8話 これがいちのせCafeの真の姿だ。
「有り得ねえ」
咄嗟に心の声が漏れる。この景色は100人中100人が絶句するだろう。の割には傲慢王女様は冷静だけどな。傲慢王女様マジで何者ですか? って感じだわ。
外見が荒廃的だったのに対し、店内は落ち着きのあるデザインで、テーブルやカウンターも綺麗にされている。カップや器具も棚に並べられ埃は全くない。とても閉店したとは思えない雰囲気だ。今にも奥から店員さんが来そうである。
店内の雰囲気に感動しつつも疑問点が複数ある。
——なぜ手入れが行き届いているのか?
——誰がそんなことを?
——何のために?
何とかして答えを導こうと頭をフル回転させる。なぜ店内だけ綺麗なのか? 俺達が来ることを知っていて、あえて手入れしたのか? それを知っているのは先生だけ。だとしても真意が分からない。
結論に至っても矛盾や不明点が必ず生じてしまい、答えを導くことは叶わなかった。拙い脳みそをフル回転させたから頭が痛い。登大路なら知ってるかもしれない。
と淡い期待を抱き彼女へ話しかける。
「これどういうことなんだ?」
「私が知ってると思うかしら?」
まあそうだよな。登大路も初めて来たんだもんな。知ってるはずないか。まあ知ってたら怖いか。ある意味。
「知ってるわよ」
いや知ってるんかい。謎のフェイントすな。このひねくれ傲慢王女が。怖いっす。
「古市先生が週に一度掃除しに訪れているのよ。外は面倒だけど中だけでもってことらしいわ。ちなみに扉の立て付けが悪いことも聞いていたわ。想像以上だったけれど」
ええー。そこまで聞いてたのかよ。なんで最初に言ってくれなかったの? 酷くね?
というか先生も大概だ。言ってくれたらいいのに。部員に伝えるべき事を伝えないのは禁忌だ。太宰治風に言うなら顧問失格。
……しかしまあ先生も性格が悪いな。なんか男出来ないのも納得だわ。あの性格じゃあ誰も欲しがらんなあ。
2人に心の中で毒を吐きつつ、店内を探索してみることにした。俺が歩き出したのを受けて、登大路も俺の後ろに着く。
「それにしても綺麗ね……屋敷の書斎を思い出すわ」
さらっと自慢しないでくれるかな。実家が金持ちなのは雰囲気で分かるからね。
「こんな狭いのか」
「違うわよ。雰囲気よ」
「冗談だっつの」
少しおちょくってやると顔を顰める。冗談通じないのか。傲慢王女のトリセツを誰か俺にくれ。Give me……
冗談はそこら辺にしといてまじで狭い。カウンターとテーブルで10人ちょっとしか入れないだろうな。となるとやっぱ外を整備するしかないか。面倒くせえけど仕方ないよな。
と計画を考えていると登大路から声がかかる。
「キメラ君。忘我に入っているところ悪いのだけど、今日は一旦解散しましょう」
ふとポケットからスマホを取り出す。時刻は既に17時を過ぎている。
「もうそんな時間か。帰るか」
そう言って俺と登大路は店の外へ行く。扉は立て付けが悪いので、少しだけ開けておく。そうして俺達はいちのせCafeを後にした。