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僕は隠の者  作者: 青ねこ
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プロロロロロ(吐く音)




 人は反転したり翻ったり、ひっくり返ったりするものに惹かれる、と聞いたことがある。


 例えば、ギャップ萌えとかツンデレとかである。

 いつもはすごく不機嫌そうなヤンキーが猫を道で捕まえたときに見せた笑顔にキュンときた、とかいつも上からでキツ目な彼女が自分が落ち込んでる時に照れながら励ましてくれて惚れた、とか。

 僕にとっては創作の中のものだが。見たことなんてありませんが。血涙禁じえず。


 でも、ひっくり返ることは全部いいことに繋がることはない、というのは誰でも分かることだ。

 優しい人がキレると高笑いしながら人を殴るようになる、異性の前では面白い話題をどんどん喋る人がそれ以外のシーンでは常につまらなそうにしている、意見をコロコロ変える......

 

 他に例を挙げるなら、そう、今目の前にいる彼女のように。


 「あいつあんなただのぶりっ子クソギャルみたいなのと......コロス」


 あー、これは彼女以外の可愛い子に対して豹変したクズ野郎とそれを見ていつもは温厚な感じなのに一気にヤンデレっぽくなった彼女(ギャップかコレ?)のシーンですね。1度で2つの例、効率的ぁ。


 ただまあ、それに居合わせた弱虫(学園でご飯を食べに行く途中、角からその先の廊下を睨む女子を発見した哀れな子羊)には効率もクソもあったものでは無いわけで。

 空気がこれから死にそうなんだが?萌え?燃え?


 

 飛び出しそうな女子に向けて声をかける前に深呼吸をして、スイッチを切り替えて、さあ。


 「あ、あのー」


 僕の消え入りそうな声を心底鬱陶しいように女子が睨む。ギロ。こあい。


 「あ、すいません。実は、ですね?ええ。その、どんな状況なのか平面的には察したのですが、もう彼との関係をスパッと切ってしまえば、いいのでは?別にクズに対して手を下してやる必要は無いと思う、んですよええ、その、ええ。」


 「ですから、ね?ええ、その、落ち着いて?」


 女子は『何だこの変な勇気振り絞っちゃった系の童貞ヤローは?テメーに声掛けられても不快になるだけなんだよさっさとそこどいてそのまま消えろこのゴミムシが』みたいな目を向けてきた。こえい。


 そのまま通りすぎる女子。その先の光景をイメージする僕。走り出そうとする女子。合掌したい気分になって目を瞑る僕。



 しかし女子はその一歩目でピタリと止まった。

 初めはポケットの中を探す女子。目を見開いて固まった女子。(靴に僕の唾がついてしまって不快とかか?)だんだん苦い顔になる女子。それを脂汗をかいて見守る僕。不意に諦めた顔になる女子。


 「わかった、やめておく。」


 そう言って女子は去っていった。セーフ。ガチのヤンデレじゃなくてよかったぁ、いやホントに。

 チラっと浮気男の方を見る。まだ廊下でイチャイチャしてんのかよ......


 僕はそんなことを考えながらその場を離れ、当の女子から離れ、そしてトイレの中で


 「おろろろろロロロ」


 1人ゲロを吐いた。









 ゲロを丁寧に掃除した僕はそのまま今日教えて貰った教室に戻る。ここまで何となくで進んできたが今日は学院の登校初日。入学式前の顔合わせである。

 

 初日から修羅場を展開する人っているんだなぁ......


 「じゃあさっきまでウチの学院の規律とか沿革とかどーでもいいことばっかやってたんで、この時間からは君達の学院生活について軽く説明しましょう」


 と、緩い感じの雰囲気で教師が続ける。

 端的に言えば、寮生になる人と自宅から通う人がいて、授業が大体9〜16時にあって、あとは基本自由だが責任のある行動を心がけよう、という話だった。

 

 「あと学院内では魔術の許可された区域になってますが、器物損壊とか他人を傷つけるとかは原則禁止だからやめて下さいね〜 自分らの仕事が増えると、その分宿題を厳しくしちゃったりするかもよ?」



 それはぶっちゃけ横暴では?


 まあサラッと流したが魔術がこの世界にはあるのだ。結構扱うのが難しくて不便だが。しかしその分熟練した人の魔術は効果が大きい。


 

 「流石に説明は大丈夫だと思うんですけど、魔術は授業として教えます。講義としても実践としても。

 でもその強さとか技術は才能によるところが大きいんで、扱えるかについてはシッカリ補助しますが、

逆に才能に驕った感じの生徒や真面目にやらない人には厳しくいっちゃいますからね〜宿題の量とか〜」


 

 宿題のことについてやけに言うじゃん......

 

 

 「自分のスキルの方については基本もう習熟してると思うので、講義で自分の他にどんなスキルがあるのかー、とか個人面談でスキルの使い方でこんなのはどうかなー、とか。それくらいです。」


 一方、各個人が持ってるスキル(まあこれもある種個性がより厨二っぽくなっただけである)については性能がピーキーだったり弱かったりするためか余り深く介入してこないらしい。


 「じゃあウチの学院の特色とかについては大方終わったんで、きょうは解散でーす」



 説明20分で終わり。書面でいいじゃんこんなの......

 顔合わせって言ったって自分から知らない人に話しかけるのは苦手だし、今日はもう帰って良いのだろうか? 別に不可能ではないんですよ?



 周りのクラスメイトを見ると、それぞれぎこちない感じで周りの人と目線を合わせては会釈したり、元々知り合いなのか軽く雑談してるようだ。

 そんな中で1人立ち上がって皆で自己紹介をするのはどうか、などと宣う男子。あれ、さっきの浮気ヤロー同じクラスかよ......

 教師も忘れてたとばかりに自己紹介を勧めてくるし、もう始まっちゃったし、あれ気がついたら僕の番ですか?



 「コクボです。趣味は本を読んだりですよろしくおねがいsms」



 最後を萎ませることで隠の者ムーブをかまし、『あ、こいつは別に積極的に関わらなくても良いか』的なイメージを持たせることに成功。誰にも避けられない蔑まれない面倒なことを押し付けられない、それが僕のポリスィー。

 その後の自己紹介は特に聞いていなかった。どうせ覚えられないし話しかけることもないし。




 ともあれ今日の3行。


 修羅場に遭遇した。

 ゲロ吐いた。

 隠の者ムーブをかました。



 以上。 明日は入学式だが、劇的なことはないだろう。

簡単に説明すると使うことは難しいけど強めの魔術があって、使いやすさはあるけど弱かったりするスキルがある話です。

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