雪椿
今日は随分と冷えると思ったら、外一面が雪に覆われていた。道理で寒いはずだ。雪かきをするほどではないが滑りはする、その程度の積雪だからこそ少し心が躍る。未だに雪でここまでウキウキするのも子供っぽいと思って誰にも言っていない。だって雪が降る様はとても綺麗で儚い。目をずっと引っ張られてしまう。いや、一人だけ言ってもいないのに察する奴がいるが。
「おはよう紫織」
「おはよう、最近は自分で起きるのね」
「ん、まぁね」
すこし会話がぎこちない。あの朝則の告白からなんだか朝則は少ししっかりとするようになった。とはいえ、元がだいぶだらしなかったのでマシになった程度だけど。思えば別にあの日を境にしたわけではなく、前から少ししっかりはしてきている。というかこういうのって私がぎこちなくなるパターンじゃないの。なんで朝則がぎこちないのか。
「はい、朝ごはん」
「あぁうん。ありがとう」
「・・・・・・」
「・・・」
なんだか腹が立つので睨んでやると、少し決まずそうに眼をそらす。乙女かお前は。
「なんとかならないの?」
「え、何が?」
「そうやってもじもじするの。きもい」
「な」
「なんであんたがそんなに気まずそうにしてるのよ」
「いや、なんか気まずくない?」
「別に。というかあなたから言ってきたんだから少しはどっしり構えなさい」
なんで私ではなく朝則が気まずそうにしているのか、それは私の役目でしょう。朝則があまりに気持ち悪いのでなんだか冷静になって来た。
「ほら、早く行きなさい。私は片づけしてから行くから」
「あ、うん」
なんだか無性に腹が立つ。別にあいつに腹を立ててもしょうがないのはわかっているのだけど、でもイライラするのだからしょうがない。
「なんかイライラしてるね」
「ん、まぁね。おはよう黄美さん」
「おはよう、紫織ちゃん。何かあったの?」
「んー、まぁー、いろいろ?」
あまり人に言いたい内容ではないし、結局原因が私にあるのだからそれを愚痴るのもなんだかおかしい気がする。でも黄美さんならいい、のかな。
「その、告白されたんだけど」
「うん。うん?もっかい言ってもらっていい?」
「告白されたの」
「誰に?」
「秘密」
すごい顔してる。でもこればっかりは譲れないから我慢してもらうしかない。
「どうしても?」
「どうしても」
「どー-しても?」
「どー-しても」
「紫織ちゃん、強情だよね」
「知らなかったの?」
「知ってる。あ、前誕生日プレゼント買った幼馴染?」
「あたり」
「ふーん。ふー---ん」
「何よ」
「別に?それで告白されてなんでイライラしてるの?」
「いや、答え一回保留にしたんだけど。すごいあっちがもじもじしてて」
「それで?」
「いや、それがなんかもやもやするの。私が後回しにしたんだから私が気まずそうにするならわかるのよ。なんであいつが気まずそうにしてるのよ」
なんだか説明してたら余計にいらいらしてきた。なんで、お前がもじもじしてるんだ。それは私でしょう?こう、私が気まずそうにするはずのエネルギーが発散されなくて本当にイライラする。
「まぁ、納得はしてないけど理解はできたかな」
「でしょ?」
「でも紫織ちゃんがイライラする理由なくない?」
「いや、なんであいつがもじもじしてるのよ」
「紫織ちゃんがもじもじしてないからじゃない?」
「・・・どういうこと?」
本当に何を言っているのかわからない。これが女子力か。
「なにか勘違いしてそうだけど大丈夫?」
「大丈夫」
「まず、紫織ちゃんが告白されたんだよね?」
「そうね」
「で、とりあえず答えを後回しにしたんだよね?」
「そうね」
「そしたらあっちがなんだか気まずそうにしてた」
「そうよ。あっちが悪いでしょ?」
「紫織ちゃんが悪いと思うな」
「なんで?」
じゃあ、という前置きから長い説明が始まった。なんだかとても子供のような扱いをされたような気がする。説明してくれるのはありがたいのだが、黄美さんはすごい女の子っぽいというか、私と感性がだいぶ離れているということが分かった。つまり、黄美さんが言っていることはほぼ理解できなかった。
「理解できた?」
「・・・うん!できた!」
「理解してない反応じゃん!」
「だって黄美さんすごい女子っぽいじゃない」
「それって褒めてるの?」
「褒めてる。特にこことか」
「ひゃっ!なんで触るの?」
「いや、私ほとんどないし」
「そういえばそうだったね」
「だからよ」
「女子っぽいかどうかは胸じゃないとおもうんですけど・・・。ていうか、なんでその手を見つめてるの?」
「いや、想像以上に柔らかかったなって」
「今すぐに忘れて。っていうか説明したことわかったの?」
「理解できないことは理解できた。ま、しばらくすればあっちも慣れるでしょ」
「ていうか紫織ちゃんが早く答え出せばいいんじゃないの?」
「それは無理」
「なんで?」
「え。だってずっとあいつに片思いしてたみたいだし、私」
「まぁ、でしょうね」
いやに疲れた顔をしてため息をつく彼女の姿はなんだかとても「女子」だった。