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「仕切り直しだな…… 新しい情報取りに行くぞ!」
「ちょっと待って下さいよ所長!!
里緒奈さんが本当に何か見てたらどうするんですか?」
「ちゃんと現場を説明出来ない子供だぞ?!
実際に見ていたとして 一年前の記憶なんかそう残してられねぇ
だから! もっと!! 鮮明に覚えている人間を探すんだよ!!!」
「……私はもうちょっとここで粘ります!!」
「そうかよ!! じゃぁ別行動ってことで!!」
不機嫌な態度を見せて 安斎は一人行動を始めた
残されたのは柴塚と里緒奈と芦葉
そんな中で芦葉が提案をする
「やっぱり僕は もう一度諒子さんに話を聞いてみたいです」
「そうだね! もう一回だけ行ってみよっか」
里緒奈に別れを告げて店を出ようとしたとき
柴塚の手を里緒奈がギュッと握って離さなかった
「どうしたの?」
「……馬場を ……馬場を逮捕して下さい」
「だから私達は探偵で……
それに何の根拠も無く人を疑ったら どっちも気分が悪くなると思うな!」
「っ…… ごめんなさい……」
そっと手を離し 俯いたままの彼女はそのまま奥へ消えた
その態度が今回の事件に無関係と思えない柴塚は
けして蔑ろにしまいと 記憶の片隅に里緒奈の態度を焼き付けた
ーー何が起こってるんだろう…… この商店街で……
場所は変わって安斎サイド
彼が向かったのは 商店街を出て大通りの交差点に構える交番だった
「こんちわぁす」
「おやどうされました? 困り事ですかな?」
「いやいや…… 実は私はこういうもんでして」
安斎の手渡しで名刺を受け取る警察官
お茶を出してくれて優しく気遣ってくれるのを見たところ
結構な年になるだろう
「そろそろ引退の時期だったりします?」
「満額退職金が待ち遠しいですな~~
だけど嫁にも先立たれてしまって老後の楽しみに困ってましてね」
「その歳まで警官をやられてたんです
やろうと思えばゴルフでも野球でも
運動以外なら将棋とか教えられますが?」
「ハッハッハ!! それは有り難い!!
……それで今日は何の御用があって?」
「実は仕事でしてね 一年前の篠川武美失踪事件についてですが」
「はぇ~~…… もしかてして見つかったんですか?」
「警察に届いていない情報を私共は手に入れられませんよ
ですがその件に関わる依頼を受けましてね
すみませんが当時の事について知っていることを教えてくれませんかね?」
「う~~ん トアル探偵事務所の名前は……
地元民ですので耳にしたことはあるんですが
真面目な話をするとですね
〝実績の無い公的機関から認められてない探偵〟
それはつまり一般市民ということでして
刑事事件に深く関わって貰っては正直困るんですよ……」
「不審な人間に警察の情報を横流ししたとなれば ただでは済みませんよねぇ」
「認められれば外部協力を募るとは聞いてますが……
いやはや…… 退職前の老人の独自判断ではどうも……」
「そうですか…… それなら無理を承知って道理も叶いませんわなぁ
ではこういうのはどうでしょう?
今から私が質問しますので 答えられる奴にだけ答えて下さい
職務上か 茶飲みついでの雑談か
貴方の判断で構いませんので」
「それならまぁ…… 地元交流は大事にしていますので」
お爺ちゃん警官は花林糖を口にしながら警戒を解いていく
「では手始めに 篠川武美を知っていましたか?」
「申し訳ないですが存じていませんでした
毎朝挨拶をしてくれる生徒の顔は覚えていられるんですが……」
「そうですか…… ちなみに貴方は一年前のことを覚えてますか?」
「それはもう ですが詳細を教えることは出来ません」
「分かりました
まぁ警察官ですから詳しく把握されてますよね 身近ですし
そういえば商店街の人達にも聞き込みを行ったんですが
……なんと言いますかユニークな人達が多いですよね」
「えぇ…… 私もここに務めて長いですが
行事も内輪で率先して成されてますし
大物演歌歌手がいらっしゃった時はもう感動でしたよ」
「それはすごい!!
そういえば最近は若い子がお店をやってる姿が目立ちますね
名前はなんて言ってましたっけねぇ……?」
「里緒奈ちゃんはもう立派な商売人って感じですね!
八百屋の馬場さんところの倅も懸命に働いてくれていて」
「そういえば諒子さんところの息子さん?
隣町で頑張っているそうですね~~」
「ん? 諒子さんは独り身ですよ?
子宝に恵まれず 旦那さんにも先立たれて可哀想なもんですよ……」
「……」
安斎の目付きが変わった
「あまり長居も申し訳ないのでこの辺で失礼させて頂きます」
「いえいえ…… こちらこそ暇潰しになりましたよ」
「あっ…… そういえば事件当時って 勿論のこと私の様に住人にも聴取をしたんですよね?」
「そうですね」
「誰が担当したんでしょうね?」
「私も加わりましたよ? 恭典君とか里緒奈ちゃんとか
その時はたまたま婦警さんが来られなかったので
恐怖心を煽らないという目的で未成年には私が請け負いました」
「事件に繋がる不審な点は見つかりませんでしたか?
例えば馬場恭典は素行が悪かったという噂が聴こえましたが」
「えぇ確かに…… だけど彼は今や立派に店一つを構えています
去年から彼の生真面目な態度は端から見てても文句一つありません」
「はぁ…… では聴取の時点ではあくまで無関係と判断したんですね?」
「聞いた限りアリバイもちゃんとあります
彼は立派な商店街の 何一つ怪しい点が無い仲間ですよ」
「……なるほど お時間を取らせて申し訳なかったです」
一通りやることをやった安斎は柴塚と合流すべく
再び商店街へと戻ろうとした