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現在にて
「いや死体遺棄罪ですよ?!
それに連なって共謀罪……
最悪監禁罪も加えられます!!!!」
口を押さえて事の重大さを伝える柴塚
その罪の重さはひしひしと加害者側に重くのし掛かるが
一番に詫びを言ったのは警官だった
「私の聴取不足…… 職務怠慢だ……
あの時にちゃんと話を聞いてやれていれば……」
「何言ってんだおっちゃん??」
警官の真っ青な表情を
苦虫を噛み潰す表情に覆すは
安斎のこの一言で済んだ
「アンタは三人にコケにされたんだぞ?」
「っ……」
安斎は柴塚に通報させて
横たわる馬場の上に馬乗りになり
逃げる気は無い諒子をじっと見張っていた
日を跨いで4月2日の深夜一時過ぎに
パトカー二台が到着して馬場と里緒奈は
このとき初めて 自分達が犯罪者だという自覚が芽生えたのだ
サイレンの音もしない静かな夜更けの筈なのに
近隣の野次馬は結構な数でパトカーを囲んでいる
皆が皆して そんな馬鹿なと言わんばかりの顔をしていた
「犯罪者を見る顔じゃないですよね所長?」
「だな…… おっそろしいくらい平和ボケしてたんだな
犯罪者が蔓延っていたにも関わらず この商店街はまったく……」
「凶悪犯を見るというよりは 子供の悪戯に呆れているかの様……」
「遠い昔に成人していたおっさんが捕まるのと
未成年が捕まるのとで なんでこうも見方が変わるかねぇ……
馬場だって成人済みの筈なのによ」
「そりゃぁ18歳から成人だなんて今年からですもん……
どちらにしろ二十歳未満は少年法に守られますからねぇ」
「中途半端だよな~~ 酒も呑めねぇ タバコも吸えねぇ
俺がこの時代の若者だったら成人という自覚が持てねぇな……」
「どうせ未成年だろうと所長は飲酒してたでしょう……?
今の若者には若者なりの見方があるんです
一人立ちしたい子には いち早く社会経験を味わえるんです
それに比べたらアンタはもう少し大人の自覚をして下さいよ!!」
「うるせぇなぁ!! こんな時にも喧嘩を売ってくるな!!
ポリ公共に不審がられるだろうがよ!!」
人が連行されているだろう緊迫の事態に於いても
通常通りの安斎と柴塚のじゃれ合いは
お礼を言おうとしていた芦葉から感心されていた
「武美を見つけて頂いて本当にありがとうございました!!
……正直小遣いを無駄にしたと腹を括っていたのですが」
「「 正直過ぎ!! 」」
純真無垢の謝礼は 後日芦葉から現金で渡された
余談だらけの話になるが
桜の木の下からは楠本の遺体と
芦葉達が埋めてたであろうタイムカプセルが掘り起こされた
白骨死体の隣にタイムカプセルという
異例な組み合わせの二つが出て来る なんとも珍妙な現場となった
篠川武美は記憶を取り戻す為
病院で治療に専念している
一年前 何故あの場所にいたのか
芦葉はどうしても知りたかった
一方で事件が収束すれば 安斎達は用無し
後日死体遺棄と失踪事件が書かれた新聞記事を広げ
安斎と柴塚はビール片手に祝杯を挙げていた
芦葉とは電話越しに何回かやり取りしたくらいであって
暫くは篠川武美が記憶を取り戻すまで
傍で支えることに専念するそうだ
「天網恢々疎にして漏らさずってか……
俺達の目が光る場所でガキの隠し事なんざ朝飯前ってな!!」
「今回はあの商店街に固執する感じでの功を奏す勝利だったので……
なんか物足りないなぁ~~ 規模が小さいなぁ~~!!」
「じゃぁ都会に進出するかぁ?
格上のライバル事務所にマウントを取られ
いらん理由をでっち上げられ 警察にお世話になったりもすれば
逆に利用されて…… 泳がされんのが目に見えてる……
田舎のちょっと大きな市内中心部で細々やってるのが
俺達には性に合ってんだよ」
「これからのことを考えると喜べねぇっすわぁクソ所長~~!!
甲斐性無しの男のもとに居ると ホント女は苦労しますわ~~!!
頼みますからドンドン仕事取って来て下せぇよぉ~~~~!!!」
「つってもなぁ…… 探偵は忍ぶものだし
顔を売ってないからこそ 迅速な解決ルートに幅が広がる訳だしなぁ」
お酒の弱い柴塚は顔を真っ赤にさせ
机に頬を乗せて項垂れる
深い溜息がガラス張りを白く塗り
泥酔した虚ろな目は遠くの壁を見つめ
「……私 転職しようかなぁ」
「おぉしろしろ!! 今の時代に転職は厳しいだろうし
何より新卒の学生にお前の様な優良物件は傍迷惑だろうがな!!」
「私の実力を正直に褒めないで下さいよぉ~~!!」
「……お世辞だ 気にするな」
「所長~~ もしかして私のこと好きなんですかぁ~~?」
「うざっ……」
「ホントは余所に行って欲しくないんでしょ~~?
照れ屋だなぁ~~ 首を縦に振ってくれれば~~?
ど~~~~してもって言うなら従いますよ~~??」
「なぁんだそりゃ?!!
それって恋なのナメてんの?!!
一周回って焦がれんの?!!!
勘違いはてめぇの働き具合だけにしとけや!!」
「あぁ?!!!
今回も!! 私の功績でしょ!!?
アンタが何処ぞほっつき歩いてる時にも
私が諒子さんところに貼り付いていたからこそでしょうが!!」
「いいや!! 俺が馬場を仕留めた時が決め手だ!!
ついでに里緒奈の本性も見破ってたしな!!」
「ただただ悪口言ってただけでしょ!!?
あの件に関しては同じ女性として里緒奈ちゃんに味方しますぅ!!」
「だからお前は事件解決に数手遅れてんだよ!!
情けは人の為にならずだ呑んだくれ!!」
「一缶しか飲んでません~~!!
お酒が弱いだけなんですぅ~~!!!!」
無駄に意気揚々の大喧嘩
この二人にとって普通を噛み締めることは
無自覚ながらも常日頃より求めている平和なのだ