思い出はフィルムと共に
なろうラジオ大賞3 参加作品
使用キーワード「映画」
1000文字です。
この町の寂れた商店街の一番奥に、小さな映画館がある。
定員20名ほどの小さな映画館。
そこは、館長として映写技士のお爺さんが一人で営業していた。
私はそこのバイトとして雇われた女子高生。
主に受付や掃除などを担当していた。
この映画館は昔ながらの映写機を使って上映していた。大きなフィルムが回るたび、カタカタと音がなった。
これを使えるのも、もう館長くらいしかいなかった。
あと、これは私が最初の仕事の時に知らされたのだが、このお爺さんは不思議な力を持っていた。
人の過去や思い出をフィルムにして映し出すことができるのだ。
ある決まった日に、その能力を使って、予約したお客様の思い出を上映することになっていた。
そして今日も一人の年老いた男性がやって来た。
上映時間は30分。
今回の映画は、この男性の若かった学生時代の様子。そして成人し、結婚し、最後は奥さんと子ども達と一緒の一家団らんの場面で映画は終わった。
館長は何人もの人の記憶を、フィルムにして上映してきた。
そして言う。
「若い頃は皆、明るい未来や希望、夢を目指して生きてく。しかし、歳を取り、先がないことが分かると、慕情や追想、過去を思い出して生きていくもんだ」
ここに来る人たちは、皆そうだった。
来館時は疲れた目をしてる。
しかし、過去の自分という主演映画を見ている時は、みんな生き生きとしてる。
そしてまた、現実世界に戻ると、悲しい目に戻って帰っていく。
彼らはどんな気持ちで、ここに来るのだろう?
ある日私は尋ねてみた。
「あの、館長は自分の思い出をフィルムにしたいと思わないのですか?」
笑いながら答える。
「ワシは16からこの仕事をしておる。いや、子どもの頃の手伝いを含めると、もっと昔からだ。そんなワシの昔話を見たって、全部フィルムを回しておる姿しか映らんよ。そこのワシには青春も家庭も、なにもないよ」
なんだか、それも、かわいそう。
「あの、そしたら、私を撮ってくれませんか? 館長と一緒に」
「君とワシを?」
「きっと私も大きくなったら、今の、この時のことを、館長との思い出をフィルムで振り返りたくなると思うんです。でも、その時にはきっと館長は……」
「ワシはいつも流す方じゃったから、撮られる方はなんとも……」
照れ臭そうに顔を伏せる。
「撮りましょ? 一緒に」
この瞬間をフィルムで永遠に……
寂れた町の小さな映画館。
そこは今日も人々の想いをフィルムに変え、銀幕の世界へ映し出してる。




