閑話休題 夏の陽の朝顔
じめッとした夏の日。急に鈴太郎に呼び出され、街に遊びに来ていた。こんのくそ暑い日の真昼間に呼ばれたのでくだらない用事だったら張りたおしてやろうと決意しながら歩く。
「何」
「今日はいい天気だな!」
「そうだな、良すぎてイライラしてくるな」
「何を言っているんだ!最高にいい天気だろう!」
「俺にはちょっと暑すぎるかな」
「?」
「その顔本当に腹立つからやめて欲しい」
鬱陶しいのはいつもだが、こう暑い日だと一層激しさを増している。
「それで?」
「何がだ!」
「お前が用事あるって呼びだしたんだろうが」
「あー、そ、そうだったな」
「は?」
「その話は置いといて!カラオケに行こう!」
「嫌」
「大丈夫だ!誰も誘っていないし誘われていない!」
「本当かよ」
「ほんとほんと」
うさん臭いが嘘はあんまりつかないし本当なのだろう。それにしてもこいつが相談とは珍しい。基本的に直情径行なのであまり悩むことはないのだが。
「で、相談ってのは何」
「実はな?そのー」
「早く言えよ。お前がしおらしいと気持ち悪い」
「結構口悪いよな・・・」
「で?」
「その、好きな人がいてな」
「お前はすぐに告白するタイプじゃないのか?」
「いや、いつもはそうなんだけど、あまりにいつもとタイプが違うから。どうしたものかと思って」
「珍しいじゃん。誰?」
「その、あまり笑わないでくれよ?」
「もちろん(相手によるけど)」
「その、薮川さんなんだ」
「は?薮川ってうちのクラスの?」
「そうだ」
「そりゃあ随分タイプが違うな」
「そうなんだ。正直今までタイプじゃなかったから全く知らないんだ」
「だろうな」
コイツが紫織に惚れるとは正直予想外だった。手が早いタイプだが、基本的にギャルとかそこらへんが好きなので意外でしかない。そして問題なのは、地雷ホイホイだということだ。なぜだか好きになるやつも好かれるやつも地雷なのだ。今のところ、90%を超えているんじゃないだろうか。つまりこいつに関わると、紫織に不利益が生じる可能性が非常に高い。とはいえ、露骨に悪く言うのも怪しまれそうだしな。
「どこら辺に惚れたんだ?」
「この前、昼休みに少し席の近くを通ったんだ。その時にな、自分で昼飯を作っているという話をしていてな」
「別に珍しい話ではないと思うけど」
「それはそうなんだけどな、彼女は勉強もできるだろう?」
「結構できるな」
「才色兼備の上に、自炊もできる!いつか彼女にお手製弁当を作ってもらうのが夢でな!」
「あー、いっつもやばいのばっかり引き当てるもんな」
「そうなんだ!だから今まで一度もそんな経験がない」
「それで、なんで俺に?」
「お前はけっこうもてるし、体育祭の時に保健室まで運んでいただろう?なにか知っているかと思ってな」
「あぁ、なるほど。知らないわけじゃないけどね」
「なにかないか!好きなものとか!好きなこととか!」
「いや、そういうのじゃない」
「?」
「し、薮川は中学で一緒だったんだけど、なんか派手な奴の怨みを買ってね。けっこう陰湿ないじめを受けてたっぽいんだよね」
「そ、そんなことが」
「そ。それがトラウマになっているから、恋愛は無理だろうね」
「俺がその傷を癒すさ!」
「だから無理だって。お前みたいな地雷ホイホイが近づかれても迷惑だろ」
「そ、そうかもしれんが」
「やめとけって。お前みたいに女子に人気のあるやつが近づいたら駄目なんだよ」
「でも」
「でもじゃない。あいつを悲しませたくないなら近づかない方がよっぽどあいつのためになる」
「そんなにか?」
「そんなに」
「そ、そうか」
「そんなに落ち込むなよ。今度合コン付き合ってやるから」
「いいのか?」
「一回だけな」
「じゃあ、今から行くか!」
「えぇ・・・」
とりあえず紫織のことは諦めてくれそうな感じがあって安心できる。ま、紫織にまたあんなこと体験させたくないしな。