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5話 これが登大路綾乃という人物だ。

 ——俺は今、早歩きで廊下を進んでいる。


 なぜ早歩きかって? 理由は2つ。1つ目は単に暑いから。なんたって今は7月、夏だ。ちなみに俺は夏は大嫌いである。俺のような日陰で過ごすような奴にも太陽の光が容赦なく降り注ぐからな。日陰の方が生きやすい人もいるってのに。

 太陽さんも残酷だな、心の中で太陽に毒を吐くが太陽は憎いほど眩しい。


 んで2つ目。昨日(強制的に)入部した「いちのせCafeプロジェクト」の部室への移動だ。

 指定された時間まで余裕はあるのだが、なるべく早く着かねばならない。でないと、あの傲慢女が文句を言ってくるに違いないからな。


 登大路とかいう女と、歩く度に額やこめかみを伝う汗、そして容赦ない太陽に苛立ちを覚えつつ、俺はさっきより進むスピードを上げることにした。






 やっとの思いで部室に着いた俺は、右手で額の汗を拭い、軽く1回深呼吸をしてから左手で扉を開けた。いやはや扉を開けるのにも結構勇気がいるもんなんだな。

 と少し関心していると、この部室の支配者とエンカウントする。やはり居たか。あの女は要注意人物だ。

 法廷だったら「私が法律よ。開廷、判決、死刑」とか言って、5秒ぐらいで裁判終わらすようなタイプの女だ。奈良市史上最悪の独裁者。まあ、この健全な奈良市に独裁者なんていなかっただろうがな。


「こんにちは。キメラ君」


 こら。人を異質同体にするんじゃねえよ。そんな禍々しい産物に見えてんの? 文句は言われなかったけど悪口言われたわ。


「お前には俺がそんな禍々しく見えてんのか?」

「ええ、とても」


 満面の笑みで言うのやめて。この状況じゃなかったら惚れてたかも——なんて我ながら冗談キツイ。

 それにしてもこいつホント容赦ないな。お友達とキャッキャウフフする時どうしてんだろうか。

 疑問に思った俺は奴に近付き、机を挟んで目の前に座る。そして頬杖をついて話しかけた。


「お前さ、友達と話す時もそんな毒舌なのか?」

「愚問ね。キメラ君いいかしら? 私は平等主義で基本的に親しい人は作らないと決めているの」


 奴の目線が手元の本から俺の顔に移る。その仕草に一瞬ドキッとしてしまう。べ、別に? 魅力感じたわけじゃないぞ? あー、あれだ。突然目合ったから驚いただけだ。


 ごほん、今のは無し。それよりもだ。こいつに友達が存在しないのが驚きだ。てっきり2人か3人はいると思っていた。まあでも確かに友達は出来なさそうだ。

 こういうひねくれてる奴は仮に出来たとしても、上辺だけの曖昧な関係にしかならんだろう。所詮、泡沫のようなものだ。


 しかし俺も伊達に何年もぼっちをしているわけじゃない。友達がいない奴の気持ちはなんとなく分かる。こいつは強がっているが恐らく本心では友達が欲しいに違いない。その証拠にさっきから俺の方を見ている。仕方ない。俺が手を差し伸べてやるとするか。


「友達がいない者どうしってわけか。よし。登大路、この部活を円滑に行うためってことで俺と友だ——」

「お断りするわ」


 なんだと。どこぞの誰ガイルみたいな展開だったぞ。

 というか俺の読みは間違っていないはずだ。ここに来てまだ強がっているのか? さっき俺を見つめていたのは? ダメだ。一向に答えが掴めない。あと最後まで言わせてほしかった。

 1人問答を繰り返していると、奴は蔑んだような瞳を俺に向けて口を開いた。


「キメラ君。私は別に友達が欲しいわけじゃないの。これはそうね……栄光ある孤立というものかしら?」


 あー、これあれだ。友達いない歴が長すぎて拗らせちゃったやつだな。だから栄光ある孤立とか言っちゃったんだね。なるほど。

 で、栄光ある孤立ってなんや。ただの負け惜しみじゃねえか。てか、そもそも意味履き違えてるぞ。カナダはイギリス本国を断固支持するっていう意味だからな?


「はあ……お前な、余計な言葉が多いんだよ。そんなんだから友達いねえんだろ。あとキメラやめろ」


 率直に思ったことを言ってやると、奴は手元に持っていた本を勢い良く閉じ、俺を睨んで不機嫌な形相になった。怖い怖い。


「そろそろ立場を弁えないと、例のノートのコピー全校生徒にばら撒くわよ」

「なんでお前コピー持ってんだよ!」

「あら? そんな態度でいいのかしら?」

「すいませんでした。許してください」


 お前こそ下衆だろ、と心の中で毒を吐いてやる。なんだろう。ここには汚ない人しかいないのだろうか。もうテンションだだ下がりだ。いや元々低かったけど……。

 せっかく同情してやってたのに、同情の余地もなくなった。俺が恨めしげに登大路を見ると、勝ち誇った顔で俺を見ている。

 俺は右手で頭を抱えた。これ、ホントにやっていけんのか? 既に嫌な予感しかしないのは気の所為と信じたい。

 極力、登大路を見ないように俺は静かに先生を待つことにした。

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