懇親会にて
懇親会にて。
一反木綿こと照苑寺は周囲からの冷めた目に苦笑いを浮かべながら否定した。
「いや別に自分は男性とアーッ!なことをすることを性的な欲求として持っているわけではありませんよ。ただ凪宮君がはやとちりをしただけで」
周囲の視線が納得と無関心に変わった。中には安心や落胆の視線も感じるが、それについては先を考えるのはやめた。
「そんなはやとちりをされるような態度を取る方が悪いのでは?照苑寺会長?」
背後から凛とした声を聞き、照苑寺は振り返る。
こちらに向かって来ながらそんな反論をするのは、やはりあの時の上から風女子さんだった。
「やあ、相変わらずお綺麗だね凪宮君。」
「世辞は結構。少々積もる話もあるので、別室で構いませんね?」
肩を落としながら着いていく照苑寺。
周囲の視線が『説教をする厳しい先輩』から印象の良いものに変わりつつあるのを感じながら、馴染みの少女についていく他ないのだった。
「さてと、話とは?」
「先輩、あの時何故生徒全員に操作の魔術をかけようとしたのですか?操作でなくとも、威圧感を強く与えるなどで十分だった筈です。」
「あー......」
照苑寺は苦笑いを浮かべる。言ったら怒るよなぁと思いながらも、すでに吊り目になっている眼前の少女を見れば、言わなくても怒るかぁと考えた。
「アレはね、『どうせ全員にかけるならいっその事篩にも掛けてやれば良かろうよ』っていう学院長の提案なんだ。」
「......それでも先輩であれば拒否できたのでは?拒否しなかったというのは、つまり目を掛けたい誰かがいた、と?」
「いや、ただ従っただけさ。特にデメリットも無いし。」
すると少女は胸を張って、
「そうですね。可愛い後輩の成長が見れて良かったでしょう?」
と、言ってきた。
無論、目は一切の笑みを湛えていない。
「ソウダネーエライネー
それに思わぬ収穫も有ったし。」
「それって先程迫っていた彼のことですか?」
「いや、迫っていたわけでは...でもまあ彼のことで間違って無いよ。」
「思わず男色に走りたくなるような美男だったと?」
「.........」
それ以上照苑寺は何も言わなくなった。何を言っても弄られるのだろうと諦めたようであった。
しかし彼の目は諦めの目ではなく、むしろ何かを楽しんでいるようだった。
会場の奥で学院長がようやく1人。そこに来賓の1人が近づくと、学院長は意地の悪い笑みを浮かべた。
「お疲れ様です、学院長殿?」
「おお、これは軍務卿殿。本日はお越しいただき。良い日になりましたなぁ?」
「はは、全くですな。どこぞの仙人もしっかりと仕事をしてくださったようですし。」
「そうですなぁ、する前はドタキャンすることばかり考えていたのですが、なかなかどうして、良い事は嫌なことの中に見出せるものですなぁ。」
「ほう?」
軍務卿と呼ばれた男の目が妖しく、それでいて珍しいものを見た様な色を見せる。この仙人とも呼べるほどのジジイが、今更たかが入学式の挨拶で『良いこと』を見つけた、と言ったのだ。
「それはそれは。何があったのか、お聞かせ願えますか?」
「いや、逸材がな、いたのだ。未完か否かまでは分からなかったし、そもそもアレが何であるかも掴めなかった。この頃では初のことだったのだよ。」
学院長の纏う気配が黒くなった、と軍務卿は感じた。人間ヤバくなると黒く見えるものと考える軍務卿は、学院長の『この頃』で初めての経験を与えた子供がどのようなものなのか興味が湧いた。
「して、その方は?」
「いや、まだ。」
ーーその時の学院長の顔は。
少年に向けた時と同じ、何とも不気味で気の悪い笑みであった。
書きたいシーンまでの道筋が見えねぇ...