序章04
〜序章04〜
夜が明けて、二人はついに蝦夷の民の地まで到着した。今は亡き秀衡は、蝦夷との血の繋がりを主張し、平泉の支配領域は本州最北端までとなっていた。実際には津軽地方には多くの蝦夷の民が平和に暮らし、蝦夷の自治が守られ、和人との交易が盛んに行われていた。幼少期のある時、義経らは蝦夷の民の子らと仲良くなり、蝦夷の民の地に案内され渡島(北海道)へ旅行に行ったことがあった。蝦夷は和人とは違う独自の自然と融合した美しい文化があり、義経らはとても感銘を受け褒め称えた。悪路王はそれを聞き義経らを大変気に入り、困ったことがあれば助けになると約束するほどだった。
十和田湖に到着したのは昼過ぎだった。湖畔には義経の隠れ家があり、中から義経の郎党、伊勢三郎義盛が出てきて、跪いて出迎えた。
「我君、長旅お疲れ様でした。ご無事でなりよりです」
「三郎、良い馬を用意してくれていたから助かったよ。ありがとう」
「伊勢殿、我に丈夫な馬を用意してくれて助かったのじゃ。さすがじゃな」
「照れるぜ相棒。だが、其方の体重に耐えられる馬を探すのは苦労したぞ。一つ貸しだからな?」
「伊勢殿、本当に良い馬じゃった。どこで見つけたんじゃ?」
「ああ、あの巨馬は渡来の種らしい。悪来王から借り受けたので、詳しい事はわからんが…お!噂をすれば、王の使者がやってきたぞ」
3人の使者が到着し、馬から降り挨拶した。「ワタシは悪来王の娘、アテルと言いマス。どうぞお見知りおきヲ」
女性的に鍛錬されたしなやかな身体と端正な顔立ちの美しい娘だった。
「うおっ!!」
弁慶がアテルを見て一言叫んだ。
「ん?どうした弁慶?」
「相棒、大丈夫か?真っ赤だぞ」
「だ、大事無いですじゃ。すまんですじゃ」
アテルが弁慶を見て微笑んだ。
「あら?アナタ、以前どこかでお会いしたカシラ?」
「いえ。初めてですじゃ。」
「ふーん。何か懐かしい感じがするネ。気のせいかナ。まあいいか。」
アテルは何かを思い出そうとしたが、すぐに諦めて本題の話しに入った。
義経は、すぐにでも追手がやってくるかもしれない状況を説明し、急いで王に謁見しようということになった。
一行は十和田湖を後にし、津軽海峡へと向かった。