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蛇蠍の如く

 五月、暑くなり始めた空気とこれから始まる体育祭を楽しみにしている奴らの浮ついた空気が身体を重くする。まだ初夏ともいえない時期だが暑いものは暑い。だいたいなんだって夏なんてものがあるんだ。暑いし、気温が高すぎて汗が止まらないし、暑いし、迂闊に長袖なんぞ着ようものなら熱中症になりかねないし、しかも暑い。嫌なことしか起きない。気温は10度以上にしてはいけないってのは日本国憲法に書いてあるでしょうが。体育祭も嫌い。というか運動は嫌い、なにが悲しくて疲れた上に汗をかかなきゃいけないのよ。サウナでも行ってこい。体育祭は任意参加制にしてほしいって生徒会の投書箱にも入れたのに!かわいい生徒の頼みも聞き入れてくれないのかここの教師は。と、いつもなら心中で世界に呪詛をまき散らしながら近しい朝則を小突いているのだが。なんと!今回は!黄美さんがいます!すごくキラキラした目でこちらを見ています!

・・・。

暑すぎて若干おかしくなっていたらしい。醜態をさらす前に軽く深呼吸をして落ち着く。なんで軽いかって?こんな暑い空気肺に入れたくないの!

「で?黄美さん、どうしてそんなに私を見つめてくるのかしら」

「そろそろ体育祭でしょ?できれば同じ競技に出たいなーとか、駄目かな?」

「え?」

「え?」

「タイイクサイ?そんなものあったかしら」

「え~?もしかしてさぼるつもりだったの?」

「その日は身体の調子が悪くなる予定だから参加は難しいと思うのよね・・・」

「真顔で何を言っているの。学校行事なんだからちゃんと参加しよ?去年は参加したんでしょう?」

「・・・」

「さぼったの?」

「違うの。ほんとに風邪ひいちゃったのよ」

「本当に?すごい怪しいんですけど」

「本当よ。なんなら朝則に聞いてもらっても構わないわ。少し看病してもらったし」

「まぁそこまで言うなら信じるけど」


 今日ほど一日の流れを早く感じたことはない。楽しい時間は早く過ぎ去るというが個人的にはギロチンの列に並んでいるときのほうがずっと早いと思う。今と違う点を挙げれば列の最後尾に並ばせてくれるような悪徳役人がいないことか。いくらでも払うから最後尾に並ばせてほしい。別に死刑執行の列に並んだことはないけど。望むと望まざるに関わらずに時は進む。どうしようもない不条理だ、神はいないのか。

「そんなに体育祭嫌いなの?嫌いすぎじゃない?」

「なんの話?」

「心の声けっこう漏れてたよ」

「・・・どこから聞こえてたの?」

「望むと望まざると・・・ぐらいからかな」

「忘れてもらえると助かるのだけれど。昼食ぐらいならおごるわ」

「そんなに?じゃあ今度おごってもらおうかな」

「お手柔らかに頼むわね」


 そうこうしている内に体育祭の出場競技決めという名の地獄がはじまった。どんな死刑がいいのか聞かれている気分になるが、参加はしなければいけない。

「はーい。前から言っていた通り、この時間は体育祭に参加する協議を選んでもらいます。えっと、ドッヂボールだけは全員参加で、あとは一人二つの競技に出てもらいます。あとは、まぁいいや、学級代表よろしく」

驚くほどやる気がない、本当にあの人は教師なのだろうか。

「はい!じゃあ選んでいきましょうか!一列ごとに前に来て出たい競技の下に名前を書いてください。えっと、400メートルリレーとバスケットボールと綱引き、あとは二人三脚とバレーか。あ、応援団も男女であるので各クラス二人選出しますね」

担任とは対照的にやる気がある学級代表がテキパキと進める。温度差で風邪ひきそうね。どんどんと黒板に列挙されていく種目。どれも参加したくないけれどバスケと綱引きならなんとかなりそう、かな。失敗しても目立ちづらいし。だが当然それはみんな把握しているわけで。そして男子に比べると運動に前向きな女子が少ないうちのクラス。

「じゃあ、人が多い綱引きとバスケットボールでじゃんけんしてください。まずはバスケットボールからやりましょうか」

まぁこうなるよね。だがこんなことは最初からわかっている。つまり負けなければいいってことよ!


負けました。


でもなんとか綱引きは勝ち取りました。でも二人三脚かぁー。なにを思ったのかわが校は二人三脚は男女混合でやるのだ。それもまた男子でじゃんけんで負けた人が来るのだけれど。わっと歓声が上がる。どうやら男子も二人三脚に参加する面子が決定したらしい。

「じゃあ、二人三脚に参加するのは薮川さんと津久羽くんに決定ですね」

・・・名前も知らない他の人よりはマシ、かな。

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