序章02
序章02
夜の森は漆黒の闇。夜の山道を歩いた経験がある人は、懐中電灯をOFFにして未舗装の山道を歩くことを想像してみて欲しい。月明かりが所々照らすが、灯りなしではまともに歩くことすらままならないであろう。
この牛若こと義経は、幼少期に鞍馬山で天狗と呼ばれる物の怪に鍛え上げられていたので、夜目が利き、山を馬のような速さで駆け抜ける事ができた。平泉を一望できる高台に到着し、街を見下ろすと、自宅を中心にたくさんの松明が四方へ動いているのが見えた。
「良かった。弁慶も無事に逃げたようだな」
井戸の中には、逃走用の横穴が作ってあった。穴は迷路状の地下道へ繋がって、出口は複数あった。追手は弁慶を完全に見失い、四方へと捜索範囲を広げるしかなかった。
「俺を追ってきた連中は…と。松明の灯りの数からすると、別働隊で20人くらいか。まっすぐこっちに向かってきているな。どうやら優秀な探索者がいるようだな。よし、ここらで罠を仕掛けるか」
義経は、せっせと何か作業を始めた。
「これでよし。ここを通れば時間稼ぎになるだろう」
作業を終え、再び走り始めた。
一方、弁慶は予め地面に埋めておいた袋から服を出して着替え、濡れた服は絞って畳んで袋に詰めた。
「我はまだ死ぬわけにはいかぬのじゃ。まだこの時代の何処に居るはずの彼女を見つけていないからな。牛若は無事に逃げたか心配じゃが、どの辺りかの」
弁慶は、義経の逃走ルートの山の方角を見た。山の中腹に20ほど追手の松明が見えた。
「追手は20程度か…ん?ほおー!牛若の仕掛けた罠に掛かったようじゃな」
追手の松明が次々に消え、見えなくなった。
〜山の中腹〜
「おい!本当にこっちで合ってるのか?」
「いくらなんでも逃げるのが速すぎないか?」
「どこか闇に紛れて隠れているのではないのか?」
追手の侍たちは、追っているはずの義経に追いつけずに苛立ちを見せていた。
「合っているはずです。こいつらが匂いを間違えることはねえです」
追手は、猟犬を連れた探索者に先導され、義経の後を追っていた。
その時、追手の一人が何かを踏んだ。
「バキッ!シュルシュル…バサッ!」
と何かが落ちる音がした。
「何だ?」
と、音の方を照らすと、大きな布袋が落ちていた。
「ブーン、ブーン」
と、大量の蜂が袋から出てきた。
夜間活動できるモンスズメバチだった。
巣を攻撃されたと思ったのか、松明を持つ人間に向かって大量の蜂が襲いかかる。
「ギャー!痛え!これは堪らん!」
追手たちは松明で応戦するが、蜂を余計に刺激し、さらに蜂の攻撃に晒された。
「松明の灯りが標的になっている!松明を棄ててこの場を離れよ!」
追手の隊長がそう言うと、部下たちは次々と松明を捨てて逃げ始めた。
追手たちは刺された痛みと松明を失って行動不能に陥った。