黒い孔雀の花
明けようとする夏休みを引き留めるかのように暑い日の午後。私は黄美さんと遊びに来ていた。にしてはなんだかそわそわしている。
「どうかしたの?」
「前から聞きたかったことがあったんだけどね?」
「えぇ」
「その、津久羽君とはなにもないの?」
「なにもっていうのは?」
「花火大会で二人によく似た人が歩いてるのを見たの」
「他人の空似じゃない?」
「そんなはずないと思うんだけど」
「それが聞きたかったの?」
「いやこれは違うよ。全然別のはなし」
「そうなの、じゃあなにが聞きたかったの?」
「前にさ、体育祭で話したこと覚えてる?」
「あー、そのこと」
「そう。前はそのうちねって言ってたけど文化祭でも変な人に絡まれてたし」
「そんなこともあったわね」
「だからもう話その聞きたいなって思って」
「ほんとに聞きたいの?」
「聞きたい。紫織ちゃんはいつもなにか気にしてる感じするもん」
「先に言っておくとなにも面白くないわよ」
「いいよ」
「しかもつまらないわよ」
「いいよ」
全く引く気がない彼女の様子を見て、私もあきらめた。なにも面白くないし、聞いた彼女のほうが負担が強い気がするんだけど。
「忠告はしたわよ」
「うん」
完全に目が据わって覚悟が決まったらしい彼女を見て私は観念して話し始めた。あのヘドロの中のような日々を。