夢を叶える (変夢奇譚 ~くだらない夢のよせ集め~ 第23夜より)
変な夢を見た。
私は、一冊のノートにこう書いた。
『お金持ちになりますように。』
このノート、書いたことを叶えてくれる不思議なノート。
偶然にも、この間、とある骨董屋で購入したのだ。
眉唾ものかもしれない。
だが、試してみてもいいだろう。本当ならば、じつに愉快だ。
私は、ノートに書いてある注意書きに従い、願いを書いたノートを枕の下に置
く。そして、眠りにつく。それを何日も繰り返すと、夢が叶うらしい・・・。
そして、それは、唐突に起きた・・・。
・・・・
私は、驚いた。まさか、本当になるとは・・・。
夢が・・・夢が叶ったのである。宝くじに当選したのだ!
一等と前後賞合わせ、十億円・・・。言葉通りの億万長者・・・。
古くさい確認方法だが、夢でないかとほっぺたをつねる。
うん、夢ではない。痛くはなかったが、目は覚めない。夢ではない。
億万長者になったとはいえ、庶民派の私には、いまいち、お金の使い道が思い
浮かばない。だから、質素な生活をひっそりと送っていた。
しかし、どこから話を聞いたのか、やたらとカネの無心をしてくるものが集ま
ってくるのだ。そして、気がつけば、私には不相応な女たちまで寄ってくる。
私は、なんとか、これらのものをうまく煙にまきながら、生活を送っていた。
そして、ある時、我が生涯の伴侶と出会った。
彼女は、私にとって、天使のように見えた。小悪魔のようにも感じた。
私は、彼女に夢中になり、そしてプロポーズした。
彼女は、私のプロポーズを戸惑いながら、はにかみながらも、受けてくれた。
結婚式が終わり、私たちの結婚生活が始まった。しかし、少しずつ、異変がお
きた。妻が・・・変わってしまったのである。いや、もしかしたら、もともと、
そうだったのかもしれない。あの、天使のような彼女は、もともと、金の亡者だ
ったのかもしれない。
あれが起きたのも、唐突だった。
私と妻、二人でくつろいでいた時だった。
妻が淹れてくれた飲み物を口に含む。一瞬、おかしな味がしたような気が
した。それでも気にせず、私は、一気に胃袋に流し込む。
妻が、私の様子をしきりにうかがっている。じっと、私をみつめているのだ。
これから、何かが起きることを期待しているような眼差しで・・・。
私は、急に胃のあたりに痛みを感じ、身を折った。
苦しい・・・苦しい・・・。
妻に救いを求めるように、目をあげると、妻はニタリと笑っている。
そして・・・。
スマートフォンを取り出し、どこかに電話をし始めた。
「あ・・・あなた・・・うん・・・いま、死んでいくとこ・・・うん・・・
こいつの遺産・・・私たちのモノね・・・」
・・・・
はっ・・・と目を覚めました。
よかった・・・夢だったようだ。
全身に汗をかきながら、私はつぶやく。
「それにしても・・・夢が叶うのは良いが・・・。
その後どうなるのか、わからないのが・・・いただけない・・・。
夢が叶ったからといって、必ずしも幸せになるとは、かぎらないんだな。」
そこで目が覚めた。
「まったく、夢の中の俺は、なかなか良いことを言う・・・。」
私は、そうつぶやきながら、枕を持ち上げ、一冊のノートを取り出すと、引き裂いて、ゴミ箱に捨てた。