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「もしかして篠川さん…… 記憶喪失なの?」


「……」


武美は黙りこくってしまった

代弁したのは震えた声の諒子が


「目が覚めた時からこうでした……」


「なんで…… なんでですか?

なんで彼女を病院に連れて行かないんですか?!!」


「警察も嫌がるし…… 外に出たくも無いと言ってたので……」


「……それだけじゃないですよね?」


目を瞑り 拭えない罪悪感が溢れ出ている諒子は

芦葉に体を向けて深く土下座した


「本当にごめんなさい!! 私…… 私……

武美ちゃんに全てを説明しないで…… その……

行くところが無いならずっとここに居ても良いよと……」


「おばさん……」


諒子の気持ちを察せたからこそ

何かしら言ってやりたい芦葉は何も言えなかった




一方で警察に

というより昼間の交番にいた警官を呼んだ安斎

物の数分で彼は息を切らして店に来てくれた

事情を聞いた警官はすぐに署に連絡し 武美の保護を買って出る


「まさか篠川武美さんがこんな近くにいたなんて……」


「……なぁアンタ 一年前の事情聴取のときに何か見落としてないか?」


「えっ?」


「俺は篠川武美が転落した件 あれはただの事故で無い気がする」


安斎のセリフにその場の全員が反応した


「どういうことですか所長?」


「引っかかるんだよなぁ~~

里緒奈ちゃんはもう寝てるよな~~

それに諒子さんが言っていた大きな音も気になる」


「そんな上っ面な疑念を抱いても……

それにさっき撤収って言いませんでしたっけ?!!」


「あぁ…… だけど武美ちゃんに危害を加える輩が

野放しのままだとしたら後味悪いな~~って思ってな」


安斎は眉間を摘まんであちこち行ったり来たりしている

何かを忘れているという そんな焦燥に駆られる 

篠川武美を捜し出すという前提で動いていた中で知った

思いがけない 陰に埋もれた違和感


「ちょっと散歩してくる」


「あまり遠くに行かないで下さいよ所長!!」


店を出て八百屋の方へ


〝 一年前の四月一日ですか?

……店をやってたんじゃないですかねぇ

エイプリルフールだから友達に悪戯LINEをしてたかも!! 〟


〝 バカ言ってねぇで明日も頑張れよ やっと更生してオヤジさんの跡を継ぐんだろ? 〟


〝 楠本の奴…… その次の日から東京に行くことになってたんだ

結構有名な大学への進学決まってたらしくてよ!

だからさ…… 最後の悪戯になっちまったんだよ

自転車のサドルを緩めてさ あいつ立ち乗りだったからさ

……ホント 返信が来たら成功したんだと笑いまくってやったぜ! 〟


角を曲がって神社の階段を登る 両隣は雑木林


〝 学生の時は親不孝とばかり思ってたんだがね~~

卒業した去年から気持ちを入れ替えてお店を継いでね~~

ホント大したもんだよ~~ 〟


〝 彼女の話し方は妄想癖に似たもんがある 〟


〝 それは偏見ですよ所長

確かに両親を同時に亡くした少年少女には

精神に負荷がかかって重い病気になる場合はありますが

彼女は至って健全だと思いました 〟


〝 まるでアイツの存在が消されたみたいでさぁ!! 〟


〝 ギャップですよギャップ!!

悪さばかりしてたチンピラが更生して

真面目に働き出すと好印象に見られる謎の現象ですよ!! 〟



〝 仮に馬場が篠川武美を誘拐した犯人だと仮定した場合

もしかしたら予想だにしないラッキーが起こり得るかもしれない 〟



階段を一段一段 思い出す願掛けをする様に踏み締めて行く


「まさか…… 本当にラッキーだとしたら……」


安斎は来た道を戻ろうと迂回した途端

目に映るは空を切る金属バットが




戻って花屋では


「しかし里緒奈さんは何故あそこまで馬場さんを非難していたのでしょう?」


「そりゃぁ馬場恭典と楠本浩二はヤンチャしてましたからねぇ!」


柴塚の問いに警官が笑って済ましていたが


「まぁ里緒奈ちゃんからした怖かっただろうなぁ

いつ自分に被害が及ぶかとか考えるだろうし……」


「……ちなみに楠本さんは今東京でしたよね?」


「そうだね! でもここいらに住んでるわけではないからなぁ」


「……一年前に聴取しなかったんですか?」


「篠川さんが消えた時刻には恭典君とは別れて家に帰ってるって言ってたし

容疑者から外すのは当然だろ?」


「……それを言ったのは馬場さんですよね?」


柴塚は何を思ったのか 楠本のスマホのGPSを辿った

あまり言えないが 馬場のスマホを借りたときに

こっそりと位置情報を盗んでいたのだ


「……嘘でしょ」


「どうしたんですか柴塚さん?」


調べて解ったのは

楠本のスマホの現在位置がすぐそこの八百屋を指していた


「これってつまりどういうことですか?」


「取り敢えず所長と合流しないと……」




そして再び神社の階段にて


「よぉ…… なんで俺を狙うんだ? 馬場恭典!!」


「うる…… うるせぇよ!!!!

お前らがしつこく辺りを嗅ぎ回っているからだろうが!!」


「お前さ…… もしかして人殺した??」


「……!? ……うわぁぁぁぁぁ!!!!」


素人の様な動きでバットを振り回す馬場に

女を狙えば良かったのにと小さくゲスに呟く安斎は

隙が出来た懐に潜り込んで 渾身の鉄拳を放った


「ウゴフッ……!!」


「さぁ気絶してねぇで全部吐けや!!」


しかし馬場は気を失いかけていたので

後に合流する柴塚達が来るまでは

取り敢えず依頼達成の余韻に浸って

タバコ屋で買ったメビウスを一本口に咥え

至福の一服を過ごしていた



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