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「〝彼女は去年のこの日にこの場に居た〟

っていうのはまず裏が取れたな 確率は70%くらいに上がっただけだが」


「だとしても芦葉さんを呼ばずにここに来た理由は?

それに結局は誘拐に結び付ける情報がありませんよね~~」


安斎と柴塚は途方に暮れ

空が曇り始めて目の前の商店街が暗く沈んでいく様を見つめていた

そんな二人で蹲っている芦葉の顔色は悪くなっていく一方だ


「不思議なんですよね……

武美は学校で浮いていて友達はいなかったんです

児童養護施設で育ったのか いつも暗いオーラを振り撒いていて

だからなのか ここいらを通学路にしている同級に聞いてもさ……

まず第一声に「そんな子いたっけ?」って返ってくるんですよ」


「芦葉さん……」


「そこに来て商店街の連中も…… 武美はここに居た筈なのに!!

まるでアイツの存在が消されたみたいでさぁ!!」


流れる涙を塞き止められない彼に

何も返してやれない柴塚も貰い泣きを受けていてた

そんな二人の距離感から遠くにいる安斎は冷静だった

冷静だけど何も閃いて来ない彼もまた商店街をジッと見続ける


するとポツりと一滴の雫が安斎の鼻に落ちた

気がつけば時間は夕刻を回っており

すぐに止むであろう雨から逃げるように商店街に逃げ込む


「急に降ってきましたね……」


「あぁ…… まだまだ肌寒い日は続くなぁ……」


濡れたスーツを脱ぐ柴塚はふと天井を見上げる

ここの商店街は屋根があり 天候を気にせずに買い物が出来るのだ


「商店街に天井か…… こんな田舎でも快適になったなぁ」


「あれを見てると力強さが伝わってきますよね

まるで商店街全体が住民を守っている様で!!」


「……全体が ……守ってる?」


「どうされました? 足りない頭で何か思いつきましたか?」


「タバコ屋の婆ちゃんもそうだったが……

聞き取りした住民達がこぞって馬場恭典を評価してたな……

気持ち悪いくらいに……」


「ギャップですよギャップ!!

悪さばかりしてたチンピラが更生して

真面目に働き出すと好印象に見られる謎の現象ですよ!!」


「あぁ…… 仮に馬場が篠川武美を誘拐した犯人だと仮定した場合

もしかしたら予想だにしないラッキーが起こり得るかもしれない……」


「佃煮屋の里緒奈さんの言い分はスルーじゃなかったんでしたっけ?!

それよりも花屋の諒子さんが言っていた〝謎の大きな音〟を探した方が……」


全くチームプレイがなっていない二人が波長を合わせてない中で

場を和まそうと不意に芦葉は言葉を発する


「僕は諒子さんとは馴染みがあります

経営が苦しい中 よく()()で頑張ってるなと思ってます」


「そうですよね~~ 娘さんも来年の受験勉強ですから一人でお店をしてますしね」


「……ん?」


この違和感を安斎は見逃さない


「芦葉君さ…… 諒子さんって二人の子供いるよな?」


「……いませんよ?」


安斎と柴塚は顔を見合わせる

そして何やら芦葉に頼み事をした




花屋の店内で茎を洗って切り戻している諒子に芦葉は近付く


「あら哲良君! いらっしゃい!!」


「こんにちは~……」


「畳に座ってて! 今お茶とお菓子を用意するから」


芦葉は商店街に来る度にこの店に寄っていた

諒子とは旦那が生前の頃より付き合いがあって

よく母親と一緒にお花を買いに来ていたのだ


「吉信さんが亡くなってもう二年ですね……」


「そうね…… 息子が欲しいと言っていたけど叶わなかったな~」


「……最近何か変わったことはありませんでしたか?」


「そういえば今日 探偵と名乗る二人組がいらしたわね~」


「えっ?」


芦葉は舌で唇を一舐め


「何の用件で尋ねて来られたんですか?」


「えと…… プライベートって言ってたわ!! 恋人同士だったのかしらね~~」



「違います!!!!」



唐突にガラス扉をこじ開けて柴塚が入ってくる

ヒドい焦りを見せて 必死に誤解を解く様は

店の前で温かい目を向ける安斎の心中をお察しする


「あんな甲斐性無しが恋人とかあり得ません!!

今の一人暮らし以上に生計が総崩れします!!」


「何もそこまで言わんでも……」


「じゃぁ少しは事務所の掃除も手伝って下さいよ!!」


一言でも放とうものなら何か余計なことまで口走る勢いの柴塚

だが本来の目的がある手前 事を進めたい安斎は彼女の口を手で抑え


「先ほどはどうもです諒子さん」


「っ…… まだ私に用ですか?!」


「実は芦葉君から貴女のことを聞きましてね?

……どうして嘘を付いたんですか?」


「……」


口を割らず台所に逃げ込もうとする諒子を止めたのは

二人の探偵と協力していて 彼女に疑いの目を向けていた芦葉だった

出されたお茶も喉を通らず彼の心は今 〝この人も武美の行方不明に関係している〟


「おばさん!! 俺は武美と仲が良かったって知ってますよね?!

この二人は俺が金を払って依頼を頼んだんです!! 協力してくれませんか?!」


「哲良君…… ごめんなさいね…… 私は本当に何も知らないの」


目を合わせない様にする諒子

唇を噛み締める芦葉が諦め掛けたそのとき


「じゃぁなんで俺達に嘘を付いたのか それだけでも教えてくれませんか?」


「……」


「別に嘘を付いたからといって貴女が犯人と決めつけた訳ではありません

俺達には一つでも多くの情報が必要なんです

すぐには解決しない事件だと思ってましたが……

〝篠川武美について知ってることを聞かせて欲しい〟という我々の聞き込みに対して

貴女はすぐにバレそうな家族構成を偽ったんです

そうまでする理由は今のところ分かりませんが

本件と無関係なら 自分が傷を負う様な嘘を付く必要は無い訳ですよね?」



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