春風の吹く頃に
眩しい朝日。窓の隙間から入る心地よい春風。寒すぎも暑すぎもしない気温。少しだけ布団の中で堪能する。少しすると控え目なピピピというアラームが鳴る。残念だけどもう起きないといけない時間。
起きる。着替える。髪を整え、朝食を食べる。
毎日のルーティンをこなしながら眠気を覚ます。このまま学校に行ければ本当に今日はいい日だけど、そうもいかない。学校に行く前にまだ一仕事あるのだから。
「いってきまーす」
お隣の津久羽さんのチャイムを鳴らす。少ししてドアが開き、人の良い笑顔がのぞいて、少し申し訳なさそうに告げる。
「ごめんなさいね。まだうちの子起きてないのよ。今日も頼んでいいかしら紫織ちゃん。毎朝うちの子を迎えに来てくれてありがとうね。紫織ちゃんが朝則を貰ってくれたら私も安心なんだけどねぇ」
もはや聞き飽きた貰ってくれコールをスルーしながら勝手知ったる幼馴染の家に上がりこむ。もう付き合いの長い幼馴染だから何となく惰性で面倒を見ているが、そろそろ自立してほしいと思ってもう三年ほど経った。
「いえ、大丈夫です。それよりもう出なくていいんですか?」
「あら!ごめんね!また美味しい料理教えるから家においでね!じゃっ!」
「ありがとうございます。いってらっしゃい」
おばさんを見送り、そのまま未だに寝こけているであろう幼馴染の部屋に入る。
予想通り、起きる気配のない幼馴染ベのッドの下にはアラームを止められたであろうスマホが転がっている。一応起きるつもりはあったのだろうが失敗したらしい。結局起きていないので態度を改めることはないが。思い切り息を吸い込む。
「起きろーーーーーっ!!」
「・・・ん。・・・おはよ。今何時?」
「・・・もう八時半ですけど。一応言っとくけど今日始業式だからね」
「八時半ってやばくない?」
「やばい。っていうかわかってるなら早く着替えなさい!!」
「はいはい」
もぞもぞと服を脱ぎだしたのを確認して部屋から出る。以前起こしてそのまま部屋を出たらそのまま二度寝を決めたあいつのせいで私ごと遅刻したことがあるのだ。確認って大事だなとしみじみと思ったのを今でもたまに思いだす。
十分で支度を済まさせ、すぐに家を出る。これならぎりぎり間に合いそうなので一安心。高校が家から近くて助かった。ただ今日は始業式だから多少余裕もあるけれど、明日からはそうもいかなくなる。・・・少し早く起きようかな。私の青春の大半はこいつの世話に溶かされていると思うと少し泣きたくなる。別にお世話することは嫌いじゃないんだけど。
「痛った!なに急に。痛いんですけど」
急に背中を叩かれた幼馴染が悶絶している。思ったより力をこめすぎたらしい。自分で起きろ、とかそういえば朝ご飯代わりのおにぎり作っといたよ、とか色々言いたいことはあるけれど。まぁいいや、たまには鞭も必要だしね。まだなにか文句があるらしい幼馴染を尻目に歩を進める。
「べ・つ・に!ほら行くよ、朝則、そんなに時間に余裕ないんだからね」
「はいはい。そりゃすいませんね」
今日から2年生が始まる。