無意識のラブコール
「紫織ちゃん!こっちこっち!」
「おはよう。黄美さん」
「おはよう、また付き合ってもらってごめんなさい」
「全然!紫織ちゃんから誘われることないから新鮮でうれしいよ!」
彼女の笑顔は何度見ても眩しすぎてそろそろ目が痛くなってくる気がする。
「そう?それならいいのだけど」
「それで何買うの?プレゼントとは聞いたけど」
「今度誕生日があるからそのプレゼントを買おうと思って」
「ほうほう、どんな人?」
「幼馴染」
「関係性じゃなくて趣味嗜好を聞いたんだけど・・・」
「あら。えっと、暖色系が好きね。でも似合うのはどちらかというと寒色系かしら。何回言っても似合う色にする気はないみたいだけど。でも迷ったときには黒っぽいのが多いわね。男の子の性なのかもしれないけど、あと・・・」
「わかったわかった。もういいよ。どんなものを送ろうとか考えてるの?」
「小物かしら。実用性のあるものが良いわね」
「おっけー!じゃあ、いろいろ見て回ろっか」
黄美さんに誘われるまま雑貨屋に連れていかれる。ずいぶんかわいい店に連れてこられた。確かに小物が多いが、男の子に贈るには少し可愛すぎやしないだろうか。別にかわいいものが嫌いなわけではないだろうけど、でもなぁ。
「これなんかどう?」
「何これ」
「知らないの?最近流行ってるUSB型カイロ」
彼女が見せてきたのは「話題沸騰中!!」とか書かれたUSBにつなぐタイプのカイロ。季節にはあっているけどどうなのかしら、これ。なんか燃える充電器を思い出して少し腰が引ける。
「それは見ればわかるけど、これ需要あるの?」
「さぁ?」
「他のも見てから考えるわ」
「プレゼントだし、別にそこまで実用性求めすぎなくてもいいと思うよ?」
「それはそうだけど、ちょっとあれは可愛すぎない?」
「別にいくない?女の子でしょ?」
「え?」
「え?」
「男よ?贈るの」
「・・・聞いてないよ?」
さっきの会話を聞いていなかったらしい。確かに途中で割り込んできたし、あまり聞いてなかったのかもしれない。
「さっき言ったわよ」
「そうだっけ?」
「そうだったわよ?」
「男の子に?プレゼント?紫織ちゃんが?」
「そうね」
「彼氏いないって言ってなかったけ?」
「いないけど」
自分で言ってて胸がずくりと疼く。別に今さら恋人がいないから悲しいなんて思うことも無くなっていたけど。ちゃんと口に出すのはまた違った感触がある。
「家族?」
「違うけど、幼馴染だってば」
「友達以上、恋人未満みたいな感じってこと?」
「・・・まぁそうとも言えるわね」
「!!!」
「別に付き合う予定は無いわよ」
「その話詳しく!」
目を爛々とさせながら食いついてきた。結構ミーハーなのよね。いつも私がそういう話に乗らないからあんまりそういう話しないのよね。今度からもう少し話に乗ってあげようかしら。
「いや」
「そこをなんとか」
「駄目なものはダメ」
「うう・・・」
やっと諦めてくれたらしい。まぁ絶対に言うつもりもないし、その方が楽でいいんだけど。でも絶対にどっかで質問攻めにあうんだろうなとも思う。頑張れ未来の私、後は任せた。
「そしたら、何買おうかな。ベタだけどマフラーとか手袋とかかなぁ」
「そういえば去年はマフラーをあげたし、手袋とかが良いのかしら」
「・・・」
ものすごいじとっとした目でこちらを見てくる。
「・・・何かしら」
「紫織ちゃんさ、正直ほとんど買うもの決まってたでしょ」
「・・・」
「紫織ちゃん?」
「そんなことはない、けど」
「買うものはもう決まってたけど、なんとなく自身がないから私呼んだんでしょ。どう?あたりじゃない?」
なんでこんなところで勘の良さを発揮するのか。いつもは割とぽけっとしてるのに。
「・・・当たり、です」
「先に言ってくれれば良かったのに」
「なんか恥ずかしくて」
「もう、ほら下のお店行くよ。確か手袋のお店会ったはず」
「あ、うん」
「去年買ったお店覚えてないの?そこ行ったらいい感じの相性のやつあるかも」
「わかった。確かこっちのお店」
去年買ったお店に行くと、おなじマフラーの近くにセットで手袋が売っていたので結局それにすることにした。うん、これならあいつも文句はないだろう。文句なんて言ったら絶対にキレ散らかしてやる。
それにしても無意識とはいえ、買うものはもう決まってた。結局私は怖いだけだ。それは別にいい。でも、自分が憶病であることを認めたくない自分もいる。そんなに簡単に認められるほど私はできてない。でも、いい加減自分の気持ちに名前を付けなきゃいけない、気がする。