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安斎と別れてもう一度花屋へと向かった柴塚達
先と同じで諒子は一向に口を開こうとしないが
思わぬ一言が 柴塚と芦葉をさらに困惑させる
「今日は夜も遅いですし…… 泊まっていったらどうです?」
「「 え……? 」」
「高校生に一人で帰れなんて言えませんよ~~
哲良君も成人だからって夜道を歩かせるのはどうかなって……」
二人は顔を見合わせる
柴塚は安斎に連絡を取ろうかとスマホの光を顔に向けたが
調査中に着信音を鳴らすと機嫌が悪くなるので そっとポケットに仕舞い
諒子の言葉に素直に甘えた
「布団は多めにあります
哲良君は主人の布団で我慢してね!」
「ありがとうございます……」
前が見えずとも芦葉は階段を登っていく
綺麗に掃除された一室に敷き布団を寝かせると
辺りを見回して 初めてこの店の二階を探索していた
廊下に出るともう一室 突き当たりに存在している
ーーなんだろう…… 人の気配がする……
芦葉は霊感が強い訳でもない
気配なんてものは気のせいであって
漫画の影響が作用した誤った感覚だと頭では分かっている
だけどその突き当たりの扉が過剰に気になっている
ちょっとだけとノブに手を伸ばそうとした そのとき
「哲良君!! ご飯にするから降りてらっしゃい!!」
「あっ…… はい! 今行きます!!」
茶の間では先にお風呂を頂いたのか
柴塚が借りたパジャマ姿で髪を乾かしていた
芦葉にとって初めて見る 年上女性のプライベート姿
あちらは自分の視線に気付いてないようだったが
芦葉はチラ見しては目を手で覆っていた
「お風呂ありがとうございました諒子さん!」
「良いのよ…… いつも独りだったから……」
「……」
「さぁ食べましょ!! 今日は久し振りのお客様だし!!
腕によりをかけた晩食と行きましょう!!」
諒子は明るい人なんだなと 思わず顔が綻ぶ柴塚
箸を取って手を合わせる芦葉は元気に「いただきます!!」
と言って茶碗に盛られた白米を貪った
それを見ていた諒子の目からは涙が
「ん? おばさんどうしたの?!!」
「……息子がいたら こんな感じだったのかしらね?」
「……美味しいよ?! おばさんの料理すげぇ美味しい!!」
「ありがとう…… ありがとうね哲良君……」
「っ……」
思わず箸を止めた柴塚も諒子の背中を摩る
旦那が亡くなってから どれだけ苦しんだのかが手から伝わった
何事も無く食卓は進んで 食後のお茶をゆっくり嗜んでいる時
感傷に浸るお茶の間の空気を読まない奴が現れる
「お邪魔します!! うちの従業員がただ飯を頂いたようで!!」
「あら安斎さん!! あなたも泊まりますか?」
「げぇぇっ!!!!」
ズカズカと茶の間に上がっては
急須で勝手にお茶を注ぐ安斎を見て柴塚はひたすら嫌悪
隣にどかされた芦葉は苦笑するしかなかったが
芦葉「僕もお風呂頂きましたし…… 今日は寝ます!」
諒子「お休みなさい哲良君!」
安斎「おっじゃぁ俺も眠いし!! 男二人寝させて頂き候!!!!」
柴塚「さっさと寝ろよぉうるせーな!!」
二階の一室に安斎と芦葉
一階の茶の間に諒子と柴塚が寝るという感じになり
狭い部屋で男二人が寝るというのも不思議な空間だが
芦葉は修学旅行気分で悪い気はしなかった
「安斎さん達は武美のこと…… どれくらい探してくれるんですか?」
「見つかるまで」
「……ありがとうございます」
「それより気付いたか?」
「え?」
「この店の二階には現在 人が三人居る」
「……隣の部屋にですよね?」
安斎は起き上がって廊下へ
芦葉が躊躇った扉を迷いなくこじ開けた
「ちょっと安斎さん! そんな強引に……」
「探偵は隠密スキルも磨いてんだ
無論 息を潜めている相手にも敏感になる」
その部屋は人が住んで居るであろう生活感が漂い
小綺麗にされてる+日用品が散らかっていた
「若い女性の寝室って感じだな……」
見た感じは誰もいない
だが確信している安斎は戸惑うことなくクローゼットを開けた
「……ミッションコンプリート」
「え? ……っ!! そんなまさか!!」
中で蹲っている一人の若い女性は酷く怯えていた
上の騒がしい物音で駆け付けた柴塚と
顔を真っ青にしていた諒子に安斎は問い質す
「篠川武美で間違いないな? 諒子さん?」
「……ごめんなさい」
その場に崩れる諒子に芦葉も言葉を失っていた
行方不明だった篠川武美は花屋の二階に居たのだった
一同は茶の間に集合し 事の全てを聞く場を設けた
諒子の重い口はゆっくりと白状してくれる
「武美ちゃんを見つけたのは神社の階段下より離れた
雑木林が密集した 人気の少ない店裏の側溝に倒れていたらしいわ
頭から血を流しているところを見ると転落したか……」
「アンタが第一発見者じゃねぇのか?」
「武美ちゃんを背負って私の店に現れたのは里緒奈ちゃんよ」
「あの子が?」
安斎が質問をしている傍ら
柴塚はパソコンを開いて状況をメモしていた
「〝大きな物音〟っていうのはそういうことですか?」
「おそらく…… ですが茂みを割いて転がる音では無い気もするんですよね」
「……あの!!」
柴塚が質問をしようとしたとき
安斎が彼女の口を手で覆う
「まぁ何はともあれ依頼達成だ」
「え?」
「俺達の仕事は〝篠川武美を捜す〟までだろ?
そうと決まったら即撤収!!」
「ちょっと所長!!」
「芦葉君も良かったじゃねぇか!! これで一件落着だよな!?」
「えぇ…… まぁ……」
芦葉は篠川に視線を合わせ 積もり積もった心配の言葉を投げかける
安斎は諒子に自首を勧め 店先で警察に連絡を取ろうとしていた
柴塚も悶々としながら安斎のもとへ行こうとする
しかし二人の足を止めたのは
「えと…… 警察はやめて下さい……
あと芦葉哲良さんでしたっけ?
私とどういうご関係でしょうか?」