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第三話

 宮廷魔導師見習いのリオン様。

 この国では珍しい黒髪に翠色の瞳の青年。

 それに魔法使いも貴重な存在だ。


 リーゼロッテがリオン様と呼んでいることから、それなりの家柄の出の方なのだとは思うけれど、いつも謙虚で礼儀正しい素朴な青年という印象だった。


「あのね。エミリアが婚約を破棄されてしまったの。元気がでるような、何か面白い物を見せてもらえないかしら?」

「えっ。こ、婚約を……? ぇと、元気がでるものでしたら……こちらはいかがでしょうか?」


 リオン様は戸惑いながらもローブの中から可愛らし白い木箱を取り出した。指輪を入れるケースと同じくらいのそれは、花の模様があしらわれた上品な小箱だ。


 リーゼロッテも興味津々でテーブルに乗り出し、私の手の平に乗ったそれを、じーっと見つめている。


「何かしら?」

「開けてみてください」


 リオン様に勧められて小箱を開くと、中からフワッと風が溢れ、花の香りが広がった。小箱は開けると鏡が付いていて、自然と笑顔になった自分と目が合った。


「いい香り」

「開ける度に花の香りがする魔法の小物入れです。お気に入りのアクセサリーを入れてお使いください」

「頂いていいのかしら?」

「はい。それはエミリア様の物です。先日、お二人が箱に入れたハーブの香り当て遊びをしていらっしゃいましたよね。箱を開けて香りをかぐ姿が可愛らしかったので、作ってみたんです」


 随分前だが、そんな遊びをしていた記憶がある。

 小箱をいくつも用意して、互いの好きなハーブを各々に入れてごちゃ混ぜにしてから、目を瞑って開けて、香りだけで中の物を当てる遊びだ。

 当てる時は目を瞑っていたから、見られていたなんて気がつかなかった。


 でも、こんなに嬉しいプレゼントは初めてだった。

 誰とも比べられず、エミリアの物だと言ってくれたからだろうか。


「ありがとうございます。リオン様」

「いいなぁ。リオン様、私の分はないのかしら?」

「そちらは試作品ですから、またお作りしますね」

「楽しみにしてるわ。エミリア、リオン様をお呼びして良かったでしょう?」

「ええ。自然と笑顔になれました。でも、リオン様はお忙しい宮廷魔導師様ですから、玩具作りなんてお願いしてはいけないわ」


 リーゼロッテは茶会の時に、たまにリオン様を呼ぶ。その度に新しい魔法道具や玩具の説明を課している。魔導師ではなくて曲芸師とでも思っているのかもしれない。


「大丈夫ですよ。ただの趣味ですから。リーゼロッテ様が色々と魔法を活用した道具や玩具の案を下さるので、私もとても勉強になります。エミリア様のご意見も聞かせていただきたいです」

「そうよ。リオン様は宮廷魔導師見習いなんだから、色んな事を勉強中なの。気付いたことがあったらエミリアも言ってあげてね。──あら? そういえばエミリア。今日はひとりで来たの?」

「あ、そうだったわ」


 いつも一緒の付き人はいない。今日はひとりで屋敷から飛び出してきてしまっていた。

 王都のブロウズ伯爵邸まで、城からそんなに遠くないのでひとりで帰っても問題ない。


 しかし、リーゼロッテがひとり歩きなんて危ないから駄目、と言い張り、数名の近衛騎士を呼びつけた。


 私が近衛騎士を連れているのはおかしいと説得するがリーゼロッテは聞かず、リオン様が邸まで送り届けてくれると申し出てくれたので、その場はなんとか収まることができた。


 王都の街並みを、リオン様と二人で歩く。

 初対面ではないけれど、何だか申し訳ない気持ちになる。


「リオン様。今日は何から何までありがとうございます」

「いえ。エミリア様とお話しできて幸せにございます」


 ただお話ししただけなのにそんな事を言ってくれるなんて。

 リオン様は少しリーゼロッテに似ている。

 一緒にいるのが自然だし癒される。

 

「私も楽しかったです。小箱もありがとうございます」

「気に入っていただけて嬉しく思います。私は、魔法を使って、少しでも誰かが幸せを感じて貰えるものを作りたいんです。隣国では、魔法を使って武器や兵器が作られているのですが、ああいった物は苦手で」


 たしかオルフェオ様は隣国、ドゥラノワ王国の武器を取引している。

 コールマン公爵家の領土は国境に位置しているので、国の防御を固めるために尽力しているのだ。

 そういえば、隣国から手に入れた魔除けのネックレスを貰ったことがある。あれも魔法道具らしいが、一度も付けたことはなかった。


「私も、リオン様みたいなお考えの方が好きです。私は魔法は使えませんし、よく分かりませんが、素敵な使い方だと思います」

「あ、ありがとうございます。あの──」


 リオン様が何か言いかけた時、こちらへ向けて走っていた馬車がいななきと共に急停車した。

 それは見覚えのある馬車で、コールマン公爵家の家紋が描かれている。

 扉が開くと、リオン様は警戒したのか私の手を引き後ろへ匿ってくれた。


「エミリア。私と婚約を解消したら、早速男遊びか?」


 馬車から降りたのは勿論オルフェオ様で、私とリオン様を交互に見ると、眉をつり上げた。







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