嶺上開花だってたまには咲く
定期テストも終わって、学校全体が少し浮かれた雰囲気に包まれている時期。だが浮かれているのは、決してテスト明けだからだけではない。それは来月に迫った学園祭である。一か月は先のことだし、まだ各クラスごとの出し物すら決まっていない状況ではあるが、上級生は去年のことを思い出しながら、新入生は未知の行事への期待に、それぞれ心を躍らせている。
「えー、というわけで今年も文化祭が近づいてきたわけなんだが、出す店とかを決めなきゃならん。じゃあ、文化委員は議長よろしく」
「先生は参加しないんですか?いや、俺はいいよ。君たちが決めたことをサポートはするけど、会議とかに参加するつもりはないし」
「はぁ、なるほど。じゃあ、とりあえず議長になりました」
なんだかすごい雑に議長を押し付けられている。大変だろうけど、ここで口を出したら自分が押し付けられることがわかっているのか誰も口を出さない。そんな状況をすぐに察して議長になった彼には頭が上がらない。
「えー、じゃあとりあえず店の種類を決めないといけないんで、外に出店を出すか、校内で展示やら店を出すか、投票で決めます。じゃあ、まず外、次、中」
えらくあっさりと多数決が始まった。スピーディーすぎるでしょ。とりあえずみんなが挙げていた外にしといたけど、やっぱりみんな外でやりたいのね。
「はい、集計終わり。じゃあうちはとりあえず外ですね。でも放課後の会議のじゃんけんとか負けたら中になるんで中と外のどちらも店を決めないといけないです。じゃあしばらくみんなで相談してください」
話してもいい理由を見つけたクラスの中は一斉に騒がしくなる。まさに喧喧囂囂といった感じだ。私にはそんな元気はないが・・・。暑いし。どうしよ、なんでもいいのよね。よっぽど変なのじゃなきゃ協力はするつもりだし。そんなことを考えていたら、隣の黄美さんから話しかけられた。そう、前から隣に移ったのです。あまり席替えの意味ないわね。いや、黄美さんが一番親しくしているしそのほうが気が楽なのは事実なのだけど。
「楽しみだね!紫織ちゃん!」
「え、えぇ、そうね」
いつになくテンションが高い黄美さんはやっぱりこういうイベントごとが好きなのかしら。あまりこういうことが得意ではない身からすると少々鬱陶しいと言えなくもないけど・・・。
「やっぱりね~、焼きそば屋とかやりたいね!たこ焼き屋とか!みんなで準備してお店で焼いて、今から楽しみ!」
「私は室内のほうが楽なのだけど」
「ええ~。外でやりたいよ~。お店巡りしようよ~」
「お店を回るのは全然いいわよ。出店はちょっと面倒だけど」
「そうなの!じゃあ、絶対一緒に回ろうね!」
「ええ、喜んで」
黄美さんと話しているといつの間にか時間が経っていたようでまた議長が黒板の前に立っている。
「じゃあ、そろそろ案も出てきたと思うので案がある人はお願いします」
「焼き鳥屋!」
「綿あめ屋!」
「かき氷屋!」
「クレープ屋!」
正に矢のように意見が飛び交う。本当にあの活気のなかった体育祭と同じクラスだとは思えない。いったいあの暗さは何だったのか。店を出すのと体育をするのはまた別だということなのだろうか。
「みんな元気ね」
「紫織ちゃんはいつも通りだね。あんまり楽しみじゃない感じ?」
「まさか。体育祭はともかく文化祭は楽しみにしているわよ」
「お店出すのは少し面倒だけど別に一人でやるわけでもないしね」
「紫織ちゃんが積極的だ・・・!」
「私は体育が嫌いなだけよ。それ以外は別に嫌いなわけじゃないもの」
そうこうしている内に案が出尽くして来たらしい。
「じゃあ、この中で多数決を取りたいので挙手してください」
「ということで、うちのクラスの出店はかき氷屋ということに決まりました」
暑くて冷たいものが売れるだろうし、しかも原価が安いという意見には誰も勝てず、圧倒的大差でかき氷屋に決定した。
「放課後のじゃんけんで負けたら校内になるので放課後までに多少案を考えておいてください。じゃあ、とりあえず今日は終わりってことで」
店の希望は当然ながら三年生が優先される。そして三年生は基本的にすべてのクラスが出店を選択する。三年生以外で出店を出せるのは一クラスか二クラスほど、そしてその二枠をかけてじゃんけん大会が開催されるのだ。
まぁ、つまり、油断していた。たぶん校内だろうと。そしてその期待は大きく裏切られることになる。
放課後
「みんな、ただいま」
議長が会議から帰ってくる。
暗い顔をしているのでてっきりじゃんけんに負けたものだろうと皆が思っていた。
出店の枠が少ないことは周知の事実であるため、なんだかんだで皆そこまで期待はしていないのだ。
「勝ちました」
「「「「「「「「イェーーーーーーーーーーーーーーーイ!!!!」」」」」」」」
もうやだ。