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勇者パーティーを追放された俺がチートアナルに覚醒してけつなあな確定な大括約〜肛壊してももう遅い。はいしか言っちゃダメ〜

作者: 今井精機

「お尻舐めたげる」もフレーズとしては悪くないと思うんですけど、全然定着しませんでしたね。


 ここは剣と魔法のよくあるファンタジー世界。


 例に漏れず魔王の脅威に晒されながらも、人類は決して絶望することなく戦い続けていた。


 大剣使いの戦士、ユートピア=ザッカーモードもまた、勇者パーティーの一員として、魔物たちと熾烈なバトルの日々を送っていた……。


「……っていうわけだからさぁ、その辺わかってほしいわけなんよ。こうして平和に働けているのもさぁ、俺らの活躍あってのことなわけじゃん?」


「それは……感謝はしてますけど……」


 今は戦闘中ではない。男女の駆け引きも一種の頭脳戦だとする派閥もいるが、少なくとも魔物と戦ってはいない。


「だったらちゃんと行動で示さないと。誠意っていうのは言葉じゃ伝わらないものだからさぁ」


「そう言われても……困ります……」


「困らない、困らない。別に難しい話じゃあないんだから。まぁ、実際やってみるのが一番だよ。取り敢えず俺の部屋に招待するからさ、そこで感謝の示し方を教えてあげるよ。セントラルホテルのスウィートルームだから、居心地も最高だよ? スウィートルームなんて泊まったことないでしょ?」


 とにかく勢いで捲し立てる。相手の反応などは関係ない。


 こういうときは、押して押して押しまくるのが彼のやり方。そして最適解。彼にとっては。


「あぁもうユーくん! また女の子困らせてるっ! 強引なのはダメだって何回も言ってるのに!」


「ちっ……またうるせーのが来たよ」


「ごめんねぇ、ユーくんはあたしが相手するから、仕事に戻っていいよ」


 そう言って、女性従業員を無理矢理に解放させたのはユートの同僚。


 勇者エグニスの仲間の一人、神術士のフィーナ=ファルスタシアだった。


 闇狩人のラゴクェス=ドートンと共に、一つのテーブルを囲んで座る。


 因みにこの男、根暗な陰キャだがチー牛ではない。顔面レベルはそこそこ高い方と言えた。ま、俺ほどではないにせよ?

 ……というのがユートの言である。


「今さぁ、相手してくれるって言ったよね? それってつまり、フィーナがエロいことしてくれるって意味でいいんだよな?」


「ち、違うよ! そういうことじゃなくって……」


 真っ赤になって否定する。


(この反応は紛れもなく処女の証……故に俺は、彼女に対して必要以上にゴリ押しはしない。これ、紳士の辛いところね)


 ユートは優雅にワインを煽る。


(まぁ焦ることはない。甘酸っぱいもどかしさを楽しむこともまた一興。俺はこの青さはなくさない)


「っていうか、お酒飲み過ぎだよ。明日もアイギスの塔攻略があるっていうのに……」


 アイギスの塔、とは魔王軍によって建設された巨大にして堅牢な要塞である。


 大陸中央部に聳え立つその塔は、強力な魔力結界を維持するための制御装置であり、その影響により周辺の海は常に激しい嵐に見舞われ続け、現状人間の持つ造船技術では脱出不可能。この大陸そのものが牢獄と化してしまっているのだ。


「焦んなって。あそこは千年間もの間、難攻不落のままなんだぜ。じっくり攻略するしかないんだから、こうして無事帰還できたときくらいは、パーッと羽目を外してだな……」


 現在踏破できているのはおよそ3分の2程度。上階へ進む程に敵やトラップは苛烈さを増していき、危険度は否応なしに高まる。まだまだ先は長いのだ。


「……そうやってオレたちがのんびりしている間に、罪もない人たちは命の危機に曝されているんだ……それでいいのか?」


「おいおい、どうしたんだよエグニス? お前らしくもない。もっとゆる〜く行こうぜ、いつも通りにさ」


 真打登場とばかりに、あとからやってきたのは勇者エグニス。


(妙に辛気臭い顔をしているな。更年期障害か?)


「さっきのやり取りも聞こえていたよ。モンスターと戦っていることを盾にして、女性に無理矢理なんて……あれじゃあ魔王軍と変わらないじゃあないか」


「は? いやいや、違う違う、違うんだよエグニス。あの娘は口では嫌がる素振りをしていたけど、本心は違うんだよね。本当は俺とえっちがしたくて堪らないんだけど、そんなすぐOKしたらドスケベな女のコだと思われるんじゃないかとか、誰にでもすぐ股を開くヤリマン扱いされないだろうかとか、色々と不安や心配がゴチャゴチャになった結果が、あういう態度に繋がっているんだな、これが。まぁ、童貞のエグニスにはわからないか。このレベルの話は」


 めっちゃ早口で言ってそう。っていうか言ってる。


「そうかなぁ……本気で困っているように見えたけど」


「まぁ、処女のフィーナにもわからないか。このレベルの話は」


「とにかくだ。キミに態度を改めるつもりがないのなら、もうユートと一緒にパーティーは組んでいられない。既にティフィーロさんにもその意思は伝えてきた」


「落ち着けってエグニス。なんか嫌なことでもあったんか? そういうときはホレ、酒でも呑んで忘れっちまうのが一番だぜ」


 三分の一くらいにまで目減りした高級ワインのボトルを差し出す。


 しかしエグニスは微動だにしない。


「オレは冷静だよ。そしてわからないならはっきり言うよ。ユートピア=ザッカーモード……キミをオレたちのパーティーから……追放する!」


 ざわついた。周囲の空気が。


「え……えっくん! 追放って、そんな……いきなり……!」


「そんな驚くことでもないだろう? フィーナたちだって、ユートの件で頭に来てたのは一度や二度じゃなかったわけだし」


「それは……でもそういう時、いつもえっくんが反対してたのに……」


「はぁぁぁ? お前らまでそんなこと思ってたのかよ……ったく、恩知らずというかなんというか……あのなぁ、このパーティーの要が誰なのか、よーく考えてみ? へっぽこヒーラーに、使い所の微妙な器用貧乏、それに防御力しか取り柄のないタンク勇者。エースにしてDPS担当の俺が抜けたら、一体誰が敵を倒すっつーんだよ、なぁ?」


