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もしも本当に諒子が篠川武美の失踪に関わっているのならば
事件が思ったよりも早く収束に向かう
人捜しの依頼料 今回に限っては30万を超える額が
芦葉から前もって受け取っていた
だが安斎はともかく柴塚は学生から大金を貰うことに引け目を感じている
安斎からは「普通は100万前後するところを受けてやるんだから格安だバカ!!」
と一蹴され 悪口を四倍にして投げ返すのが精一杯だった
「私は本当に何も知らないんです!!」
「……では一目でいいので娘さんを呼んで頂けないでしょうか?」
「っ……」
「頼むよおばさん!! 本当のことを教えて下さい!!」
安斎と芦葉から同時に迫られて表情が強張ってきた諒子
ここまでかと思っている風に両目を閉じると
店の前で拡声器を持ちながら 一人の少女が立ちはだかる
『えぇ~~ 不審者達に告ぐ~~
今すぐお巡りさんを呼ばれたいか!? もしくはウチにシバかれたいか!?
諒子ちゃんを解放しないと社会的に商店街の皆さんが制裁しに来ますよ~~?!』
唐突に響く声に耳を塞ぐ店内一同
怒鳴って出て来るは名誉挽回の為にと安斎と柴塚
ではなく八百屋自称三代目の馬場恭典だった
「平日の昼間だからって自由過ぎるぞ里緒奈ちゃん!!」
「馬場さんは黙っていて下さい
ウチは寄って集って諒子ちゃんを虐めるあいつらの腐った性根が気に食わないんす!!」
「あの二人は探偵だ ……本当かどうか知らんがな
それに〝諒子ちゃん〟じゃなくて〝諒子さん〟だろ?!
いくら仲間意識は良いと言っても目上の人にはしっかり敬語を使えよ!」
「ど~~の口がそれを言ってんだ?
ついこの前まで迷惑ばっかり掛けてた元ヤンが
店を手伝い始めた程度で良い大人ぶってんじゃねぇよ!!」
「なっ…… 確かに店をやってるのはお前が先だろうがな……
俺にはそういう態度でも良いけど 諒子さんは先輩だろ?!」
「そういう階級をハッキリさせるとか…… 年功序列とか……
ヤンキーってホントそういうの好きだよね~~
悪しき伝統っていうの? 時代遅れにも程があるわ!!」
「口数減らないな…… てか店ほっぽり出して大丈夫なのかよ?」
「大丈夫ですけど何か?
お婆ちゃんが来てるけど店の中で眠ってしまったから自由時間なのよ!!」
「……そうだな」
いがみ合いというより じゃれ合いが終わる頃には
原因を作った探偵二人も外に顔を出していた
「終わったか?」
「あっ安斎さん!! ウチの商売敵がとんだご迷惑を!!
この子は俺より商売経験はありますが 見ての通りまだガキでして!!」
「はぁ?!! どっちがガキだよ!!
このインチキ探偵にお小遣い貰ってヘラヘラしてた癖にさぁ!!」
「なっ…… なんで知ってんだよ!」
里緒奈はパーカーのフードを取ると
金髪に染め上げたポニーテールと首にトゲトゲの輪っかを装備
ブルーのカラコンで馬場を睨み付けていた
「所謂イタい系女子って奴です すいませんねぇ妄想癖で」
「確かに仕上がっているよな」
馬場と安斎が共感し合っていると
馬鹿にされている里緒奈は目に涙を溜ながら反発していた
癇癪を起こすと支離滅裂になって理解不能
そんな少女に味方するは柴塚久留美
安斎をプラの青いゴミバケツに突っ込む柴塚は
里緒奈のメイクを褒めるなり 諒子に詫びを入れてそっちに向かってしまった
佃煮屋に来た理由は里緒奈を慰めるのもあるが
有力な情報を持つ一人でもあるので ついでである
諒子は何かを隠しているが 一先ずそっちは保留にする
脅迫は良くないので柴塚は順番を変えたのだ
「本当にお婆ちゃんが寝てるのね……」
「ここら辺は…… というより佃煮屋はお年寄りのお客さんが多いですからねぇ
まったり寛ぐ分は店長である私が容認しているのです!!」
「おっ! 難しい言葉も知っているんだね! 偉い偉い!!」
「エヘヘ!! 久留美ちゃんは優しいね!!
あっ…… さん付けした方がいい?」
「大丈夫! なんなら呼び捨てで良いよ!!」
急激に縮まる二人の距離に柴塚は悪い気はしていない
なのに茶々を入れてくるこの男
「最近の子供なんて漫画読んでればそれくらい出来て当然だろう なに甘やかしてるんだ?」
「せっかく友好な関係を築いているのに水を差さないでくれませんか?」
「そいつが誘拐犯か殺人犯だったらどうするんだ?
友達になったからって理由で容疑者から外すとか考えてねぇよな?」
「距離を縮めないと手に入れられる情報も取り逃すと思いますが?!!」
「そう言って突然背中を刺されないといいな!!
葬式はお前に払う筈だった給料から差し引いてやるよ!!」
「ちゃんとした式を挙げる金も無い癖に適当なこと言わないで下さいよ!!
生きてる内に私の生活費!! しっかり吐き出して下さい!!」
同時に首を後ろに振る安斎と柴塚
レジにパーカーを投げ捨てる里緒奈と
安斎と一緒に来ていた芦葉は苦笑していた
「こんなバカは放っておいて里緒奈さん!
先ほど伺った馬場恭典さんについてですが……」
「私は見たのです!!
馬場の野郎が神社の上で女子高生を籠絡しているのが!!」
「……現場を見たってことですか?」
「……うん! だから馬場を逮捕しちゃってよ!!」
「私達は警察では無いので逮捕はちょっと……」
発言が安定していない里緒奈との会話は進展せず
茶の間で佃煮を馳走になっていていた安斎は痺れを切らした
「里緒奈ちゃんさ…… 籠絡ってどういう意味か知ってる?」
「相手を言葉巧みに恋に落とすって意味でしょ? ナメないでよ!!」
「なるほどな…… だから〝二人はデキてる〟って言ったのか……」
「ふえ??」
「正確には思い通りに操ることであって恋愛にだけ使われる言葉じゃないの」
「っ~~!!!!」
またもや安斎は里緒奈を泣かせた