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双剣の王子様

 旧新宿セントラルワシントンホテル、現新宿ギルドは、客室300を誇り、築80年を越える伝統を持つ。一度大規模なリニューアルを果たして、現代的な内装を手に入れたが、時折のぞかせる木製のアンティーク製品や建築様式が、かつての老舗の面影を見せている。



「おぉ、いい部屋じゃないか」



 落ち着いた、シックな雰囲気の部屋を用意してもらった。ほのかはひとつ上の階の部屋をあてがわれていた。国家ハンターライセンス(日本)を手に入れると、自動的に日本ハンターランキングに名前が掲載される。



 大都市圏において活躍する国家ライセンス所有者は、自身のキャリアアップのために、自分が担当するダンジョンで腕を振るい、ランキングを競う。俺とほのかは飛び入りでランキング入りしたから、とうぜん最下位からのスタートになる。



 国家ライセンスカードに記された俺の順位は、8407位。免許証のごとく、顔写真入りで、やる気のなさそうな、弱々しいおっさんの顔が映っていて、外枠は白い。



 本当なら地域ライセンスどまりで、地元でこつこつダンジョンを攻略し、少ない給料ながらも、仲間とゆっくり絆を深めていく予定だったから、今から考えても信じられない。



「はぁ、ずいぶん買いかぶられたもんだ……」



 あんまり働かないとライセンス剥奪になる。基本給は450万で、そこから出来高だ。つい最近まで無職の無人島プレイヤーだったことを考えれば望外の待遇。いろんな保険もついてくる。悪くないが……



 俺は興味本位で如月のことをハンターズウォッチでネット検索してしまった。ハンターズウォッチは空中に画面を投影してまるでパソコンのように操作できる。電話やメールはもちろん、ネット検索も可能だ。



「……い、い、一億二千万……だと……」



 それが如月の年収だった。つまり一億円プレーヤー。とある画像には、満面の笑みで、ブラックカードにキスしていやがる。ライセンスカードの外枠の色はダンジョンの入り口の色味と対応していて、具体的には、上から、



 黒 金 銀 赤 黄 紫 青 緑 白



 となっている。俺のライセンスはもちろん白枠だ。そしてランキング上位になると、その戦闘スタイルから、二つ名がファン投票でつけてもらえる。



「そ、双剣の王子様だぁ……??」



 奴はアイドル的な人気を誇っていた。売れないホストみたいな見てくれのくせに、なんて野郎だ。しかし、実績は十分で、もともと名家の坊ちゃんだった如月は、家の金で、一般人には購入できない高価な防具と武器を揃え、圧倒的資産力でのし上がっていた。



 テレビ出演も多数、実力派イケメンハンターとして女性人気高し……。そこまで読んで、俺は自分の取り柄のなさを悟った。



「とにかく、ここからクビにされないように頑張らねぇと……」



 真っ白なベッドに仰向けになりながら、ハンターズウォッチが空中に投影する画面を見つめ、そうつぶやいた。



 俺はそのままギルド会員登録を完了させた。自分の基本装備と実績、求めている人材などを日本ギルド協会の公式ウェブサイトに書き込み、パーティメンバーを募る。すると、同じ白ライセンスのハンターが何人かメールを送ってきた。



 誰にしようかと悩んでいると、会員登録にともなって、いろいろな情報が日本ギルド協会本部から送られてくる。



《――新人ハンター様にお役立ち情報。今回は「ゲート」の紹介》



 ゲートとは、最初のハンター育成センターでも見たが、特定の場所までハンターをワープさせてくれる目的地固定のどこでもドアみたいなもので、ゲートは石灰石のような質感の素材でできている。



「あれって、いったい何でできてるんだ?」



 調べてみると、ゲートというのは、かつて最強の日本人ハンターとして名を馳せ、日本初の国際ハンターとして世界のダンジョンに進出した阿久津鉄平という人物がアメリカのダンジョンで発掘したシュレディンガー・ストーンと呼ばれる特殊鉱物が素材になっているらしい。



「そんなすごい日本人がいたのか、無人島にいたから知らなかったなぁ」



 その利便性から世界中のギルドに普及し、当該ダンジョンでは今でも発掘されているが、シュレディンガー・ストーンは一般流通禁止の希少鉱物だ。



 阿久津はいま行方不明で、今もどこかのダンジョンを攻略中なのか、それとも死んでしまったのか分からないとのことだ。阿久津についてはウィキペディアで調べたからどこまで信用できるか知らないが、まあ、たぶんこれだけ音沙汰がないなら、どこかでのたれ死んでいるのだろう。



「この人、もう七年も見つかってないってことは、日本の中じゃ、かなり早くから活躍したハンターなんだな」



 実際に日本にダンジョンが発生しはじめたのは五年ほど前のことである。阿久津はダンジョンが日本以外の海外で発生しはじめた十年前から、いち早くそれに反応し、海外へ渡ってダンジョン攻略に打って出た人物である。当時は命知らずのジャパニーズとしてバッシングされたが、やがて実力と功績で世論を黙らせたそうだ。


 

 黎明期には弱点の分からない未知の危険モンスターもたくさんいたことだろう。よくやるよ、先人のダンジョン開拓は偉大だ。



「で、うちの新宿ギルドにはどんなゲートがあるんだ?」



 送られてきたメールから日本ハンター協会のWebページに飛び、ギルド検索で、新宿ギルドを調べた。



 すると、ダンジョンの特定階層へのワープだけでなく、すでに攻略済みの別ダンジョンのセーフティーゾーンに、農業や工業のために国が用意した広大な土地があり、そこへ転移するためのゲートも用意されていることが発覚した。



 広大な農場で、ハンターが使うポーションの原料となる薬草を大量栽培していたり、大勢の腕利き鍛治師を雇いいれ、さまざまな武器、防具の設計、作成を行う工場の画像が映し出されている。そんな中、種々のモンスターが小屋の中でくつろいでいたり、湖のほとりでえさを与えられている画像が目に飛び込んだ。



「……おっ、飼育モンスター育成所なんてものがあるぞ!」



 俺は無人島のダンジョン内部で、少数ではあるが有益なモンスターを飼育していた。えさはダンジョン内部のモンスターを自由に食べさせ、まかなっていた。俺はダンジョンを攻略するハンターとして奮闘するうち、現代で言うところの『テイム』というスキルを我流で体得していたのだった。



「新しいダンジョンでテイムしたモンスターはここで預かってもらおう。いいね、さすが都会のギルド、田舎とは環境が違うぜ」


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