「3人パーティーになるわけじゃない。代わりの人を入れるさ」


「出た出た。ブラック企業あるある。お前が辞めても、代わりはいくらでもいるんだぞーってか? ないない。そうやって深刻な人材不足に陥ってるマヌケがどんだけいると思ってんだよ。その上、俺程優秀な人材となれば、まぁまず間違いなく見つからんね。だからホレ、アホな妄想に浸ってないで、呑め呑め」


 しかしエグニスは態度を改めることなく、無言で振り向き歩き出した。


「え、えっくん! ちょっと待ってよ! ラグくんも、このままでいいの!?」


「……僕はエグニスを優れたリーダーとして認めている。彼がそう決めたのなら、従うだけだ」


 ラゴクェスも静かに立ち上がり、エグニスを追って酒場を出る。


 フィーナに関しては大分後ろ髪を引かれているようで、両者の間で視線を行ったり来たりさせていたが、やがてラゴクェスの後を追って消えていった。


「ちっ、勝手にしろよ! 後悔しても知らねぇからな! おい、酒追加だ! 早く持って来い!」


 ユートは心底呆れ果てたとばかりに、最後の忠告を大声で伝えてから、残っていたワインを一気にラッパ飲みした。


「……いいのかい? きちんと謝って心を入れ替えれば、多分許してくれると思うけどね」


 視線を向けずにそう呟くのは、この酒場を仕切る女主人・ティフィーロ=サウザリヴァ。


(はぁ……相変わらず男の立て方というものをまるで弁えてねーのな。いずれは1人淋しく死んでいくんだろう。別にどうでもいいけど)


「アホ抜かせ。謝るのはあいつらの方だろうが。くだらねーこと言ってねーで、いいから酒持って来いっつーの」


「まぁ、私としては構わないけどね。金さえ持っていれば、平等に客として迎えてやるさね」


 ひらひらと、片手を振りながら去っていくティフィーロ。


「まったく……どいつもこいつも……」



 1週間後。



 未だにエグニスたちは詫びを入れに来ない。


「ちっ……素直に謝れば許してやるってのに……時間が経てば経つ程、顔を出し辛くなることくらいわかりそうなもんだがな……」


「おや、驚いた。今日も酒浸りとはね」


 鬱陶しいことに、またもやティフィーロが話しかけてくる。酒が不味くなるからやめてほしいものだが、といかにも面倒くさそうな視線を向ける。


(まぁ、男日照りの身なのだから多少は大目に見てやるとするか。この俺の女になれれば、これまでのしょっぱい人生も帳消しになる一発逆転を決められる。そんな儚い夢でも抱いているに違いねーんだからな)


 叶うはずのない望みだとしても、今この場で打ち砕かれるというのは酷というものだ、と。


「今まで忙しかったからな。エグニスの頭が冷えるまで、ちょっとした休暇を過ごすのも悪くねーさ」


「……ひょっとしてなんだが、知らないわけじゃあるまいよね? 今日エグニスたちがこの大陸から旅立つということを」


「……は?」


「呆れた。ニュースでも大々的にやっていただろう。イグニスの塔攻略に成功して、新大陸への航路が拓けたって」


「し……知るかそんなこと! 俺はニュースなんか見ねえんだよ!」


 ニュースを見ないこと。それは最強たる条件の一つなのだから。


 *


「おらおら! もっとスピード出せんだろーが! ちんたらしてねーで早くしろっつーの!」


「無茶言わないでくださいよ。これ以上スピード出したら違反取られちまいますから」


 ユートはタクシーに乗り込み、港町ポルタを目指していた。


 ティフィーロが言うには、

「エグニスたちは3日前にアイギスの塔を攻略したんだよ。この大陸を孤立させていた悪魔の渦も無事消滅し、出港準備も万端に済ませて、いよいよ魔王軍の本拠地たる、暗黒大陸へ向かうというわけさ。かくいう私も、細やかなエールと支援物資を贈ってきたところでね……」


「ふざけやがって……! あいつら今まで手を抜いてやがったに違いねぇ……! じゃなきゃあの塔をこんなにあっさり攻略できるわけがねぇんだ。ボッコボコにしてやらねーと気が収まらねぇ……!」


「荒れてますねぇ、兄さん。妙な事件とか起こさんでくださいよ? アタシまで加担したみたいで寝覚めが悪い」


「うっせぇボケ! テメーは言われた通りに運転してりゃあいいんだよ! あともっと飛ばせハゲ!」


 そんなこんなでタクシーを走らせること20分。ティフィーロから聞いていた埠頭には、大きく豪勢な船が停泊していた。


「どこだ、あのクソどもの船は……」


「あっ、ユーくん! 見送りに来てくれたんだね!」


 辺りをキョロキョロと見回していると、飛んで火に入る夏の虫とばかりに、屈託のない笑顔のフィーナが駆け寄ってくる。


 まるで状況を理解できていない能天気さに辟易しながら、ユートはその襟首を容赦なく掴み上げた。


「えっ……? な、何っ!? 苦しいよ、ユーくん……」


「お前は馬鹿か? なんでこの俺が裏切り者の見送りなんかしなくちゃあいけねぇんだ? 俺がここに来た理由は唯一つ。舐め腐った真似をした奴らに、きっちり落とし前を付けさせてやるため……」


 ギリギリとフィーナの首を締め上げるユートの腕へと、音もなく別の腕が伸びてきた。


 そのことを認識するかしないかの内に、彼の腕は可動域外まで無理矢理に捻じ曲げられ、握力は瞬く間に失われてしまった。


「ぐああああっ!? だ、誰だ、この俺にこんな大それたことをする奴は⁉」


「当然の報いだと思うけれどね。非力なヒーラー、しかも女性に対して暴力を振るうようなゲス野郎には」


 そこにいたのはグレイス=ダイワー。


(なんでこのクソアマがここにいんだよ……? 女のくせに俺よりも高身長で、しかも態度までデカイときた、掛け値無しのゴミカスクソ女が……ことあるごとに俺等に突っかかってきては喧嘩を売ってきていたもんだが、その厄介極まりない粘着癖は相変わらずってわけか)


