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赤紫色の奇跡

とある夏の朝。私はなぜか幼馴染の家に来ていた。いや、別に理由はわかっている。今日は朝則の家におばさんがいない、そしてそんなときの朝則にご飯を作るのは私で、今更そこに疑問はない。でも思うだけなら問題はないはずだ。ちょっとめんどくさい。というか私を呼ぶんじゃなくてお前が来い。そして面倒くさいので私は事前に連絡していたわけだ。昼には起きろ、と。そして現在13時、そして朝則の部屋から聞こえてくる寝息。

「起きなさいっっ!!!」

「・・・」

「・・・」

「ん?」

「ん、じゃないわよ。早く起きて」

「おはようございます」

「目覚めた?」

「起きました。なんで朝からキマってんの」

「私は昼には起きろって言ったはずなんだけど」

「そうだね」

「今何時?」

「13時。わぁーお」

張り倒してやろうかコイツ。いや待て、女の張り手は痛いと武神も言っていた。それにあやかろうかと考えていると、なんだか申し訳なさそうな顔をしてくる朝則。私がその顔に弱いことを知っているからって・・・。まぁそのことは流してやるか。

「で、謝罪の言葉ぐらいないの?」

「すいません」

「はぁ、ま、わかればいいわ。ご飯作るから顔洗って歯磨いてきて」

「あいあい」


 朝則が支度を整えている間に朝ごはん、もとい昼ご飯の準備をする。朝則は寝起きにがっつりとしたものは食べられないので軽めにパンとヨーグルトにしておく。朝則は甘党なのでジャムもヨーグルトもかなり甘めになっている。正直、甘すぎないかとも思っているが、これがちょうどいいらしい。よくわからん。

「あー、さっぱりした」

「はいはい、ご飯できたから食べちゃって」

「あんがと。いただきます」

黙々と食事をとる幼馴染はやはり育ちが良いのだなと思う。いや、いただきますとかはほとんど私だが。親が忙しい朝則は誰かと食事をとったことがあまりなかったので、作法はともかく気持ちが伴わなかった。見かねた私が世話を焼き始めたのが朝則との付き合いの始まりだ。最初はいただきますも言わない朝則にキレちらかしていたのが功を奏し、今ではどこに出しても恥ずかしくない。

「何、じっと見てきて」

「いや、成長したなって」

「何が?」

「最初の頃はいただきますも言わなかったじゃない」

「そりゃまた随分昔のことだな」

「ひどかったもの」

「それは・・・そうだな。紫織にずいぶん絞られた」

「今でも私はそうだけどね」

「迷惑をかけるねぇ~」

「そんなに一緒にはいないでしょ。あとそんなにうまくないわよ」

「今日も辛辣だ」

「はいはい、そういえば宿題って手つけてるの?」

「多少はね」

「ほんとは?」

「2ページぐらいかな」

「じゃあ、今日は宿題しようかな」

「は?」

「は?じゃないけど。あんた放っておいたらそのまま後半に突入しちゃうでしょ」

「いや、そこじゃないが」

「じゃあ何よ」

「そんなにウチにいる気なの?」

「もちろん。今日は夕飯も私がつくるからね」

「それは、そうだけど」

「だから宿題を進めるわ」

「あ、はい」


 黙々と宿題を進める。正直、もっとごねるかと思っていたのだがずいぶん素直になった。気づけば二時間、我ながら色気のない夏休みだと思いつつ宿題を進める。割と多いのよね。進学校でもないのに意識が高すぎやしないかと思う。

「疲れた」

「そうね。でもけっこう進んだでしょ?」

「それはまぁね。てかさ」

「うん?」

「宿題多すぎない?」

「わかる」

「進学校でもないのに、意識が高すぎる」

「そ、そうね」

「どうしたの」

「別になんでもない」

「あ、外涼しいし買い物行ってくる」

「ん、じゃあ俺も行くわ」

「来なくていい」

「でも」

「来 る な」

「あー、その悪かった」

「わかればいいのよ。じゃあ、いってくるから」

「あい、いってらっしゃい」


 やっと夕方と言える時間まで来たが、それでもかなり暑い。いつも通る道にいつもは見ないのぼりが立っている。花火大会、今年もそんな季節になったらしい。以前から思っているが花火大会と夏祭りの日付が大きくずれているのはよくわからない。どうせなら合わせればいいのに。それにしても花火大会か、朝則を誘おうかな・・・。いやいや、なんであいつを。いや、でも。たまにはそういうのも・・・。どんどん自分の顔に熱が集まってくる。

少し陽が落ちてきて、赤くなった道をあるいていると、顔が冷えてきた。よし、誘うか。今までもあいつが誘ってくれたのは全部断っているわけだし、たまには私が誘わないと悪いし、そう、これは、罪滅ぼし、みたいな。たぶん。

気持ちが変わらないうちに誘わないと、適当な言い訳でごまかしてしまいそうな気がするので買い物をぱっぱと済ませて帰路につく。


「ただいま」

「お帰り、早かったね」

「ま、まぁね」

「今日はなににするの?」

「あー、ねぇ」

「なに?」

「明後日に花火大会あるじゃない」

「もうそんな時期だっけ、それがどうかしたの?」

「その、一緒に行かない?」

「え?」

「だから、花火大会、一緒に行かないって言ったの」

「・・・いいよ」

「そう、じゃあ明後日ね。ちゃんと準備してね」

「・・・」

「何よ、じっと見て」

「すごい平静ぶってる割に顔真っ赤だなって思って」

「うるさい!!」

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