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照らされる牛蒡の花

迎えた当日。少し天気は良くないが、雨も降っていないし暑くも寒くもないので及第点だろうか。流石に学校祭当日ぐらいは自分で起きてほしいとあまり期待せずに朝則に言っておいたのだが本当に自分で起きるとは思わなかった。

「・・・意外だったわ」

「朝の挨拶より先に出てくる言葉がそれなのか?」

「だってあなたが自分で起きることなんて一週間の半分ぐらいじゃない」

「半分もあるじゃん」

「だいたいの学生は自分で起きるものよ。というか確か12時には寝てるのよね。どうして7時に起きることがそんなに難しいのよ」

「人体には不思議がたくさんあるからね」

「物は言いようね。要するに自分で起きる気はほとんどないってことね」

「そんなことはないさ。毎日明日の朝ごはんは何かなって思うとなかなか眠れなくなるんだよ」

「つまり?」

「紫織にも責任がある」

「明日から来なくてもいいってことかしら」

「待って待って。冗談だってば。明日はちゃんと起きるから」

「明日以降も、ね」

「へーい」

「・・・。朝則が調子に乗ったら少し手荒にして良いって言われてるんだけど」

「明日から全力で頑張らせてもらいます!」

「それでいいのよ。あ、そろそろ出ないと間に合わないわよ」

「ん。ほんとだ」

「「行ってきまーす」」

「そういえばいつもこの時間って母さんいないじゃん」

「そうね」

「おばさんももう出てるんでしょ?」

「そうよ」

「誰に行ってきますなんて言ってるんだろうね」

「・・・さぁ。別に対して手間でもないでしょ」

「まぁそうなんだけど」


 教室に着くと、もうほとんど準備が終わっていた。朝から準備するとは聞いていたが、だれか早く来て済ませてしまったのだろうか。

「紫織ちゃん、津久羽君!おはよう!」

「黄美さんだったの。おはよう。もう準備終わったの?」

「終わってはいないけどだいたいね」

「えらいわね。時間より早く来てしかも準備するなんて」

「私だけじゃないよ、運動部のみんなが手伝ってくれたの。早く来ちゃったとかで」

「なんか申し訳ないわね。別に何も悪いことはしてないのに」

「あはは。まぁそんなわけだからのんびりしてよ。あれ、津久羽君どっか行っちゃったね。一緒に来たんだね。紫織ちゃんが誰かと来るの珍しいね」

「そうね。といっても校門の近くで会っただけだけど」

「え~?ほんとに?『なぞ多き隠れた美少女 薮川紫織に熱愛発覚!』ていうのはないの?」

「・・・」

「えっと、その」

「あぁ、ごめんなさい。・・・その二つ名みたいなのが気になって」

「『謎多き隠れた美少女』のこと?」

「そうそれ。いろいろ誇張されてるなって思って」

「だって紫織ちゃんいつも帰るの早いし、誰かと遊んでる感じも全然ないし、」

「待って待って。たまに黄美さんと遊んだりしてるし、イベントごとにもちゃんと参加してるじゃない。確かに体育祭の打ち上げは行かなかったけど、誘われなかったからだし」

「私以外と遊びに行ったことなくない?それに私以外ともほとんど話もしないし」

「グゥの音も出ないわね」

「かわいいのに全然しゃべらないし、話しからけれても返事が堅いからみんなどう扱うのかよくわかってないみたいだよ?」

「褒めた後にすごい貶してくるのね。いやだってほとんど話したことないのにそんな気さくに返事を返すなんて無理に決まってるじゃない」

「紫織ちゃんいっつも堅い空気だからね。しかもあんまり笑ったりしないから」

「別にいいわよ。黄美さんいるし」

「私しかいないのが問題なんだけどね」

「あっ、そろそろ始まる時間よ。ほら」

「・・・」

黄美さんのジトッとした視線から逃れるように玄関の上にあるスピーカーに指を向ける。ちょうどよく学校祭の始まりの放送がなる。


「それでは、これより学校祭を始めます。学生として節度をもって楽しみましょう」


 学校祭と言ってもそれなりに駅も住宅地も近い立地にあるこの高校はそれなりに様々な客が来る。だからこそ、ちゃんと頑張れば黒字にもなるし、売り上げが良ければ表彰されることもある。それもあってうちの高校は毎年かなり盛り上がっている。