「なんだとこのクソメスがぁ……これは俺等パーティーの問題だ! テメェには関係ねぇだろうが!」


「はぁ……こんな言い回しを使う日が来ようとは夢にも思っていなかったけれど……その言葉、そっくりお返しするよ」


「あぁ? 何をわけわかんねぇことを……」


「貴様は既にパーティーを追放された身。そして私はその穴を埋めるために加入した補充メンバーだ。どちらが無関係かなど、考える余地もないと思うけれどね」


「補充メンバー……だと……? なんでよりにもよってテメェが……? おいフィーナ! こいつの言ってることは本当なのか⁉」


「はぁ、はぁっ……ほ、本当だよ。けほっ……」


「おいおいおいおい、正気かよお前ら……散っ々俺らにイチャモンつけたきたクソアマをパーティーに入れるとか、頭腐ってんじゃあねえのか?」


「勘違いするな。私が不快に感じていたのは貴様だけだ。貴様がさっさと抜けるか死ぬかしてくれていれば、もっと早くにエグニスの誘いを承諾していたことだろうに」


「んだとぉ……喧嘩売ってんのか⁉」


「単なる事実だ。エグニスたち3人は極めて優秀なメンツだと認めていたが、足手まといのおもりをしながらではその力を十全に発揮できていなかった。何度も苦言を呈していたものだが、漸く真摯な言葉が届いたというわけだ」


 瞬時に頭の中が沸騰する。ユートは思考するよりも早く、グレイスの胸倉へと掴み掛かった。


 が、次の瞬間。彼の身体は宙を舞い、背中から強かに打ち付けられてしまっていた。


「無謀な喧嘩を売るなよ。弱いんだから」


 その目はどうしようもなく冷ややかで、まるでゴミでも見るかのように無感情だった。


「……このクソが……ちょっと体術使えるからって調子こいてんじゃねぇぞコラァ!」


 四次元空間から武器を取り出す。


 アイテムの持ち運びに余計なリソースを割かないで済むよう、冒険者が習得する基本魔法の一つだ。


「ユーくん! 武器は駄目だよ!」


「構わないさ。こいつの腕では、私に触れることさえ不可能なのだから」


「だったらテメェもさっさと武器を出せよ。ま、今ならまだ全裸で土下座でもすりゃあ許してやらんこともないがなぁ」


「どこまでも品のない男だ。こちらは無手でも構わないのだが、なけなしの良心が痛むというなら、用意しよう」


 グレイスが取り出した武器。


 それは木製の長い柄の先に、撚り合わせた毛糸がいくつも取り付けられた物……一言で表すならば、ただの掃除用具だった。


「モップ……だとぉ……? このクソアマ、どこまでオレを馬鹿にすれば……」


「馬鹿になどしていないさ。実力差を考えれば、当然のハンデだよ」


「そうかそうか、お前はそういう奴なんだな。確かにそれはアリだ。負けても武器の性能差に出来るもんなぁ? それとも、まともな武器を持たなければ、オレが攻撃してこないとでも期待したか?」


「まさか。貴様にそのような殊勝さなどあるはずがない」


「ククク……そうかそうか。その通りだよッ!!」


 ユートは一切の躊躇いなく、グレイスの頭上へ屈強なる大剣を振り下ろした。


「ぐーたん!?」


 しかし、その剣が獲物を捉えることはなかった。


 グレイスが素早く振り上げたモップの柄によってユートの腕は軌道をずらされ、勢い余って蹌踉めいてしまったからだ。


 一方グレイスの方は体勢を崩すことなく、大剣の軌道を変えた勢いそのままに一回転。


 遠心力も加わった強烈な一撃を延髄へと御見舞いされ、敢え無くノックアウトと相成った。


「ぐぼあぁぁっ……!! ば、馬鹿な……この俺が、ユートピア=ザッカーモードが、女の細腕なんかに、やられるわけが……」


「何もおかしくなどない。それが貴様の実力だ。力任せに暴れるだけの脳筋が、これまで無事でいられたのはエグニスたちが必死でフォローしていたからだと言っただろう。あとフィーナ、さっきの『ぐーたん』とかいうのはなんだ?」


「え? あたしが考えたあだ名だけど?」


「二度と呼ぶな。危うくずっこけるとこらだった」


「えぇ〜!? 可愛いと思うんだけどなぁ……」


「ふ、ふざけんな……オレは、足手まといなんかじゃねぇっ……!」


 敗北者をおざなりにしてのガールズトークに割って入る。ガイアか貴様ッ!


「事実だ。貴様が余計なダメージを受けてばかりいるために、フィーナは回復で手一杯になり、有用なバフに回す魔力や時間を捻出できずにいた」


 グレイスは淡々と述べる。


「命中率も低いため、ラゴクェスは敵の動きを制限するためのバステ付与やデバフに掛かりっきりとなっていた。闇狩人のスペックを考えれば、敵の弱体化を行うと同時に、自身も攻撃に参加できて当たり前のはずなのに」


 ユートにとっては初耳ばかりの事実を。


「そして、敵の撃破に手間取っていても、パーティーが壊滅しないでいられたのは、エグニスという極めて優秀なタンクがいたからに他ならない。率先して自らの身体を張り、仲間たちを守護り続けた彼に対して、貴様は感謝の念を持っていたのか?」


