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真っ赤な団扇は夏を呼ぶ

あっつい。何が悲しくてこんな暑いのに学校に行かなきゃいけないのか。今すぐに気温が30度を超えた日は通学・通勤を禁じる法案を提出してほしい。私が通してやる。行き所のない呪詛を唱えていると幼馴染が階段を下りてくる。

「おはよう、朝則」

「おはよ。機嫌悪いね」

「まぁね。今日は暑いし。今日って学校休みじゃなかったっけ」

「それは明日から。朝ごはんあるよ」

「ありがとう。珍しいね、朝則がご飯を自分で準備するなんて」

「暑いと紫織の機嫌が底なし沼だから」

「いつも機嫌が悪かったらいいのかしら」

「それは勘弁してほしい」

「はぁ、いただきます」

身体中が重い。生理のほうがまだマシなこの季節なんて無くなってほしい。もし失くしてくれたら私が泣いて喜んでやる。イライラしすぎて朝ごはんを食べ終わったことも気づかなかった。

「でもいいじゃん。学校今日までなんだし」

「それだけが唯一の救いだわ」

「ほら、行こう」

「あんたにリードされるの腹立つわね」

「横暴すぎる」


 学校の行き方をバスにしていてよかったと心の底から思う。しばらくは機嫌が直る気もしないし、朝則の好きな夕ご飯を作ってあげるか。連絡しとこ。忘れそうだし。

「おはよう。黄美さん」

「おはよう!紫織ちゃん。今日も暑そうだね」

「だって30度超えてるじゃない。黄美さんは暑くないの?」

「暑くはあるけど、紫織ちゃんほどじゃないかな」

「頑丈ね。羨ましいわ」

「紫織ちゃんがひ弱なんじゃないかな」

「言うようになったわね。始業式が嘘のようだわ」

「もう結構いっしょにいるからね。もう四か月ぐらいだね」

「もうそんなに経ったのね」

「ね。意外とはやかったね」

「先生来たわ」

「ね、紫織ちゃん」

「なに?」

「楽しい時間だから早く過ぎるんだよ」

「そうかもしれないわね」

学校には来たが、今日は特に授業もないので退屈な終業式を耐えるだけだ。体育館は集会に使われたり、部活に使われたりするのでちゃんと冷房がある。だったら教室にもつけてほしいところだ。生徒会に投書に入れておくか。くだらないことを考えていたら集会が終わっていた。

「退屈だったわね」

「紫織ちゃん、ちょっと寝てなかった?」

「寝てはないわよ、考え事してただけ」

「ふーん。あ、そうそう今日遊びに行かない?」

「良いわよ。もうこれで終わりだし」

「久々にカラオケ行きたいな」

「え」

「紫織ちゃん、なかなか付き合ってくれないし」

「まぁたまにはいいわよ」

「いぇーい!約束だからね!」

「はいはい」

黄美さんは結構カラオケが好きだ。一人でもちょくちょく行っているらしい。ただ歌うのが好きらしく、放っておくとソロライブみたいになるほどだ。


 うちの学校は夏休みが他の学校よりも一週間ほど早かったりする。なぜかは知らないけれど、そのおかげで空いている街の中で遊べるのだから感謝している。平日の昼下がり、いつもとは打って変わって人通りの少ない街を黄美さんと歩く。

「いつもがどれだけ人がいるのかがよくわかるわね」

「ねー。いつもは100m歩くだけでも大変なのに」

「だから夏休みの時期ずらしてるのかしら」

「聞いたことあるかも。だれかが教育委員会だかどっかに問い合わせしたらしいよ」

「へぇ、暇なのね。でも夏休みって教育委員会が決めてるの?」

「さぁ?」

「曖昧すぎない?」

「又聞きの又聞きみたいな感じだしね」

「で、どうだったの?」

「返答なかったって」

「ひどいオチね」

「でもそこが変じゃないかって。だって答えられないとか分かりませんとか適当に答えればいいじゃん。でも無視ってことは本当になにかあったんじゃないかって」

「40点かな」

「そんなに面白くなかったの!?」

「あんまり」

「うーん。また面白い話探すかな」

「別にわざわざ探さなくてもいいと思うけど・・・」

「いーや、いつか紫織ちゃんが笑い転げるような面白い話を聞かせてあげる!」

「そんなのは私も体験したことがないわね」

「でしょ!私がいつか聞かせてあげるからね!」

「期待しないで待ってるわ」


 日陰を歩いてきたが、それでもなかなかに暑かった。冷えピタを目立たないところに張っているけれどそれでも汗が止まらない。

「空いててよかったわね」

「ね!」

「それと聞きたいことがあるのだけれど」

「なに?」

「今日18時まで歌うって本気?いま13時よ?」

「モチのロン!私の気が済むまで付き合ってもらうよ!」

「はいはい、私にも少しぐらい歌わせてね?」

「もちろん!というか歌ってもらうよ!」

「決定事項だったのね」

「私も聞きたいんだけど」

「どうしたの?」

「そのうちわ何?すごい赤いけど」

「さぁ?家にあったから持ってきてみただけ」

「赤すぎない?」

「使えればいいかなって思って」

「ふぅん」


そこまで遅くなるとは予想していなかった。買い物に行く時間がない。これは朝則に連絡しておく必要があるわね。


今日買い物に行く時間無いから買い物行ってくれる?リスト送っとくから

わかった。珍しいね

私だって女子ですから。家帰ったら説明してあげるから

はいはい


「盛り上がっていくぞー---!!!!!!!!!」

「いぇーい」

のっけからテンションマックスな彼女だが体力は持つのだろうか。既に最高潮な彼女についていけるかの一抹の不安を抱きながらマイクを持った。


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