桐霧とアリス②
不安だ、憂鬱だ。そもそもクラス委員なんて柄じゃないのに、この愚かな私の右手め。あの時パーさえ出さなければ、こんなに悩むことはなかったのに。
クラスに1人は学級委員に固執する人間がいる、なんてフィクションの世界の話だ。現実はやりたい人なんて誰もいなくて、委員決めなんてまだ団結のだの字も無いクラスに気まずい雰囲気を流すだけのイベント。じゃんけん、くじ引き、良くて善意の誰かが引き受けるのがオチ。少しでも早くクラスの友達と馴染まなければならないのに、休み時間は先生に呼ばれてお手伝い。4分の3が初対面のクラスメイトの前に立って、毎週一向に進むことのないクラスでの話し合いの司会、等。考えるだけで気が滅入る。
私の運の悪さにめでたく巻き込まれてしまったのが、後ろの席の桐霧昴くん。名前順が前後だというだけで、新学期早々大役を担うことになったのだから、たまったもんじゃないだろう。(出席番号奇数の人間が勝負を決めなきゃならなかったのだ。)
桐霧くん、といえば1年生の時から“明るい人達のグループに所属している人”というイメージを誰しもが持っていたと思う。中でも、人一倍明るい髪色をした彼は遠目で見ても目立っていたし、逆に中学生の頃はヤンチャをしていたのではないかという噂まで立っていた。
開けっ広げに見えて、私生活は謎に包まれているのだという。だからそんな根も葉もない噂が立つのだとか。
「実際近くにいてどうなの、桐霧くんは」
「話し方は柔らかいし、身のこなしも逆に違和感を感じるくらい丁寧。見方によってはおっとり、マイペース」
しかも屈託なく話しかけてくるから、笑顔と相まって存在が眩しいし、話し方は……少し軽い。
休み時間は席についていることが殆どなく、気づくと席に戻って授業を受けているし、気づくともういない。
総評ーー
「近づきがたい」
「今の話をまとめるとそうなる理由が分からないんだけど」
「なんだろうな。私も壁を作っている自覚はあるんだけど、桐霧くんは桐霧くんでベールに包まれているっていうかさ。人物像が掴めないっていうか」
ただの陽気な青年という型に当てはまるには、桐霧くんの造形は複雑すぎる、気がする。
「だからこそ考えていることが分からなくって、迷惑がられてないといいけどなぁ」
「大丈夫だよ、有朱。だって桐霧くんこの前廊下で“俺こそがクラスの代表”ってタスキかけて遊んでたもん」
「あ……そう」
こうして、ますます桐霧くんの生態が分からなくなっていくのでした。
今日はもう悩まずに、早く寝よう。