 ない。


 あるわけがない。


 酒の席では毎回決まって、敵の撃破数でマウント取りに勤しんでいたのだ。


 敬意とは、ユートから最も遠い概念だよ。


「その装備品もそうだ。武器はともかく、本来優先すべきタンクやヒーラーよりも、貴様の装備新調を真っ先に行なっていたことにも……」


 グレイスの声が遠くなっていく。


 どうやら頸部にある血管系にもダメージを負っていたらしく、意識が段々薄れていく。


 そういえば、首には視神経も通っているんだったか、視力が落ちたら嫌だなぁなどと考えつつ、ユートは闇の中へと沈んでいった。


 *


 翌日。


「オラオラ! さっさといつもの酒出せ! あくしろよこの野郎!」


 ユートは元気に回復し、しかし苛立ちはマックスの状態でいつもの酒場へとやってきていた。


「おい、聞いてんのか!? いつもの持って来いっつってんだよ!」


 近くにいた女性従業員に怒鳴り散らす。


 が、相手は首を傾げて立ち止まる。


「……えっと、所持金が足りないみたいなんですけど」


 剣と魔法のこの世界では、現金での遣り取りなどは行われない。


 所持金額は公開ステータスとして必要に応じて自動で参照・決済が行われる。


 無数の決済方法が乱立し、業務効率をクッソ低下させるような馬鹿げた事態に陥ってはいないのである。


「はぁ? 足りねぇわけが……」


 文句を垂れつつ、念のためにとステータスを確認する。


 所持金80ドンペソ。もうだめぽお。


 無言で使用履歴の確認に移る。ジュースを買ったハゲではない。最新の利用は、高額な治療費となっていた。


「あいつら〜……! 治療費を俺持ちで請求しやがったな……!」


 パーティーを組んでいる場合、メンバーの支払い決済は基本、グループの所持金から優先的に行われる。


 既に追放されたユートはその対象にならないということを失念していた、フィーナのうっかりミスであり、故意ではないということにユートは気付いていなかった。


「ウチは慈善事業ではないからね。ツケで酒を飲ませるわけにはいかないよ」


 すぐ近所にあるホストクラブに於いてはその限りでなく、寧ろ積極的に売掛金でボトルを注文させようとしてくる。


 若い女ならばいくらでも回収の手段はあるというわけだ。


「ちっ……わかったよ。じゃあちょこちょこっと稼いできてやるから、さっさとパーティー加入の手続きしろや。先週から申請してんだろうが。いつまで待たせんだよ?」


「そちらについても我々にはどうしようもないね。キミを加入させたいと言ってくれるパーティーがいないことにはどうにも、ね」


「はぁぁぁあ!? それはてめーらの営業力が足りてねぇだけだろうが! 勇者パーティーのエースとしていくつもの実績挙げてるこの俺が、引く手数多じゃねぇわけねぇだろが!」


「そう思っているのはキミだけ、ということでは? 普段からの粗暴な振る舞いを知っている者は勿論のこと、直接キミとは関わり合いがない者も、エグニスには世話になったという手合いは少なくない。彼の場合、人助けが趣味なのかと思う程、困っている人を見れば放っておけないタイプだったからね」


「今はそれ、関係ねーだろ!?」


「大有りさね。そんな出来過ぎた人格者のエグニスにパーティーを追放されるとなれば、当人の方に相当問題があったはず、と思われて避けられたとしても仕方ないことじゃないか」


「ぐ……じゃあどうしろってんだ!? パーティー組んでなきゃ、碌な仕事回さないのがギルドの奴らじゃねーか!」


「知らないよ。危険度の高い高報酬の依頼を回したけれど、有事の際に音信不通、ではギルドの信用を落とすことになるんだから、当然のリスク管理だろうし。単価の安い素材集めくらいなら紹介してくれるんじゃない?」


「ざっけんな! そんな底辺の仕事やってらんねーつうの! あんなんやる奴らは、体よく労働力を搾取されてることにも気付けねー大間抜けだけだろうが!」


「働きもせず、毎日呑んだくれてる誰かさんよりかは遥かに立派だと思うけどね」


「ハハッ、まぁそう言うしかないだろうなぁ。労働力を不当に搾取して、汗水垂らさず金稼ぎに興じている身としては、さ。ハハッ」


 2人の会話に割って入る者がいた。


 趣味嗜好なのか、薄毛の進行に対しての諦めなのかはわからないが、ツルッツルのスキンヘッドな、いかつい風体のオッサンだった。


 ガタイの良さも相まって堅気の人間には見えないが、どこかコミカルな雰囲気を醸し出しており、怖いという印象は受けなかった。


「……それは自己紹介のつもりかな? 奴隷商人のティンカース=コヴィリッツィド殿?」


「失礼だなぁ。クライアントと高スキルのスペシャリストとの橋渡しに奔走する善良な仲介人を捕まえて」


「物は言いよう、にも限度というものがあるだろうに」


「まぁ、それはあんたの感想だろうから、ご自由に。これ以上無駄な論議を交わす必要もないよ。本日は他でもない、伝説の戦士であるユートピア様のスカウトに参ったんだからね」


「オレを、スカウトだと?」


 ユートは慎重に聞き直す。


 グレイスに打ちのめされ、ティフィーロにボロクソ言われたことが響いており、自尊心に揺らぎが生じていた故の行動だった。


 尤も内心ではやっぱりな、それ見たことかと小躍りを始めていたわけだが。


「ええ、クライアントはユートピア氏のことをいたく評価してましてな。もしスカウトに失敗しようものなら、この首が胴体とおさらばするやもしれぬ迫力で依頼されたんですわ」


「余計なお世話だろうが、忠告はしておくよ。そいつは人間のクズだ。口八丁の甘言でだまくらかして、ボロ雑巾になるまで絞り尽くしては廃棄するというやり口で、底辺の人間を食い物にしている度し難いクソ野郎だ。耳を貸したら終わりだよ」


「ハハッ、怖い怖い。ユートピアさん、こんな女狐に騙されちゃいけませんよ。自分のとこよりいい条件を提示するスカウトに対して、こういう陰湿な人格否定で妨害してくる厄介さんなんですからねぇ。あ、一応こういう条件がクライアントからは提示されてるんですが、どうですかね?」


 契約内容を示したウインドウが表示される。


 それは、破格といって差し支えないものだった。エグニスパーティーにいたいた頃と比較しても、ざっと2.5乗の好条件。


 が、いきなりそこまでインフレされると、却って怪しさも増してしまうというもの。


「どうしたんです? ユートピアの旦那を雇い入れるとなれば、これくらいは当たり前だとクライアントは仰っていたんですがね。あぁ、それとも不足ですかねぇ? 交渉次第ではゼロの一つや二つは足せる雰囲気でしたけども……どうです? 受けるかどうかは別として、話だけでも聞いてやっちゃくれませんか? あっしの顔を立てると思って」


