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柔らかくて温かい少し先の話

 意図せず自分を公開処刑に踏み切ってしまった翌日。私は朝則と二人でご飯を食べていた。

「急拵えだから、あんまり期待しないでね」

「いや、いつも通り美味しいけど」

「あっそ」

公衆での告白を通して、両思いであることはお互いにわかっているものの今までの幼馴染としての期間が邪魔をしてどうすればいいのかわからない。

「「ねぇ」」

「「・・・」」

少しの沈黙の後、お互いに顔を見合わせて笑ってしまう。これだけ一緒にいれば気も合ってしまうのだろう。

「お先にどうぞ」

「え?俺から?」

「うん」

「いや、今まで付き合ったことないからさ。どうするのが正解なのかなって」

「私に聞かれても困る。私も誰とも付き合ったことないし」

というか誰かと付き合ってたら、こんなに朝則に構うことないだろうし。中学から数えたらだいたい四年ぐらい?それは拗れるだろうと、我ながら納得してしまう。

「え?誰ともないの?意外」

「誰かと付き合ってたらあんたなんかに構うわけないでしょ」

「それは、そうか。いやでも、なんか少しだけど俺に冷たかった時あったよ」

「・・・気のせいじゃない?もしくはあんたが私を怒らせたか」

「そうだっけ。ま、けっこう前の話だしな」

円満な人間関係を続けるコツはなんでも伝えないこと、でも溜めすぎないこと。あれは溜めておくべき話だろう。

「それより私の方が意外だったわ」

「そう?」

「あなた結構モテたような気がするんだけど」

「まぁ紫織よりはね」

一言多いやつだ。腹が立つので脛を蹴ったらこっちの方が痛かった。意外と鍛えてるのかもしれない。こっち見てにやにやするな。

「で?」

「自分で遮ったくせに・・・」

「うるさい」

「はいはい。たまに告白されることはあるし、中学生の時にもあったよ」

「それで?誰とも付き合わなかったの?」

「まぁね。紫織よりいいなって思った人会ったことないし」

「褒めても何もでないわよ」

何も出ないが、強いて言えば体温が上がる。自分の耳が熱くなってきていることには気づいている。意地でも朝則の前で気にしているところは見せてやらないけど。いや、たぶんあえてそこには触れてこないんだろうなと思う。

「それで紫織は?」

「いや、私も一緒。朝則そういう経験あるのかなと思って」

「残念ながらないですね・・・」

「使えない二人ね」

「残念な二人組だな」

そこから何か広がるはずも無く、静かな食事だった。我がことながら中学生と思うほどに二人とも照れていた。二人とも初めての恋人ならそんなもんなのかもしれない。


「デートとか?」

食事を終えやゆったりとした時間。急に朝則が電波を受信し始めた。

「何?急に」

「や、さっきの付き合ったら何するのかっていう話」

「それまだ続いてたの?というかそれ含めた話してたんだけど」

「あ、そうですか。すいません、なんでもないです」

デートから先は何も考えてなかったらしい。でも、私もデートって言われてじゃあどこに行くのかと聞かれても答えられない。世のカップルはどこに行っているのか。

「紫織はどこか行きたいところないの?」

「えー、水族館とか?」

「それっぽいところ挙げただけじゃん」

「否定はしないわ。だってあえてあんたと行きたいとこなんて思いつかないし」

「今まで結構いろんなところ行ったし、そのままでいいんじゃない?」

「まぁ、あんたがそれでいいならそれでいいけど」

今まで一緒に出掛けたのがデートだというのなら、別にそれでもいいのかもしれない。何か特別なことは特別な日にすればいいことだ。

「あ、そうだ。今日泊まってく?」

「何急に」

「いや、恋人っぽいかなって。嫌なら別にいいけど」

「いえ、泊まらせていただきます」

「ほら、寝間着持ってきなさい」

「うっす」

すぐに帰ってきた。確かに家は近いけどいくら何でも早すぎるでしょう。走ったのかしら。

「何をそんなに急いでるのよ。別に逃げないよ」

「いや、何となく」

「もういいから先に風呂入ってきなよ」

「え、先で良いの?」

「先のほうが嫌。私が入った後にお風呂はいらないで」

「あ、はい」


 二人ともだいぶ早めに上がっていた。朝則がいつもどれぐらい入っているかは知らないけど。少なくとも私はいつもの半分ぐらいじゃないだろうか。緊張しすぎて全然ゆっくりできなかった。

「部屋どうする?」

「どうするってのは?」

「客間行く?私の部屋でもいいけど」

正直、いま自分の顔がどうなっているか見たくない。口だけ冷静を保っているけど、絶対に真っ赤になっている自信がある。顔が熱くてしょうがない。

「じゃあ、紫織の部屋にしようかな」

「え?」

「えって自分で提案したのに何で驚いてるんだよ。ほら、行こう。もう眠い」

いつもより少し早口でそれだけ言うと、さっさと立って私の部屋に行きはじめた。まだ立ち直れない私から少しだけ見えるあいつの耳は真っ赤だった。


 日が浅いとは言え、付き合い立ての若いカップルが同じ部屋で寝たらどうなるのか、答えは一つしかない。暗くした私の部屋の中であいつに抱きしめられている。今までは想像までしかできていなかったことが急に現実になってしまい、心臓が爆発しそうになっている。私の心臓も朝則の心臓も鼓動が激しすぎてうるさいなんて思いながら私は朝則に抱かれた。

静かになった部屋の中で、急に隣に寝る朝則が話しかけてきた。

「そういえばさ」

「うん」

「まだやっぱり恋愛は嫌い?」

「嫌いね」

「さいですか」

「でも」

「でも?」


「朝則は好き。私が好きなのは恋でも愛でもなくて朝則だから」


次回、最終回

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