「いらっしゃいませー!」

「うちのお店にどうぞー!」

始まると同時に生徒があちらこちらで商売を始める。にぎやかな空気は私も嫌いではない。むしろ好きだ。人の笑っている顔を見ているとなんだか自然と気分も良くなってくる気がする。

「薮川さん、牛乳味一つとオレンジ二つ!」

「はいはい、ちょっと待ってください・・・ね」

後ろに居れば楽かとも思ったが、そんなことはなくむしろ前で注文を聞いたりしているほうがずっと楽そうに見えてきた。それしても黄美さんに言われて、少し話しかたに気を付けるようにしてみたら、なんだかみんなに話しかけられることが増えた気がする。黄美さんが男子に人気があるのもわかるわね。

 シャリシャリと氷を削っているとなんだか気持ちが無になって来た。普通のかき氷ほどじゃないけど、それなりに大変なのよね。しかも氷じたいからいい匂いがしてくる気がしてきておなかも空いてくる。辛い時間も耐えていればいつかは終わるはずと耐えていた。やっと自分の当番の時間が終わった時にはもうヘロヘロにになっていた。

「疲れたわね」

「ね。紫織ちゃん最後のほうすごい顔してたよ?」

「ほんと?全然覚えてないけど」

「うん。すごい生気のない顔してたよ。ゾンビみたいな」

「それは見苦しいものを見せたわね」

「ううん、たぶん私も同じような顔してたし。あっちこっちからいい匂いするよね」

「そうなのよね。氷からもいい匂いするし」

「早く行こ、紫織ちゃん。いっぱいお店回りたいし」

「それもそうね。早く行きましょ」


 校内にも玄関近くにもいろんなお店があるので今日明日とかけて全部制覇したい!と黄美さんが始まる前に宣言していた通り、本当に全ての店を回るつもりらしい。

「いろんなお店があるね!どこから行く!お店は先に調べたからどんどん回っていこうね!」

「出店のことはほとんど知らないし、黄美さんのおすすめでお願いしようかしら」


「うわ、なぁんか見覚えある顔って思ったらぁ、ヤブちゃんじゃ~ん」


聞き覚えがある、しかし二度と聞きたくはないと思っていた声が聞こえてくる。

「・・・久しぶりね。黄馨キケイさん」

「そんなに固くならなくていいよぉ~。たまたま偶然会っちゃただけだしぃ~」

「そう、じゃあ私これから出店まわるから」

「えぇ~?」

ずかずかとこちらに歩み寄ってくる。パーソナルスペースが存在しないのかと思うぐらいの距離まで踏み込んできて、囁く。

「まだ、朝則の近くにいるわけ?まじきもいんだけど?あんたみたいなやつが朝則の近くにいるとさ、朝則の格が落ちるんだよ」

「あなたのそばにいると格が上がるのかしら?」

「ほんとによく回る口ね。それとも"また"痛い目見ないとわかんないわけ?」

「お話終わりました?」

急に黄美さんが割り込んでくる。助けてくれたのだろうか。正直助かった。

「・・・」

「・・・」

「こんなのとぉ一緒にいる子がいるなんて思わなかったなぁ~。だってぇ正直気持ち悪くないの?何考えてるかわかんないしぃ、全然笑わないしぃ」

「・・・」

「・・・ふぅ~ん」

「ま、今日は帰るねぇ。会ったのは本当に偶然だしぃ」

「そうなの」

「そうなのよぉ。それとぉ、強がるなら拳は隠した方が良いわよぉ」

言いたいことを言い終わったのかさっさと帰っていった。言っていた通りわざわざ会いに来るとは考えられないので、ほんとに偶然なんだろうけど。

「黄美さん、ちょっと具合悪いから保健室で休んでるわね」

黄美さんがなにかいう前にさっさとその場を離れる。

しばらく一人でいれば気分も回復するはず。こちとら、孤立も孤独も慣れっこなんだから。

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