 ハゲの顔を立てる義理などはない。


 しかし、無碍に断るにはあまりにも魅力的すぎる案件だった。


「ま、話を聞くくらいなら……」

「流石旦那、話がわかりますなぁ。では早速、外にハイヤー用意してますんで、ささっ、どうぞどうぞ」


「あ、お、おう……」


 背中を押されながら、ユートは酒場を後にする。


「いいんすか、店長? あのまま行かせちゃって」


「忠告はしたしね。ガキじゃあるまいし、自分の行動の責任は自分で負わせるさ」


「ふーん。厄介払いできてせいせいしたとか思ってないっすか? 因みにあたしは思ってます」


「ははは、さぁ、無駄口叩いてないでお仕事に励まないとね」


 などという会話は、無論届いていなかった。


 ユートが乗り込んだハイヤーの座席は、シートも備え付けの調度品も一級品で、いつぞやのタクシーの乗り心地とは天と地ほどの開きがあった。


「いやー、安心しましたよ。これであっしの首も繋がったってもんですわ。目的地まではまだまだ時間ありますんで、どうです、一杯?」


 そう言って手渡されたのは缶ビール。キンッキンに冷えてやがる。


 アルコール摂取のタイミングを逃していたユートにすれば、まさしく渡りに船。一も二もなく受け取った。


「ハハ、それじゃああっしも失礼して。最高の巡り合わせに、乾杯」


 もう一本の缶ビールを開けたヒゲハゲと、軽く缶を突き合わせてからグイッと呷る。


 程よい苦味と心地よい刺激が喉を駆け抜けていくこの感触は、何度味わっても堪らない。


「くぅ~……染みるぅ〜……」


 ユートは目を閉じ、静かなる歓声を漏らす。こんなもんでいいんですよ。人が生きる意味なんて。


「そうだ、時間かかるならその間に教えてくれないか? そのクライアントってのは、俺に何してほしいんだ?」


「ん~~……説明してもいいんですが、ま、やめときましょ」


「なんでだよ。そんな勿体ぶるほどのもんなのか?」


 相当に危険なクエストなのだろうか。まぁオレの実力をもってすればどうということもないだろうが、とユートは更にビールを呷る。


「そういうわけでもないんですがね。どうせ向こうに着いたらわかることだし、そもそも最後まで聞いてらんないでしょ」


「はぁ? 何言ってんだよ。もしかして、たかがビールの一本や二本で、この俺が酔い潰れるとでも……」


 ユートの反論は終わりまで紡がれない。急に目の前の景色が揺れ動き始め、どちらが上で下なのかもわからなくなってきたがために。


「調べはついてるんだよね。薬物を含む状態異常耐性は味方の神術士頼り。ハハッ、駄目じゃない。ソロで動こうとするんなら、相応の耐性値は確保しておかないと」


「ぐっ……てめぇ、一体……なに……」


 ドサリと音を立てて、ユートの身体はハイヤーの床へと倒れ込み、程なくして完全に意識を失った。


 *


 微かに聞こえてくる物音。


 水の弾ける音だろうか。


 ぼんやりと耳へと届くだけだったそれは、段々はっきりと聞こえるようになってくる。


 近付いてきている……わけではない。


 近寄っているのは寧ろ、ユートの意識。


 徐々に覚醒し始めていることによるものだった。


「……ここは……何処だ? 俺は、一体……」


 重い瞼を開いても、眩しくは感じなかった。薄暗い部屋の中だったから。


「……くっせぇな。なんだこの臭い……何がどうなってんだ……?」


 まずは状況を把握することが重要と、部屋の中の様子を探ろうとする。


 しかし、それは叶わなかった。


 身体が動かないのだ。


 麻痺しているとか、縛られているとかではない。手足は動くし、感覚もはっきりしている。


 動かせないのは体幹部。ユートの腰周りは壁に開いた穴にぴっちりと埋め込まれており、前に進めなければ、後ろにも下がれないのだった。


「なんだ……こりゃ……誰が一体こんなことを……」


 心当たりに思い当たる。ティンカースとかいう名前のハゲ野郎。というかそれ以外にはあり得ない。


(あのクソアマ、ハゲが悪人だって知ってんならもっとちゃんと止めろよな。帰ったら二三発ぶん殴るか……いや、それより慰謝料としてバイトの娘を一晩差し出させた方が……)


 自分の不利益は徹底して誰かのせい。


 こうも鮮やかな他責思考を持てたなら、人生における大体の悩み事からは開放されることだろう。


 周囲の人間の寿命はストレスでマッハだろうが。


「おいハゲ! 俺をどうするつもりだ!? 聞こえてんだろ!?」


『はいはい、聞こえてるよ〜。漸くお目覚めみたいね』


 ユートの前方に、ハゲのバストアップが映し出される。暗くてよくわからなかったが、液晶モニターが設置されていたらしい。


「ざっけんな! この俺に何してくれてんだ!? さっさとこの板外せ!」


『まぁまぁ。そんなに怒鳴らなくても、お仕事終わったら解放してあげるから、おとなしく待っててよ』


「仕事だぁ? こんな状態で一体何を……」


「おっ、開いてんじゃ〜ん。へぇ、これが現在最強と言われてる、かの勇者パーティーの一員かぁ〜」


「元、な。流石に現役メンバーに手を出すわけにはいかねぇよ。いかねぇな」


 背後から、複数の足音と声がドヤドヤと聞こえてくる。振り向くことすらままならない今のユートには、詳細を知る術などないが。


「んじゃ早速」


 状況を把握することも出来ない内に、ユートのパンツへと無遠慮に掛けられたゴツい両手が、ぱんつ諸共に引き下ろしてしまった。


「お、おいィ!? 何やってんだお前らぁ!?」


「落ち着けよ、ユートちゃん。まだ何もしてないって。ヤルのはこれからだっての」


「おあっ!?」


 剥き出しになったユートのケツへと、滑り気のある液体がドロドロと流し垂らされる。


 程よく人肌に温められた粘液が垂れ落ちていくと共に、ユートの体温と鼓動がみるみる内に高まっていく。


「な、何を掛けてんだよ……んほぉい!?」


「魔法で造られた特製の媚薬ローションだよ。身体に害はないから安心しなよ。単独でならだけど」


「多分初めてだよな? なら中の方にもたっぷりと塗り込んでおかないと」


 ごつごつと、節くれ立った細いモノが、防壁を押し拡げながらぐりぐりと侵入してくる。


 これは指だ。オッサンの指が、けつなあなに突っ込まれているのだ。やめるのだ。そこはうんちを出し入れする穴なのだ。


「んひっ、お、おごっ、おごっほおおお!?」


 未体験の強烈な異物感。痛みと拒絶反応しか湧いてこないはずのその行為に、何故かユートの肉体は恍惚の悲鳴をあげてしまう。


「効くだろぉ? 魔法のローションの効果は絶大だからな。さて、こんくらいほぐせば充分か。それじゃあ本格的に、天国まで連れてってやんよ」


 けつなあなから指が引き抜かれ、一息つけたのもほんの束の間。

 

