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73話 どうにもカフェは早々に修羅場の様相を呈す。

 読んでいただきありがとうございます!

「洗い物終わったぞ」

「意外と仕事が早いのね」


 ふぅーっと一息ついて報告すると、登大路はご丁寧に余計な部分までつけて返事をよこした。こうやって、さらりと腹の立つことを言われるのは慣れたものだ。

 とはいえ慈愛と寛容の代名詞である俺でも、毎度やられると流石にむっとしてしまう。こいつの言動や表情は言ってみれば紀寺京キラーである。


「言うことあるだろうが」

「はいはい、ありがとう。これでいい?」


 ……なんだろう、この小さい子供の機嫌をとるかのような話し方は。非常にバカにされてる感じが伝わってくる。


「まあ、及第点と言ったところだな」


 スッキリはしないが、お礼を言ってくれたことに変わりはないのでしかたなく、しかたなーく何も言わないでおく。

 どうせなんか言っても返り討ちというのがわかってるだけだが。


「それはどうも。ほら、次は掃除をしなさい」


 洗い物が終わったと思ったらこれである。

 いつも一日の中で何度か使われるが、今日は普段よりそのスパンが短く、いつにも増して人使いが荒い。しかし、機嫌は悪いようには見えない。むしろ普段より少し生き生きしてる気がする。

 普段から登大路は感情の起伏がそこまでなく、あまり感情を表に出さない。だからこそ、今日の登大路は不気味で少し怖い。


「……なぁ。今日なんかあった?」


 回りくどいのは好きでないため、思い切って直球勝負を仕掛けると、登大路は意外にも静かに左右に首を振った。

 だが本当に何もなさそうだったので余計に聞くことはしないでおく。ま、別に興味があるわけじゃないしな。


「しかしまぁ、高畑いねぇと嘘みたいに静かだな」

「そうね。あの子、少し騒がしいというか落ち着きがないというか……とにかく無邪気で楽しそうにしてるものね」


 やはりこいつと高畑は相思相愛。少し寂しそうに話す姿がその証拠である。綺麗な綺麗な百合の花が咲くレベル。

 珍しく高畑がいないことには理由がある。といっても俺と登大路もその全容を把握しているわけではなく、大雑把にしか知らない。

 なにやら古市先生に相談をしたいということだったが、あの高畑が誰かに相談するほど繊細なやつだったことに驚きを隠せなかった。いや嫌味じゃなくて純粋に。前々から繊細だとは思っていたが、より一層その認識は強まった。


「どうせ客来ねぇだろ」


 面倒くさい掃除に精を出しているふりをしながら、そう文句を垂れてやると、意外にも素直に「そうね」と言った。そして少し考える素振りを見せたあと、俺の方を見て笑った。


「あなた、客引きしてきなさい」


 それはそれは美しく愛嬌のある笑顔だった。だがその笑顔も登大路の一言によって一瞬で残酷に見えた。


「お前はあれか。キャバクラのオーナーか」

「あら、別に客引きはそういう意味で言ったのではないけれど……やっぱりあなたも思春期の男子ね」

「いや俺も色仕掛けで客引きなんて言ってねぇだろ。そういうお前こそ頭の中ピンクなんじゃねえの」

「別に否定してるわけではないわ。あと訂正するとピンクには色事に関する意味はなくて――」

「そんな豆知識いらんっつの」


 なんなんだこの女は。確かに否定はされてないが、すごく軽蔑されてる気がする。

 だってほら、この視線が痛いもん。もはや割り箸のささくれ。あれ地味に痛てぇんだよな。今もそういう感じだよ。


「と、とにかくだな。誤解を招く可能性を考慮した上で発言するべきなんだよ」

「それはそうね」


 短く会話を締め、少しの沈黙が来たかと思うと、その静けさは来客を告げるベルの音で掻き消えた。


「いらっしゃ——。せっかくのお客さんかと思えばあなたですか」


 登大路の大きい目は鋭さを増し、その来客——佐紀さんを捉えた。


「む、その言い方は嫌だなぁ。いつも来た時は何か頼んでるじゃん」


 佐紀さんは明らかに不満そうだが、どこか登大路を弄ぶように反論すると、慣れたように勝手にカウンター席に座った。


「まあまあ、お仕事は一旦休んでさ、佐紀さんにコーヒーくださいな!」

「それも仕事の一つなのですが……バカにしてます?」

「いやいや悪気はないよ?」

「バカにしてるのは否定しないんですね」

「お、おい登大路、その辺にしとけ、な?」

「あなたはそうやって佐紀さんの肩を持つのね」

「い、いや、そういうわけじゃございやせんよ」


 恐ろしく早いロックオンから逃れるように否定するが、しどろもどろな言葉に登大路は納得する様子もなく、切れ味鋭い関の包丁のような目つきで俺を睨む。

 今日の登大路さん、いつにも増して佐紀さんに食らいついてるよね? あっ、すんごい睨んでる。やだ怖い。


「ちょっと、佐紀さんの京くんを怯えさせないで。ほら、京くんおいで」


 佐紀さんは席に座ったまま俺の方を向いて、両手をガバッと広げた。どうしても豊満な二物に焦点を合わせてしまうが、そっと目を逸らして苦笑いで返す。

 それが不満だったのか、佐紀さんは「むぅ」と一言発して両手で頬杖をついた。

 存在が凶器に匹敵する登大路、言動が冗談に思えない心臓に悪い佐紀さん、これを修羅場と呼ばずして何と呼ぶのか。いや修羅場と呼ばねば修羅場という言葉に失礼だろう。ということで助けてくださいお願いします。


「何度も言いますが紀寺くんは物ではないです」

「言い方が良くなかったかな? 佐紀さんの運命の人……なんて」

「お代は結構ですのでお帰りください」

「まだ飲んでないもん!」


 おい二回戦始まっちゃったよ。これもう放置でいいよね? てかそうするしかないよね? うん、そうしよう。

 新学期早々にこれとは非常に幸先が悪い。

 はぁ……被害出る前に警察と消防に電話するのはありだろうか。ありなら秒で電話してやるぞ。俺はやるからな。

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