異世界
夜、いつものように天井の小窓を見つめながら愛流はベットに寝転んでいた。
今の時間だと、丁度小窓の中に月がおさまっている。
愛流はそのまま小窓を見つめながらこう言った。
「Good night, a moon.」
そしてそのまま瞳を閉ざし、数分後、彼女は夢の世界へ旅だった。
次の日、目覚めると何故か天井に小窓は無かった。
どう言う事だと起きあがり、あたりを見回すとそこは眠りにつく前いた自室ではなく全く知らない部屋だった。
シンプルな造りのその部屋にはベット、机、本棚、ソファとベットから見て左右の壁に窓が一つずつ。そして扉が一つ。
天井は高く、部屋も広かった。
綺麗に整頓されている机に手をかけようとした所だった。
「あいるー、朝ご飯よー。下りて来なさい」
驚き思わず机から手を引っ込めてしまった。
机に置いてあったスピーカーから声がしたからだった。
「愛流、聞いてるの?」
尚も響くその声はどうやら母親か姉のようだ。
澄んだ声、大人びた話し方からそのような想像が生まれた。
とりあえず変に思われてはまずい。私はそう思い、スピーカーの横の小型マイクらしき物に口を近づけ言った。
「うん、今行く」
そして扉へと向った。
扉を出ると右手に階段、左手が行き止まりとなっていたので階段を下りる。
そして左側から何やら美味そうな食べ物の香りがした。
そちら側が恐らくキッチンだろうとそちらへ歩を進める。
奥まで来ると香りもはっきりと味噌汁の香りと分かった。
そしてキッチンには綺麗な女の人がテーブルに食事を並べていた。
「あら、愛流。やっときたの?」
「あ…う、うん」
「朝は忙しいんだからもっと早く下りてきなさいよ。
愛流も学校があるでしょうに」
「…ごめん」
「とにかく座りなさい。食べるわよ」
「うん」
「いただきます」
女の人が言ったのに続いて、愛流も小さくそう言った。
10分程で朝ご飯も食べ終わり、母親らしき人に着替えてくると伝え、
再び二階のあの部屋へ向った。
「ふぅ…」
初めて会う人間とさも会った事があるように接するのは物凄く疲れる。
そして今まで起きた出来事を整理するとある事実が浮かんでくる。
母親らしき女性は愛流のことを知っている。
だが、愛流はその女性を全く知らない。
つまり、昨日の呪いは成功した。と言う事だ。
呪いとは、昨日、愛流が眠りにつく前に月を見ながら言ったあの台詞の事だ。
アレを唱えると別の世界、つまりパラレルワールドに行けるという物だった。
新しく刺激が欲しいと言う事もあり、半信半疑の中、これを唱えたと言う事だ。
つまり私はこれからいつ戻れるか、もしかしたら戻れないかもしれない中、
この世界で生きて行かねばならないと言う事だった。