 指よりも野太いモノが、くぱぁと開いたままヒクヒクと震える入り口へとあてがわれる。


「や、やめ……ろ……やめへ……」


 見えていなくとも、それがなんであるかは明らかだった。


 ついでに懇願しても無駄だということも明らかだったわけだが、それでも拒絶の意思を口にせずにはいられなかった。


「やめるわけねぇって……の!」


 臀部を両手でガッチリとホールドされ、太くて硬いモノが一気に最奥までぶち込まれた。


「おごおっ!? んお、おっほおおおお!?」


 ユートに電流走る。


 いや、本人の感覚としては、そんな生易しいものではない。


 全身水浸しの状態で落雷を浴びた後、吉田沙保里に釘バットでぶん殴られたような感じ、と言えば伝わるだろうか。いや、そんなはずはない。


(俺は……どうしたらいい? この快感をどうしたらいい? 亀頭の先っぽがビクビクする。下の口の中はドロドロだ。ケツの奥が熱いんだ!)


 どうもせんでよろしい。


 というか身動きも取れないのだから、考えてみたところで意味などない。


「気持ちいいぜ! こいつのケツマンコ超気持ちいい!」


 ユートを犯す男が心の底から喝采を上げる。ギッギッというベッドの軋む音が聞こえてきそうだ。カーペットの上で四つん這いにされているというのに。


「おほおオオオ!? んご、おごおおおおん!? も、もう動かすなっはぁ! 壊れる、壊れりゅ! おかひくなっひゃうううう!?」


「今更、やめられねーな、やめられねーよ。こんなに気持ちいい極上のケツマンコは、これまで味わったことがねーほど、だからな

!」


 ユートの願いとは裏腹に、男のピストン速度は際限なく速まり、肉体のぶつかり合う快音は止むことなく鳴り響き続ける。


 永遠に繰り返されるかのように思えた悦楽地獄。


 しかし実際には、そんなに長くは続かなかった。


 獰猛! それは爆発するかのようにとかなんとか。


「ぐぅっ、そ、そんなに強く締め付けられたら……も、もう……射精るっ……!」


 男はユートの最奥部で激しくのけ反り、痙攣し、そのまま動きを止めた。


 性欲衝動を停止……イッたのだ。


 男の性欲は基本的には出せば終わる。が、受け入れる側であるユートにとってはそうではない。


「んぎいいいいい!? 出てりゅううううう! 特濃のドロドロザーメン、けつなあなに注がれてりゅううう!? お、おっほおおおお!? らめ、らめらめらめぇぇぇぇ! これ絶対らめなやつぅぅぅぅ!?」


 エロゲヒロイン特有のセックス実況を披露するユート。


 誰に指示されたわけでも、師事したわけでもあるまいに。


 まったく才能というやつは、どこに転がっているかわかったものではない。


「おほ、おっほおおおおん! もうらめぇええ! 俺までイッグウゥゥッ!? けつなあな犯されてイッちゃうのおおおおん!?」


 余談だが、ユートを拘束する板壁の一部は柔らかいシリコンゴム素材で出来ている。


 それは丁度腹の下辺りで、硬く勃起して反り返ったちんぽの先が当たっても痛くないように、との配慮によるものだ。


 それは見事に功を奏し、ユートはけつなあなを犯されると同時に、陰茎にも十二分の刺激を受けることとなり、見事なまでのシンクロ射精をするに至ったのである。


 けつなあなの中に精液を注ぎ込まれながら、自らもまた精液を発射する背徳的行為。


『尻毛を煮る』と共に古来よりの伝承として語り継がれてきた、所謂『トコロテン射精』の実現だった。


「おいおい……早すぎんだろ、この早漏が。そんなんじゃ、全然足りな……くはないかもしれねーが、情けないヤローだぜ」


「うるせーな。こいつのケツマンコが気持ち良すぎんだよ。これあれだわ、絶対やってるわ。まったく、とんだチートアナル持ちがいたもんだ」


 もはや飛ぶ寸前の、朦朧とした意識の中でユートは思う。


(チートアナル……そういうのもあるのか)


 はは、ねーよバカ。


「ほら、出したんなら代われ代われ。あとが詰まってんだからよ」


 背後から聞こえるそんなセリフ。


 ユートがその意味へと思い至るよりも早く、先程とは別の剛直がぶち込まれるのだった。


 *


「おらおらおら!」


 パンパンパンパン!


「ははっ、どうした!? ケツ肉叩かれながら、防戦一方じゃねえか!」


 パンパンパンパン!


「……ケツ振ってばかりじゃいつまで経ってもイケねえぞ!」


 パンパンパンパン!


「そ、そろそろ終わりにしてやらぁ!」


 パンパンパンパン!


