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弱小貧乏貴族·クルトフ家の猫  作者: 葵わさび
2/2

-猫、魔法を使う?え?俺、魔法使えんの?-

 猫になって、たぶん……。


 どれくらいだ?あ、1週間位か?


 だいたいは慣れてきた俺だが……。


「ソフィお嬢様、こんにちは」


「こんにちは、レオ先生」


 メイドのアンヌが、家庭教師のレオ·ミケバウ先生を部屋に通すと、ソフィはベッドから車椅子へと移動する。


 アンヌ達の話によると、医者はもう歩ける筈と言うのにソフィは、怖がって歩こうとしないらしい。


「今日は、いい天気なので、たまにはお庭でお勉強にしましょうか」


「ラクもいい? おとなしい猫だから」


 いや、俺はこの部屋で昼寝したいから……と、いい終わらない内に俺はアンヌの手で庭へと……。


 しかし、このレオ先生って、かなりモテそうな気がする。背は高い!スリム!金髪のウエーブがかった髪に、翡翠色の目だわ、性別問わずに優しい。


「へぇ、今日は、魔法を教えてくれるのか? 面白そうだな」


 猫になって思う。恐らくどのペットも邸内にいるのは、暇!なのである。


 レオ先生が、準備している間、俺はソフィと一緒に木陰のベンチで待つ。


「ラク? ソフィね、この授業が一番好きなんだ。レオ先生の魔法ね、ほんと凄いんだよ」


 ソフィの小さな手が、俺の背中を撫でた。


「魔法か。昔、そんなアニメがあったなぁ。あれは、冒険者のやつだったが」


「さぁ、お嬢様。今日は、そこまで歩いてみませんか?」


 ベンチから用意された椅子までは、ほんの2m程。なのに、ソフィは顔を振って歩こうとはしない。レオ先生も声は掛けるが、無理な事はしない。よって、その椅子には俺が座り、ソフィはまた車椅子へ……。


「いいですか? 今日は、火の魔法をやってみましょう。こうやりますよ?」


 レオ先生は、目を閉じると、ファイヤーと言った。その瞬間、その指先から本当に火がボッと出た!


「ファイヤー?」


 ソフィが言ったが、その小さな指先には何も出ず……。


「いいですか? 目を閉じて、頭の中で小さな炎をイメージするのです。さぁ、もう1度……」


 2度、3度ソフィは、失敗するが、途中で嫌がる事はなく、自分のペースでゆっくりゆっくりとやる。


 ボッ……ボボッ……


 出たが、直ぐに消えてしまい、ソフィは泣きそうになったが、また立ち直って……


 ポォッ……と小さな炎を出す事が出来た。


 出すのは時間掛かったが、消すのは早いだろ?そんなものなのか?


 それから少し、水を出す練習、手の平から炎を出す練習をしたが……


 どれも上手くは出来なかった。


「じゃ、今日は何がみたい? うさぎでも出す? 水のショー?」


 魔法ってそんなことも出来るのか?!


「アレがいい! カードでスパーンッなの!」


「……。」


 なんだそれは?と思ったが、レオ先生はニコニコして、指をパチンッと鳴らすと、トランプがポンッと出てきた!


「ソフィ様、お好きな数字は?」


「3!」


 なぜ?普通、1か7だろーっ!?


 そこからが、本当に凄かった。


 レオ先生が、トランプをサッと空に投げたと思ったら、トランプが1枚1枚クルクルと周り始め、また指を鳴らすと今度はカードが1枚指先に……。


 俺は、元は人間だし、自称女神に魔法がどうの言われた気もするけど。空中に弧を描いたカードが、クルクル回ったり、小さな花や鳩に変わったり……。


「すげぇな。こんなの生まれて初めて、だ。」


 中でも面白かったのは、空中神経衰弱だった。Aの7とかBの3とか聞くと、昔見たパネルゲーム番組を思い出す。


 思わず俺もやりたくなって、手が出そうになった。


 魔法の授業が終わった頃、アンヌがおやつを持ってきて、3人?でおやつタイム。動物用のケーキ、なんとなく味に物足りなさを感じるが、美味い。


「あ、そうでした。ラクさま、こちらを……。」


 首輪?キラキラしたのがいっぱい付いてるが……。


 レオ先生が、つけてくれた。男なのに、いい匂いだ。


「レオ先生、これ魔性石?」


 チャランッと首輪についた少し大きめの石を指したソフィが聞くと、レオ先生はニコリと頷いた。


「僕達人間がつけるのは、魔石だけで十分なんですが、ラク様はこちらの方が……。」


 それは、俺が猫だからだろう。最近、ちょっと食べすぎの傾向もあって、少し身体が重いが……。


 授業が終わって、レオ先生を門まで見送って、ソフィと一緒に邸内のある場所へ行く。



「ソフィお嬢様。ラクさまって、猫なんですよねぇ?」


「うん。グラン先生が、そう言ってたよ。」


 グレーの身体に、薄い水色と琥珀のオッドアイ。眉毛とかはないが、おでこの辺りに白くひし形みたいな毛がある。


「猫、にしては、お水とか怖がりませんものね。」


 そりゃそうだ。俺は、元は人間だし、風呂は好きだ。ただ、湯上がりは……。


「「……。」」


 二人が笑いを堪えてるのはわかる。俺は、湯上がりの身体が、こんなにも違うとは思わなかった。


 アンヌの風魔法で、俺もソフィもフワフワな髪に仕上がる。


「魔法、か。俺もなんか使えるのか?」


 風呂から上がると、夕飯まではのんびりと過ごす。ソフィは、字の勉強をしたり、絵本を読んだり……。俺は、アンヌが作ってくれた服を着ているが、そもそもペットに服は必要なのか?とも思う。嫌いではないが。


