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さんざめく花畑

 二日目の朝。天気はすこぶる良いが、気分はすこぶる悪い。気分差で体調を崩しそうだけど、そんな甘いことは言ってられない。朝則に知られたら面倒なことになることは目に見えているのだから。

「おはよ」

「おはよ」

「具合でも悪いの」

「別に」

「の割にはいつもよりも元気がないけどね」

「うるさい、こっち来るな」

「はいはい」

本当にこんなときばっかり気が利く。なんだお前は、主人公か。

言いもしない不満未満の気持ちがあふれる。嫌い、ではないと思う。顔はまぁいい方。運動もできる、勉強がちょっと苦手。でも生活力はないし、朝も弱い、だからと言って夜に強いわけでもない。やっぱり欠点ばっかりじゃない。あほらし。


 二日目で最終日の今日は昨日よりいっそう空気の温度が高い気がする。先に学校に着いた朝則が談笑している。なんで私があいつのために悩むのか、なんだか腹立つ。悩んでないし。馬鹿朝則。

「おはよう」

「おはよう紫織ちゃん」

「調子はどう?」

「ばっちり!紫織ちゃんは?」

「普通、いつも通りよ」

「ほんと?昨日のことって・・」

「そのことは黙ってて。誰にも言わないでいて」

「でも・・・」

「お願いだから。そのうち話すから。ね、おねがい」

「・・・わかった」

「それは助かるわ」

彼女がちゃんと気が遣える子で助かった。

「でも絶対話してもらうからね」

「はいはい」

昨日ほど準備に手間取るわけではないが、氷を使うのでそこにはかなり気を遣っているらしく、委員長の顔はだいぶ疲れていた。


 昨日ほどの盛況はないけれど、流石にこの時期に冷たい食べ物は人気でかなりの盛り上がりを見せていた。それ自体は予想通りだったのだが、売れすぎて氷がなくなったことはさすがに予想外だった。

「まさか当番が回ってくる前に全部売り切れるとは思わなかったわね」

「ね!でも紫織ちゃん的にはそっちの方が嬉しいんじゃない?」

「当然じゃない。当番が後半で助かったわね」

「本当だね。じゃ、お店たくさん回ろうね!」

「あれ本気だったの?」

「もちろん!」

「えー」

「他に行きたいとこがあるならそっち行くよ?」

「そういう訳じゃないんだけど・・・」

「じゃあ行こ!」

「そうね」

「いぇい!」

「ほら、行きましょ」

「うん!」

昨日はほとんど回ることが出来なかったが、今日回ってみるとかなり多くの種類の出店があった。カジノ、タピオカ屋、焼き鳥屋、今日一日でとても回れる量ではないのが残念だ。

「どこから行くの?」

「う~ん、まずご飯食べたいし焼き鳥屋かな」

「じゃあ、行きましょうか」


 外の焼き鳥屋は盛況で少し並んだが、案外すぐに順番が回ってきた。焼き鳥のいい匂いが良い感じに空腹を煽る。昨日のこともあり、ほとんどおなかは空いていなかったが、なんだかおなかが空いている気がしてきた。

「いらっしゃい!!何にしますか!!」

「うーん、塩と醤油を二本づつください」

「あいよっ!!」

久々に食べた焼き鳥は雰囲気も相まってかなり美味しかった。種類が少ないのが残念だけど、まぁ学校祭だしね。

「美味しいね!」

「本当ね。去年は面倒だからってあんまり参加してなかったのよね」

「え!もったいないよ!来年も一緒に回ろうね!」

「はいはい。来年までに考えておくわね」

「約束だからね!」

「はいはい。あ、ネギマが食べたかったわね」

「ほんとに覚えてるのかなあ?」


 二人で校内を冷やかして回る。去年はあまりちゃんと参加していなかったが、もしかして去年も面白かったのかもしれない。流石に二日続けてくるほど彼女も暇ではないだろうし。

「にぎやかなのね」

「そりゃあそうだよ!今日は学校祭なんだから!」

「それはそうだけど」

「ほら、あっちのお店見に行こう!」

「えぇ」


次に行ったのは焼うどん屋だった。ソースの香ばしい匂いが焼き鳥を食べたはずの胃を刺激する。

「いい匂いだねぇ」

「そうね。さっき焼き鳥食べたはずなんだけど」

「ね~!早く買お!すいませーん」

何か言う前に行ってしまった。今更ながらいい子だと痛感する。なぜ私と仲良くしているのか不思議だけれど。なにか気に入られることをしたのかしらね。

「買って来たよ!はい!」

「ありがと。あっちで食べましょ」

「うん!・・・どうかした?」

「なにが?」

「なんか考えてたから」

「気のせいよ」

思ったよりもずっと敏いのよね。初対面の時はそんな風に感じなかったんだけど。

「次はどこに行くの?」

「うーん、もっと回りたいんだけどもう時間がギリギリなんだよね」

「え?もうそんなに経ってたのね」

「そうだよ。紫織ちゃん楽しんでたもんね」

「もう終わりなのね」

「うん。もうクラスのとこ戻ろなきゃ」

「うん」


 二人でクラスのところに戻る途中、かなりの店が片づけをしているのを見た。つい数時間前まではあれだけ絢爛だったはずなのを思うととても寂しく思う。こんなに寂しく思うってことはきっと自分自身が思っているよりも楽しめたんだと思う。友達がちゃんといるだけでこんなに感じ方が変わるものなのね。

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