですかゆずりさん?」
「これで拭ってください」
手渡されたハンカチで涙を拭う
「思い出した……」
「なんであんなこと言っちまったんだ……」
思い出す京介の表情
「あいつ……泣いてたんだ……」
「大丈夫ですよゆずりさん」
「あの後京介は牢の中で改心し、社会復帰を果たしお母様お父様の介護を両方が亡くなるまで京介の家族と共に全うしました」
泣き崩れる俺と目線を合わせ優しく語りかけてくれる女神
「え………は?」
「ふふふ」
「今更かもしれませんが」
「私はあなたが生きていた次元の神様なんです」
神?
「なのでゆずりさんが亡くなった後の事も把握済みというわけです」
………
「神様…だったんですか…」
「はい!こう見えて神様なんです」
ふん!
優しく微笑んでいた女神様は立ち上がりそれそれは大きな胸を張っていた
「なのでゆずりさんの願いをなんでも叶えてあげますよ」
「本当になんでも言ってください」
「快楽に溺れたいでも美練な女子をメチャクチャにしたいとか、一生腰を振っていたいとか…」
!!!
………
「なんですか?」
俺の言葉にならない驚愕の表情を見て首を傾げる女神様
「いや…急に腰を振るとか、どうしたんですか神様」
目の前で美女に下ネタを言われるとこんな気持ちになるのか
てかそもそも彼女にもそんなど下ネタ言われた事ないぞ…見た目に騙されたがこの人…相当やばいんじゃ
ふふ
女神は下ネタを言っていないような雰囲気で微笑む
「これでも結構濁してますよ?」
濁す?
「あなたの脳内を覗くと、真っ先に叶えたい願望は…」
「美女とS○Xしたいとなってますよ?」
!!???
やばい女確定のお知らせ
「…………」
「覗くのやめてもらっていいですか?」
ふふふ
口に指を当てウィンクをする女神様…かわいい
「心配しないでください」
「誰にも言いませんから」
違う、そうじゃない
「まぁそういうのは置いといて」
「ここは神域と呼ばれるところで私と招待した人じゃないと入れない場所です」
「なので変に人の目を気にせず欲望のまま言ってください!」
人の目………か
「じゃあ」
「自由に生きてみたい」
「お金とか時間とか学校とか会社とか…誰かに強制されるんじゃなくて」
「自分の意思で取捨選択したいです」
「できれば文明がある世界で生きたいです、野に生まれても生きていけるか不安なので」
「あと魔法とかも使ってみたいですね」
「…………」
何か考えている神様
やはり神でも難しいのか
他者に干渉されずに生きたい…けど他者が作った文明は使いたいだなんて
究極の自分本位
パン!
「いいですよ、その願い!」
「誰にも自分の生きる道を左右されずに文明のある所で生きたい」
「これであってますか?」
女神は俺の欲望丸出しの欲望を叶えてくれるというのか…
「はい!」
「ではゆずりさん……神になりませんか?」
「はい?」
何を言っているのだ…この女神様は
「次元の神になればその次元を管理という仕事がありますが、基本的に自由に過ごせます」
「それに特典として何個か神通力がもらえるんです、私ならこの神域もその一つです」
「どうですか?」
神……か
まぁ異世界に行くならできるだけ強そうな役柄をもらいたいな…
それに中途半端に弱くても嫌だし
「はい!おね…」
「承諾の前に一つ!」
「神とはいわば統轄者なんです、自分勝手に次元を壊滅させるような行動を取った場合」
「多次元の神達により選抜された英雄達が神器を用いてあなたを殺しにきます」
殺…なんて?
不穏な空気が流れまくる
「これだけは何があっても忘れないでくださいね」
「あと次元生命維持率…まぁ人口が一定の水準を下回っても神不適合として神界で悠久の時間を修行してもらいます」
「この修行ってのが結構厳しいらしいんです…マジで」
え……
神様の顔は真剣だった
さっきまでのぱっちりおめめとは正反対の…いわゆるジト目
「あなたもそれを知って神様になったんですか?」
女神様は優しく頷く
てか、人口が減ったらダメって…どうすればいいんだよ
「その場合は神として世界を正すんです」
・・・
え……今俺何も言って…
「私心も読めるんですよ、神通力の一種ですね」
……
なるほど…それでさっきのS○X願望も言い当てたのか
まぁ別に性欲は恥ずかしい事じゃないし、見られて困ることでもない
うん…困ることは…ない
「世界の著しく人口が減少しているのならその原因を無くせばいい」
「天候、疫病、災害…………「殺戮者」とかね」
……
「神様もやったことがあるんですか?俺がいた地球で」
「もちろんですよ」
「ゆずりさんが生きていた時代からは想像もできないかもしれませんが、3億年前くらいに人間が……まぁこの話はいいです」
「つまり!我々神も地に降り立ち神という名を隠し生活しているという事です」
「その際自分を「神」と名乗ってはいけません、唯一許されるのは世界にイレギュラーが起きた場合のみです」
「それ以外で神と名乗る、もしくはバレてしまったらその世界の均衡が崩れます」
「これを聞いてもあなたは神として世界を調停してくれますか?」
神……まぁ2度目の人生だし、やってみるか神に!!
「お願いします!俺を神様にしてください!」
バン!!
音と共に白煙が無くなり頭上には魔法陣に似た大円が映し出される
「では新たなる神ゆずり、全能神により導かれた異世界で神の1柱として統括し均衡を保ち見事役目を果たさん事を願う」
光輪が俺を包み空へと持ち上げる
目の前の女神様が微笑む
「ではゆずりさん、良い神生を」
「お互い頑張りましょうね!!」
「いってらしゃい!」
ー俺の異世界人生が始まるー
「はい!」
「行ってきます神様!」
視界白くなり意識が遠のく
「………ん」
「ここが……異世界か」
「綺麗だ」
周りは草原、遠方には森が生い茂り…
上には満点の夜空
ピピピピ
ん?
手を見ると文字が浮き出る
次元生命維持率:73.2
生命維持率下降ライン:65%
これより下回ると神格者不適合となり楽園送りになります
要因:英雄不足による人種の減少過多
「これ……」
神様の忠告が思い起こされる
「下回ったら修行って……」
「もうすでにギリギリじゃん」
ははは
神様も楽じゃないのね……はは




