Beloved child
初投稿の小説です。お手柔らかにお願いします。
この話を読んだあなたは、人形が可哀想だと思いますか?
【序章】
どうして人形は身体を動かせないのか。昔、前の持ち主の家にいた人形に聞いたことがある。
その人形はボクの問い掛けに、
「それは俺たちが、人間じゃないからだな」
と、淡々と言った。
至極当然だとでも言うように返された答えに、ボクは納得がいかなかった。
「あるじさまと同じ、人間の形をしてるのに?」
「そうさ、人形だからな」
「ふーん」
ボクはつまらなくなって、話題を変えた。
「じゃあ君は、もし動けるようになったらどうする?」
すると人形は、すぐボクの問い掛けに答えなかった。黙り込んで、何か考えている。
しばらくして、その人形は答えた。
「旅に出たい」
「たび?」
たび。初めて聞いた言葉だ。
「『旅』は、自分の知らない世界に行くことだよ」
人形はまるで、自分の子供に語りかけるように言う。
「『旅』をすることで、自分の知らない世界をこの目で見ることができる。俺は、俺の見てきた世界を超えるものが見たいんだ」
「ふうん」
自分の足で、知らない世界を『旅』する。 考えたことはないけれど、怖いことだとボクは思う。
「お前は動いてみたいと思わないのか?」
ボクが考えていると、人形が問い掛けてきた。
もちろん、動けるのなら、動いてみたい。でも、知らない世界を見る方が、もっと怖い。
そう思ったのに。
「うごいてみたい」
ボクの口から出た答えは、これだった。
「じゃあ、そんなお前に、一ついいことを教えてやる」
表情の変わらない顔がボクを見ることはない。
でも、その声は、ボクに向けられていた。
「人形は、持ち主に愛されると、動けるようになるんだよ」
この話をした数日後、ボクは捨てられた。
【一章】
一
目が覚めた。また、ボクが捨てられる夢を見てしまった。
あの日、ボクは知らない場所に連れてこられてすぐに、捨てられてしまうのだと、理解した。
ボクは、前のあるじさまに愛されていなかったのだ。
だからボクは、動けなかったのだ。
二
新しいあるじさまに出会ったのは、寒い冬の日の夜。店の中はいつもより人間が多かった。
ほとんどが、たぶん、『かぞく』だと思う。これも、あの人形から聞いた言葉。
しばらくすると、人形がほとんどいなくなった。
ここにいるのはもう、僕くらいしかいない。
ボクを大切に、愛してくれる人はいない?
「ママ、ボクあのお人形さんが欲しい!」
1人の子供が、女の人の服を引っ張っている。
ボク? ボクだ。ボクを指さして、ボクが欲しいと、そう言った。
「本当にこの子でいいの?」
ママ、と呼ばれていた人間が言う。
「うん!この子がいい!」
子供は、迷うことなく断言した。
そして、男の人が何かを店の人間に渡すと、子供とともににボクを連れて店を出た。
ボクを抱きしめる腕が、ひどくあたたかい。
前のあるじさまより大きな家に着いた。
「あのね、ママ、パパ!この子のお名前を決めたんだ!」
子供は、ママとパパの方を向いて、ボクを高く持ち上げて言う。
「この子のお名前は、『マール』!」
ボクの名前は、『マール』。
「ずっと一緒にいようね!だいすき・・・ううん、あいしてるよ!」
新しいあるじさまは、ボクをあいしてくれる。
ボクはボクの腕で、あるじさまを抱きしめた。
三
小さなあるじさまは、この世界を全く知らない。
新しい世界を見る度に、あるじさまは目をキラキラさせて、ボクを離すことなく走り回る。ボクはその度に汚れてしまうけれど、あるじさまはボクを『お風呂』に入れてキレイにしてくれた。
ああ。あるじさま。
ボクをずっと、愛してくださいね。
【二章】
一
長い時間が過ぎて、ボクのあるじさまはとても大きくなった。
『こうこうせい』になったあるじさまは、『ぶかつ』が大変で『べんきょう』が追いつかないと、ボクに教えてくれた。
あるじさまは大きくなっても、ボクの名前を呼んで、ぎゅっと抱きしめて、一緒に寝てくれる。
あるじさまがボクを愛してくれるおかげで、今のボクの身体は、自由になった。
あるじさま。愛しています。
二
最近、あるじさまはボクを忘れていて、ボクの名前すら、呼んでくれない。
でも、あるじさまは、ボクを愛しているはずだ。あるじさまは『大人』になったから、忙しいだけ。
あるじさまが帰ってきたら、ボクは・・・
「あれ・・・?」
うでが、うごかない。
三
「・・・ああ、今年ももうすぐ終わりか」
一人。暗い室内で、男が呟いた。
持っていたタバコを灰皿に捨て立ち上がると、棚の上から何かが落ちる。
「ん?この人形、昔父さんに買ってもらったやつか。ここに置いてたな」
男はそう言うと、ゴミ箱へ人形を放り込む。
「もう持ってても仕方ないしな」
男はゴミ袋片手に、その場から去ったのだった。
【三章】
ここはどこ?あるじさまはどこ?
あいしてるって、いったのに?
ぜんぶ、うそだったの?
ねぇ、あるじさま。
ボクハ、マールハ、ココニイルヨ
【終章】
憐れな人形は 今日も
あの日のコトバを信じて
二度と戻らないアノコを探して
永遠のアイに溺れていく
いかがでしたでしょうか。
意味がわからない、と思われてる方々もいたり、僕の世界観の独特さを感じてくれた方々もいたりするでしょう。
それではまた、次の機会に。