序章06
序章06
津軽海峡を渡れば、朝廷の支配領域の外である。風はなく海は穏やかだった。大間の岬から対岸には蝦夷の大地が見える。
間も無く、大型の船が到着した。
「殿ぉ!ご無事で何よりでござる!」
ヒョイと船から降りて、義経の前で跪いた。
「ご苦労さま!やはり継信の言った通り、泰衡は裏切ったよ」
佐藤継信は奥州藤原氏の重鎮の家柄の出で、秀衡に命じられ、弟の忠信と共に義経の護衛として平家追討の戦に随行し、それ依頼ずっと義経の郎党として従事していた。
屋島の戦いで、平教経が義経を狙って放った矢で継信が義経を庇って深手を負い、生死の境を彷徨った。それ以後自ら戦死したことにして歴史の表舞台から退き、隠密として義経らを支えていた。
「やはりそうでしたか。泰衡は、平和な時代であれば有能な領主になれたでしょう。平泉を愛し奥州の人々を戦火に巻き込まぬようにと殿の首を差し出して和平の選択肢を選んだつもりだったのでしょうが…」
「相手はあの冷酷な兄上だからな。目障りな平泉はどの道近いうちに攻め込まれたろうさ」
「泰衡はまんまと騙されて選択肢を誤ったでごさるな。今頃、既に攻め込まれいるかもしれませぬ」
「未練はないか。継信は残って戦ってもよいのだぞ?」
「平泉を出る際にすでに、忠信と共に父との今生の別れの挨拶を済ませてきましたでござりまする。拙者は義経様と共に参る覚悟でござる」
「よし。では、この美味い大間のマグロを平らげたら出発しよう」
弁慶と三郎はすでに夢中になって無言で食べていた。
「あ!ちょっと俺たちの分も残しておいてくれよ!」
「早くしないと無くなるわヨ」と、アテルは弁慶と三郎のあまりの豪快な食べっぷりに驚いてクスクスと笑っていた。