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紫黄道中

 朝則と急に出かけることが決まった次の日、私は黄美さんを呼んでいた。なにせほとんど化粧とかおしゃれとかいうものをしたことがない。元来引きこもり体質なのもあって家からでるのは学校と買い出しと朝則の家だけ。つまり、おしゃれを見せる相手がいなかった。

「珍しいね」

「なにが?」

「紫織ちゃんから誘ってくるの。いつも私が誘ってたから、しかもこんな急に」

「それはごめんなさい。急に予定が決まったものだから」

「それでどうしたの?」

「言ってなかったっけ」

「言ってないよ」

「えっと、浴衣とかその他諸々見繕ってほしくて」

「ほう?」

「いや、それだけだけど」

「そうじゃないでしょ?なんで、急に、そんなことが、必要なのか、聞いているんですよ、私は!」

「教えなきゃだめ?」

「だめ!ほれほれおねぇさんに話してみてください!」

「誕生日がちょっと早いだけでしょ」

「あ、誕生日プレゼントってことで」

「えぇ・・・」

「ほれほれ」

「あした、その、夏祭りに行くから」

「え?」

「え?」

「夏祭り?」

「そう、夏祭り」

「誰と?」

「秘密」

「どうしても?」

「どうしても」

「・・・」

「・・・」

「じゃあまぁそこは突っ込まないことにしておくね」

「助かるわ」

「一個だけ聞きたいんだけど男?」

「まぁ」

「なるほど、乙女的にはいつも通りで行くわけにはいかないと」

「そうじゃないけど、私から誘ったのに私がいつも通りだと失礼じゃない」

「はいはい、それでなにが知りたいの?」

「化粧とか、浴衣とか?」

「浴衣はわかるけど化粧できないの?」

「ほんとに基礎ぐらいしかできない」

「そのつやつやの肌とかきれいなまつげは素ってこと?」

「まぁほとんど」

「がっでむ。ナチュラルメイクうまいなって思ってたんだけど違ったんだね」

「だからお願いします」

「オッケー!じゃあ、まずご飯食べようか」


 黄美さんに連れられて街を回る。すいすいと街を歩く黄美さんを見ると、あまり街に出ない自分が浮き彫りになったようで少し恥ずかしい。まず腹ごなしと連れていかれたカフェで少し遅い昼食をとる。浴衣を着るならあまりおなか一杯にしない方がいいと言われ、少し控え目な昼食だった。

「まずは聞きたいんだけど、どんな浴衣が着たいの?」

「別によっぽど変じゃなければいいと思ってるけど」

「甘い、甘すぎるよ!紫織ちゃん!」

「今日はテンション高いのね」

「そりゃあ、あの紫織ちゃんが男の子と出かけるんだからテンションも上がるよ!」

「そ、そう」

「メイクは今日明日でできるようにはならないから明日メイクする前に電話して?」

「そうなの?」

「服とかは今日選べばいいけどメイクは一朝一夕では難しいかな」

「そうなの。みんな苦労しているのね」

「でも紫織ちゃん肌も顔も整ってるし、ナチュラルメイクのほうがいいかな。あんまり濃いメイクしても引かれると思うし」

「ナチュラルメイクならできるわよ」

「紫織ちゃんのそれはナチュラルメイクじゃなくて化粧が薄いだけだよ」

「違うの?」

「全然違うよ?むしろよくそれで今まで生きてきたね」

「そこまで言われることかしら」

「言われることだよ」

「まずどこに行くの?」

「まずは下着かな」

「下着?なんで?」

「浴衣ってこう、前に開くでしょ?あと、普通のブラじゃなくて胸を小さくするの使ったりするんだけど」

「これ以上どう小さくするの?やすり?」

「そんな悲壮な顔しなくても。確かに紫織ちゃんは要らないか」

「・・・」

「私の胸を恨みがましく見るのをやめてほしいかな」

「いまさらそこまでコンプレックスに感じることもないと思ったけど、そう見せられると思うところがあるわね」

「はいはい、紫織ちゃん寝るときとかに使うノンワイヤーとかナイトブラとかある?」

「一応あるよ」

「かわいいやつ?」

「灰色とかかな」

「じゃあ、それも買うかな」

「浴衣はどうするの?」

「それはお店で探すよ。紫織ちゃんは青系の色が似合うと思うけど、店の人に聞いた方が早いよ」

「なるほど、じゃあそろそろ行く?」

「そうだね、他のは行きながら説明すればいいし。行こ行こ!」

黄美さんと各種店舗をめぐる。あまりこういう経験はなかったのでとても新鮮だった。それにしてもいろいろなお店があって、見ているだけでも面白い。お母さんがいろいろなお店を回る気持ちがわかった気がする。


「こんな感じかな」

「疲れたわ」

「あんまりこういうことしないんだもんね」

「ほとんど初めてね」

「たまにはこういうのも面白いでしょ?」

「ま、たまにはね」

「浴衣の着方とかは大丈夫?」

「ばっちりよ」

「それは安心だね。ちょっと聞きたいんだけど」

「なに?」

「明日行くお祭りの場所聞いていい?」

「ダメに決まってるでしょ」

「うまく行ったら教えてね!」

「何を期待してるのかわからないけど良いわよ」

準備はばっちり。明日は朝則の度肝を抜かれた顔を思い浮かべると今からドキドキする。メイク以外は準備ばっちりなのできっとうまくいくはず。たまには朝則にもお礼をしなきゃいけないしね。

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