 ドアは、いつも俺用に少し開いてるから、自由に行き来出来る。


「ちょっと行ってくる」と軽くひと鳴きして、今日は夕飯まで邸内の探検。


 入ってはいけない場所の扉は閉まってるし、厨房には入れないから。


「ここは、どこだ?」


 薄暗い部屋だったが、まだ外は明るく、陽の光が入ってきていた。


「本、か?」


 父親が読んでいたのか、はたまた前々からあったのか、その部屋は棚にも床にも本で埋められていた。


 鼻を鳴らしても、紙やインクの匂いしかしないが、本と本の隙間を歩いてみたり、出窓から外を眺めてみたり、と。


「魔法書?」


 って、俺なんでこの世界の文字が読めるんだろ?とは思うが、元々本は好きで読んでいた時期もあったから、そう苦ではなかった。


「そういや、レオ先生も頭でイメージして、とかって言ってたよな」


 この本によると魔法は、初期の段階でやるのは炎系らしい。火、火ね……。


「火、ねぇ。」


 なんとなく自分の手をじっと見て、小さな炎をイメージすると、お腹から手がじんわりと温まるのがわかったが、火は出なかった。


「もう1回……」


 今度は、ゆっくりゆっくりイメージ……。


 ポッ……と出たが、熱くなって手を振ったら消えた。動物は、身体中毛まみれだから?


 その本が、なかなか面白くてつい読みふけって閉まった。


 まだ、魔法は使えないがいくつかの言葉を頭に入れておいたから、また時間を見てやってみようと思う。


「あ、こんなとこにいたぁ! ラークッ! ダメでしょ、こんな怖いとこきちゃ!」


「怖い?」


 何が怖いのかわからないが、ソフィは、この書物庫(らしい)が怖いらしい。俺には、のんびり出来る場所だけど?


 その後は、皆でと言っても、クルトフとソフィとの夕飯。今日は、キノコたっぷりのクリームシチューだった。


 思えば、この家、肉らしい肉の登場は少ない。良くて、グリムという鶏の肉がたまに出る。うさぎやら鴨も出るが……。


 いつか、俺もこうして誰かと結婚して、子供を設けたりするのだろうか?そもそも、猫って……。


「さ、今夜もまた探検してみるか!」


 夜眠る時は、俺はあの服から解放されるから助かる。どの世界も野良以外の犬猫は、服を着せられたりする。毛むくじゃらに服は、な。



 ソフィが、眠りに落ち、アンヌがランプの炎を消し、部屋が暗闇に落ちると、そこからが俺のお楽しみの時間だ。


「今夜は、西の階段裏を探検してみよう」


 気分は、ちょっとした冒険者!


 猫だけど。


 明るい昼間とは違い、いくら廊下に灯りがついていても、薄暗い。


「この目線も慣れたけど、疲れるな」なんて事を思いつつ、扉から灯りが漏れている部屋の気配を気にしながらも、目的の西の階段に着いた。


 外は、風が吹いているのか、時折隙間風が入ってくる。


「しかし、本当に古いんだな」


 アンヌやバースからの話を聞くと、この元々魔法の能力がそんなないクルトフには、跡目を継ぐ事が出来ず、父親から結婚と同時にこの辺境地の領地と家を譲り受けたらしい。


 小さくカタンカタンと音がし、目を光らすと……。


「なんだ、お前か」


「へへっ」


 子ねずみのシビが、チョロチョロと出てきた。


「なんだ、また食いっぱぐれたのか?」


 ネズミだけに、きょうだいが多い。シビは、その7番目らしいが。


「いや、今日はちゃんと食えた。ただ、兄さんらがまだ帰ってこないんだ」


 物陰と言っても、暗いから猫とネズミが喋っていても問題はないが……。


「あんまり派手に動くなよ。バレたら、取っ捕まるぞ」


「わかってるってば!」


 猫とネズミ。某アニメとまではいかんが、最初から仲が良かった訳ではないが、動物の感というのか?ネズミ達は、猫の俺を恐がる事はなかった。


「そうだ。俺、母さんから言伝頼まれてたんだ。」


「あ? なに?」


 聞けば、この領地の東にあるゴルボ領地では、これから麦の収穫があるらしく、一家で移るらしい。


 ネズミの大移動?カルガモでなく?


 確かに、この領地で採れるのは、他の領地に比べ少ない。それは、都度の食事を見てもわかる。


「でな、これ母さんから……。」


 キラキラとしたネックレス?よりは、ブレスレット?みたいなのをシビは咥えてきた。


「いままでのお礼だってさ。いつだったか知らないけど、母さんらどこかの貴族の夜会を見に行った時に拾ったらしい……」


「ふぅん。俺には、よくわからんが……。」


 猫に小判ならぬ、猫にネックレス?


 それからまた他の話題になって、階段の裏を探検して、ソフィの部屋へと戻って寝た。


「魔法使えるんなら、この邸内のひび割れなくなってたらいいのにな。あーゆーのなんての? 修繕? ルペル?」


 それが、まさか、あんな事になるなんて……?

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