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【第2話】


猫魈(ねこしょう)、ねえ」

 藤二は上司から渡された資料を眺める。

 内容は、最近このあたりの『いきもの』がことごとく喰われている、というものだ。

 原因は分かっている。猫魈と呼ばれる妖怪の仕業なのだ。

 どうやら他の地域で追っていたそいつが、このあたりに逃げてきたらしい

 その猫魈には致命傷を与えたうえ、ため込んでいた生気は、ほとんど削り取ったという。

 しかし、倒す寸前で潜伏されてしまったそうだ。

 そのため、猫魈が逃げた先の範囲にあたる、この久遠町(くどおちょう)を担当している、藤二の所属事務所にもお鉢が回ってきた。

 要は便利屋よろしく「迷いネコを探してくれ」と言われているのだ。

 どうせなら、もう少し場所を特定してから依頼してほしいものである。

「前の地域では、独居老人の家を転々としながら生気を食い漁っていた。今回もどこかの家に居候しているだろう…」

 資料を読み終わって、藤二は息を吐く。全く、面倒な仕事が回ってきたものだ。

 ただの猫又や残留思念程度の地縛霊ならまだしも、そいつは単なる猫よりはるかに知能も高い。

 しかも『いきもの』だけでなく、人の生気も食い物にしているという、かなり危ない相手だった。

 藤二は、用意していたテグスを取り出す。

 テグスの片方は背負っていた槍袋にひっかけ、反対側には小さく割いた和紙を結ぶ。

 そして、ふ、と手に乗せた和紙に息を吹きかけた。

 すると、和紙はぱたぱたと蝶のように羽ばたき、藤二の頭上に浮かんだ。

 しばらくその様子を眺めてから、藤二は歩き出す。

 ありがたいことに、上司から件の猫魈の体毛の一部を融通してもらえたのだ。

 いま頭上を飛んでいる和紙には、糊でその体毛を張り付けてある。

 猫魈が通ったすぐ後を通ると反応する、ダウジングのようなものだ。

 これで後を追いながら、しらみつぶしに探すしかなかった。

 といっても、よほど近付かなければ反応しないため、望み薄である。

「(まあ、見つからないなら、それはそれ)」

 藤二は資料にある「閑静な住宅街、車通りの少ない場所などを中心に捜索されたし」という言葉を無視し、駅前の商店街の方向へ足を進ませる。

 正直に言えば、こんな物騒な案件に関わりたくはないというのが、藤二の本音だった。

 普段は、こんなふうに槍を持ち歩いたりなんてしない。

 それだけ安全な仕事の方が多いのだ。

 夕日に目を細めながら、藤二は周囲を観察する。

 買い物カートを押して歩く老人や、スマホを見ながら駅に向かうスーツの男性。

 雑貨屋に立ち寄る女子高生。犬のリードを片手に、井戸端会議をする女性たち。

 そして、その合間を通り抜ける小さな魚の形をした群れ。さらに、四つ足で壁に張り付く時計たち。

 それが、藤二が『いきもの』と呼んでいるものたちだった。

 正式名称を『半世性生成類』と言い、見える人間が限られているものたちだ。

 わざわざ人間を「霊長類」だとか呼ばない藤二は、『はんせせいせいせいるい』なんて早口言葉みたいな名称はあまり使わないが。

 さて、そんな『いきもの』たちを横目にゆっくりと歩きながら、今日の夕飯に思いを馳せ始めた藤二はテグスの引きを感じて立ち止まった。

 頭上の和紙を見ると、激しく反応している。

「まじか…」

 どうやら当たりを引いてしまったらしい。

 藤二はげんなりと肩を落としながら、和紙の反応する方向へ向かった。





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