「ちょ、ちょっと待て!」


 巻きグソは飛び散り、皆はいったん距離を取った。


 括約筋は活動を停止……漏らしたのだ。


「オイイイイイ! 何漏らしてんのお前エエェェ!? 今出すのそれじゃねえだろうがあああああああ!?」


「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。それだけ気持ちよかったということでしょう。この汚物と悪臭は私がマイクロブラックホールで処理しておきますから」


「お、おう……そうだな。ついうんこ漏れちまうくらいのチートアナルってことなら、堪能しねえと勿体ないよな……」


 決して軽微なハプニングではないはずなのだが、男たちの関心がユートのけつなあなから外れることはなかった。


 彼の肛門は既に単なる排泄器官などではなく、男たちを惹きつけて止まない、魔性の肉壺と化してのだろう。


 *


「ハハ、お疲れさん。いや〜、随分派手にヤられたみたいね。ま、その分給料は弾むから。30分で、5万。って聞こえてないか」


 壁尻風俗店の営業時間終了後、様子を見に来たティンカースにも、ユートは反応を示さなかった。


 今の彼に自らの思考などはない。ただけつなあなから白濁した粘液を噴き出し続けるだけの、悲しきオブジェに他ならない。


 因みにこの報酬金額、5万ドンペソだが、現在日本の貨幣価値に換算した場合、約500円の価値がある。


 *


「ユートさん、どうしたんっすか? 昨日だけの特別ゲストって聞いてたのに」


 翌日。どうにか意識を取り戻したユートは再び四つん這いとなり、けつなあなを衆目に晒していた。


「どうでもいいだろ、そんなこと! それより、早く、けつなあなを掻き回してくれよ! 奥が疼いて我慢できないんだよ! 指なんかじゃ、全然足んないよ!」


 ただ昨晩と大きく異なるのは、その身体を拘束されていないこと。


 そして、自由に動く手を使って、自らのけつなあなをぐりぐりと弄り倒していること。


「あ〜……魔法のローションたっぷり塗った状態で、何時間も掘られ続けたわけだからなぁ……ぶっ壊れるのも無理ないか」


「けどたった1日でこうなるだなんてな……対魔忍の素質あるかもよ?」


「そういうことなら、もっといい場所紹介してあげようか? ここじゃあ出来ないもっと凄いプレイがいくらでも出来んぜ?」


「イク! どこでもイクから! 早く! けつなあなにぶち込んで! このままじゃ、おかしくなっちゃうからぁ!」


 いや、もうおかしくなってるだろ、というのはこの場にいるユート以外全員の共通認識であったが、それを指摘するのは無粋というものだろう。


 *


 数ヶ月後。


 暗黒大陸の地下に密かに存在する街の宿屋の一室にて。


「……エグニス? どうかしたの?」


 動く気配に気付いたフィーナが、毛布の端を持ちながら上半身を起こす。


「ゴメン、起こしちゃった? なんか、目が冴えちゃって……緊張してるんだろうな……やっぱり」


 窓に片手を添えて、僅かに俯くエグニスに、フィーナは背中から優しく抱きついた。


「……知ってた。皆の前だから、無理して強気に振る舞ってたんだよね」


「……見抜かれてたか」


「うん。魔王との最終決戦だもん。無事に帰って来れる保証なんて誰にも出来ないし……それでも、皆を安心させてあげたかったんだよね」


「これでも一応、勇者だからね……って、こんな調子じゃ説得力も何もないけど……あの時、ユートを追放したの……やっぱり間違いだったのかもな……」


 エグニスは少しだけ、震えていた。


「……エグニスはさ、優しすぎるんだよ。あの時はああするしかなかったって、皆わかってるよ。ラグくんもぐーたんも……ううん、今ならきっと、ユーくんもわかってる。今頃は別のパーティーで鍛え直して、あの時よりずっとずっと強くなってるんじゃないかな」


「……そうかな……そうかも……しかもオレたちが魔王に追い詰められて大ピンチの時に、待ってましたとばかりの絶妙なタイミングで駆けつけてきたりして」


「ありそ〜……で、これでもかーっていうくらいのドヤ顔で、やっぱ俺がいねーとお前ら全然駄目じゃねーか、とか自信たっぷりに言うんだよね〜」


「うわ、めっちゃイメージ出来る。ユートはそういうこと言う……うん、そうだな。きっと今頃は、見違えるくらい強くなってるんだろうな」


 *


 ところがどっこい。


 ユートは鍛え直してなどはいなかった。


 毎日毎晩、けつなあなで不特定多数のちんぽを咥え込み続けるだけの爛れきった生活を送っていた。


「んおっほオオォーん!? けつなあなフィストファック気持ちよしゅぎいイイイイ!? もっとぉ! もっと前立腺パンチしてエエェェ!」


 ちんぽその他を咥え込み続けていた。


 見違えるくらい性感帯は強くなってるんだろうな。


 *

 

「うん。だから大丈夫。エグニスは何も間違ってなんかいないんだよ。それでも不安になるなら、あたしたちを見て。今のあたしたちがいるのは、エグニスのおかげなんだから……ね?」


「フィーナ……うん、ありが……」


 漸く振り向いたエグニスは思わずドキリとしてしまう。


「……見てとは言ったけど、別にそういうつもりはなかったんだけどな〜」


「い、いや、ゴメン! まさか裸だとは思わなかったから……」


「ぶー。寝る前まであんなに激しくえっちしてたんだから、服なんて着てるわけないのに〜」


「それにしたってタオルとかで隠すとかさ!? っていうか、前から言おうと思ってたけど、激しくえ、えっちしてるの、フィーナだけだからね!?」


「そんなこと言って〜。激しく攻められるの好きなくせにぃ〜。ほらぁ、どんどん大きくなってきてる」


「ま、待って! 明日に備えて、これ以上体力を使うわけには……」


「大丈夫大丈夫。もう1個くらいエリクサー使ってもバレないから。というわけで〜……いただきま〜ふ」


「あ、あ……あァァァ〜ッ!?」


 爛れているのは、どこも一緒だな。 


 因みにグレイスは拘束された状態での道具えっちが大好きだぞ。ラゴクェスはスカトロマニアだ。


 *


 それから更に数ヶ月後。


「あ……あの……ティンカースさん……」


「ん……? ああ、ユートさん。久しぶり」


 街中で漸くその姿を見つけ、おずおずと話し掛けた。


「どうも……それで、その……また壁尻の仕事、やってもいいですけど……」


 覇気のない目。


 みすぼらしい格好。


 その様子と、一応小耳に挟んでいた情報から、おおよその状況は察せたようだった。


「あ〜……あちこち尻穴貸し過ぎだよ。今ではぶっ壊れちゃって、人工肛門になってるんだってね?」


「いや、まぁ……あ、でも中の具合は多分大丈夫なんで……」


「お前のけつあなに、もう価値はない、よ。ハハッ」


 人差し指で眉間をツンツンすると、ティンカースは一切興味なく去っていってしまった。


 あとけつ()あなだ。二度と間違えるな。


「価値がないって……なんだよ、それ……俺のけつなあなは、チートアナルなんじゃなかったのかよ……」


 誰彼構わず、けつなあなを安売りしてきたユートはすっかり飽きられ、ここ数週間は誰からも求められることがなくなっていた。


「腹……減ったなぁ……」


 元々二束三文の、その日暮らしできればいいくらいの格安報酬で自らを安売りしてきたせいで……というか末期頃には逆に金を払ってまでちんぽを求めていたため、ユートの資金はとうに底をついていた。


