片割れはまだ蕾
なんだか朝則と気まずくなってから一週間ほど経っていた。だって私だけが悪いわけじゃないでしょう?そんな誰も答えない問が未だに脳内で踊っている。クリスマスが目前に迫っている街は、緑と赤の電飾が乱舞している。去年まではただ目にうるさいだけだったのに、今日はやかましく私を責め立てている気がする。
「という訳で来てもらったんですけど」
「うん。まだそれ解決してなかったんだね」
「私がそんなに簡単に答えを出すように見える?」
「胸をはるところじゃないね」
一人で考えていてもただただ思考の底に沈んでしまうのが怖くて、黄美さんを呼んでいた。このカラフルな森でひとりきりは少し怖い。
「黄美さんと話せば楽になれるかなって思ったんだけど」
「そんなことは無いよ」
「なんで?」
「だって答えもするべきことも決まってるじゃない」
ずっと前からわかっていた。あの悪夢のような日々は未だに私に我慢を強要する。
「・・・」
「なんでそんなに認めるのが嫌なの?」
「・・・前、話したこと覚えてる?」
「中学生の頃の話?」
「そう。アレのきっかけは確か話してなかったと思うんだけど」
「うん、聞いてない」
「前に学校祭にも来てた黄馨さん覚えてる?」
「うん、あの感じ悪い美人でしょ?」
「そう。あの人が朝則を好きだったからなのよね」
「どういうこと?え、まじ?」
当然と言えば当然の反応だ。クラスで私と朝則の関係性を知っているのは誰もいないはず。担任は住所が近いことを知っているがそんなことに口を出すタイプではない。私は朝則との関係を徹底的に隠してきたし、朝則にもそれを強要していた。
「私と朝則は幼馴染で、ずっと一緒だったの。それが黄馨さんは気に入らなかったのね。好きな相手にべったりの異性がいればイラつきもするでしょう」
あまりうまい説明ができた自信はない。でもなんであんな目に遭って、それが私にどう影響を与えたのかはわかってもらえたはずだ。
「まあ、言いたいことはわかったかな」
「そう?ならいいんだけど」
「でも、中学生の時の紫織ちゃんとは違う点があるじゃん」
「・・・?」
「少なくとも私は紫織ちゃんの味方だよ」
「でも」
「でもじゃないよ紫織ちゃん。私は絶対に紫織ちゃんの味方だし、それはきっと津久羽君も一緒だよ。中学生の時、ちゃんと話さなかったんでしょ?」
「それは、だって、巻き込みたくないし」
「そんなの本人に聞かなきゃわからないじゃない」
「そんなのどうやって・・・」
無言で後ろを指さす黄美さん。少しだけ笑っている顔を見て何となく誰がいるのかわかったような気がする。わかったならなおさら、後ろを振り向きたくない。私はずっと自分勝手で、朝則の気持ちを勝手にわかった気になって遠ざけた。挙句の果てに、朝則だって勇気をだしたであろう告白をこうやって先延ばしにし続けた。でも、それでも私を受け入れてくれるのなら・・・。
「紫織」
「・・・なんでここがわかったのよ」
「え、何となく?出かけたのは見てたし。けっこう時間かかっちゃったけど」
「だからって私のいるところがわかる?普通」
「それは俺の運が良かったってことだ。星座占い一位だったんじゃない?」
「あんたそんなの見てないじゃない」
「ばれたか」
「当たり前でしょで、何しに来たのよ」
「あぁ、謝ろうと思って」
なんで?謝るべきは私であってあなたじゃないでしょ。私のせいで朝則の感情を押し込めることになったんだし。
「その場の勢いで行き過ぎたなって思って。もっと紫織のことを考えるべきだった。ごめん、紫織」
なんで謝るの。私にしか非はない。あなたはいつも私のことを考えてくれたじゃない。体育祭の時だってあんなにと取り乱してくれた。
「告白はもう少し先延ばしにしようかなって。また日を改めてちゃんと言おうと思ってる」
「うるさいわね」
「え?」
「あなたが謝るところなんて一つもないでしょ!悪いのは全部私だけじゃない!これ以上、謝らないでよ!お願いだから」
堰を切られた濁流は止まらない。もう、この想いは全部吐き出すまで止まれない。いつも受け止めてくれてありがとう。だから今日も受け止めて。わがままでごめんね。
「私も好きなの!前からずっと好きなのよ!」
ああ、言っちゃった。