「……あぁ、多分今日はあの焼き菓子屋で新商品の試食配ってるはずだし……貰いに行くか……デブスの店員と顔合わせないといけないのがダルいけど……」


 フラフラと、力ない足取りで街中を歩く。


 曲がりなりにも勇者パーティーの一員だった頃の面影は、もはや少したりとも残されていない。


「あっ、いつもどうもー」


 そして焼き菓子店の前まで差し掛かったところで、ユートは声を掛けられた。愛想笑いの一つもなしに。


(……なんだこいつ、話し掛けてくんなよ……俺はただ、腹が減っているだけなんだ。そうでもなけりゃ、こんなちゃっちい店にわざわざ来るかよ……)


「これ、新作のケーキです。お一つどうぞ?」


(……うるせぇな……口を開くんじゃてねーよ……俺は空腹を満たしたいだけで、お前なんかとコミュニケーション取りたくねーんだから……)


 そんなユートの思いとは裏腹に、女性店員は不快さを露わに続ける。




「気に入ったら、買ってくださいね?」




 決して察しのいい方ではないユート。


 だが、その言葉が毎回試食だけして買わずに帰る行為を揶揄するものだということは理解できた。


 瞬間、こみ上げてきた怒りにより頭は沸騰し、反射的に店員の持っていた一口サイズの焼き菓子を、バスケットの底に敷かれていたキッチンペーパーごと鷲掴みにし、勢い任せに走り出す。


 我武者羅に、ぶつかりおじさんとなることも厭わずに走り続け、街外れの森の入口に辿り着いたところで、漸く腰を下ろした。


(馬鹿にしやがって! 馬鹿にしやがって!

馬鹿にしやがって! 俺は勇者パーティーのエースだったんだぞ! こんなクソ不味いケーキなんかに、金を出すわきゃねぇーだろぉ!)


 などと内心で悪態をつきながら、砂糖と乳脂肪分と小麦粉の塊を貪り食う。


 どんなに怒り心頭だろうと、悔しかろうと、腹が減っては何も出来ない。


 人間の本体は消化器官であるという説が出るのも納得だ。


(くそったれが……どいつもこいつも俺を舐め腐りやがって……ああ、わかったよ。そっちがその気なら、こっちにも考えがある)


 中身のなくなった包み紙をポイ捨てすると、ユートはゆらりと立ち上がる。


(俺が本気出せば、最強の冒険者になることなんざ、朝飯前なんだからなぁ……!)


 そこへ、丁度というかタイミング悪くというか、通りがかる影があった。


(あれは……ゴブリンが2匹か……しょうもないクソザコモンスターだが……まぁ肩慣らしには丁度いいな……)


 グレイスと一戦交えて以来の武器を取り出し、魔物の群れへと襲いかかる。


「くたばりやがれ、化物どもがぁ!」


「ウッギャアアアア!?」


 踏み込みが甘い。


 ユートの剣はゴブリンの肩口をバッサリ切り裂いたものの、致命傷とまでは行かなかった。


「ちっ、やっぱ大分鈍ってるか。まぁいいや。感覚取り戻すまで、試し斬りさせてもらうぜ」


 深手を負った小さい個体を庇うように、やや大きめなゴブリンが両手を広げる。


「ふん、バケモンのくせに、いっちょ前に仲間意識持ってんのか。ま、こっちとしては好都合だけどな。別々に逃げられたら追いかけるのが面倒だからなぁ」


 付着した返り血を振り払いながら、ゆっくりと躙り寄るユート。


 その腹部へと、突然の衝撃が訪れた。


「あ……? なんだ、今……の……?」


 何が起きたのか確かめようと左手で触れてみると、ぬるりとした感触。


 そして掌には、ゴブリンのものではない新鮮な血液が、べったりとこびりついていた。


「……だよ……なっなんだよ、これぇ!?」


 大量の血液を一度に喪失したことにより、身体機能に異常をきたしたユートはその場に倒れ伏す。


「危ないところでしたね。応急処置は済ませましたが、もう少し待っていてください。すぐにギルドの仲間が到着しますから、病院で治療を受ければすぐに完全回復することでしょう」


 それはユートに向けられたものではなかった。


 未だ硝煙を立ち昇らせるライフルを持つ男は、ゴブリンの方の身を気遣っていた。


「だ……誰を撃ってる……馬鹿野郎! モンスターの味方か、テメェはぁ!? 早く俺を助け……ぶごっ!?」


 男は要請に応えようとはしなかった。


 それどころか悶え苦しむユートの口を足蹴にしてすら来た。


「クズが……勇者エグニスが魔王軍との和平交渉を成立させ、人と魔族が共存共栄の道を歩み始めたことを知らんわけでもあるまい」


 初耳だった。


 何故ならユートはニュースを見ない主義だから。


 しかし弁明することは出来ない。


 何故ならユートは口の動きを足で踏みつけられて、動かせないのだから。


「価値観をアップデートできず、古い時代の在り方にしがみつくこと自体を否定はしない。だが、そのために平然と他者を傷つける外道に、この世で生きる資格はない……!」


 ユートの頭に銃口が押し当てられる。


 未だ発射後の高熱が残っているはずのそれは、何故だかやけに冷たく感じられた。


 そして、無慈悲な銃声が鳴り響いた。


 *


 一方その頃。


 勇者エグニスと神術士フィーナは、仲間たちを始めとした沢山の人々から精一杯の祝福を浴びながら、結婚式のクライマックスを迎えようとしていた。


 2人は、幸せなキスをして終了。


 最っ高のハッピーエンドってやつだ。



知名度の問題なんですかね。

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