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52話 そうして彼らは決意する。

 読んでいただきありがとうございます!

 窓から差し込む光がふと俺の意識を現実に引き戻した。

 次いで、重い瞼をゆっくりと持ち上げれば見慣れた景色が広がっている。

 なんとか体を起こしてスマホを手に取り起動させると、時刻は既に昼の2時を過ぎていた。


「……土曜日か」


 一瞬焦ったが、時刻の下に表示されていた曜日を目にして、今日が土曜日だということを思い出す。


「ねむ」


 意味もなく呟いた言葉は静かすぎる部屋に満遍なく行き届いたが、自分しか存在しないこの空間では虚しささえ感じてしまう。

 だが人間というのは欲望に忠実だ。

 現に今だって睡眠欲がせっせこせっせこ働いているのだから。三大欲求もよくもまあこんなブラック企業に就職したもんだ。

 とにかく睡眠欲くんの労働を無駄にしてはいけない。だから俺は寝る。

 そう決めて再び体を倒したとき、側のスマホがプルルルルと音を立てた。なにかと目をやれば、例の非通知である。

 乗り気ではないが軽く深呼吸してからそっと応答した。


「……はい」

『こんにちは。まだ寝てたのかな?』

「二度寝をしようと」

『もう。健康によくないよ? 佐紀さんは京くんが心配です』


 そう気遣いを見せる電話の向こうの主は、その言葉の後に軽く笑った。

 一瞬、優しいという印象を受けるかもしれない。

 だが俺は違う。彼女が発する言葉全てが恐怖の種であり、その声色さえも狂気的に捉えてしまう。


「……なんか用ですか?」

『例の件上手くいってるみたいだね』

「……勘弁してください」

『でも佐紀さんのおかげでもあるよね?』


 その一言に胸を刺されたような鋭い痛みを覚えた。

 佐紀さんの言い方は我儘で独裁的で、善意から来ているものとは到底思えなかった。


「ふふふ。冗談だよ! そんな難しく考えないでよ~」

「そ、そっすね……。はは……」


 唐突の空気の転換に追いつけず、咄嗟に愛想笑いで返す。

 愛想笑いしたり、場の雰囲気に流されたりしない。そう決めていたはずなのにいとも容易く崩れていく。


「あ、佐紀さん休憩が終わっちゃう。またね、京くん」


 佐紀さんは早口気味でそう話すと一方的に電話を終了させた。

 特に用もなくなったスマホを手から離し、ふと窓の外を眺める。住宅街ということもあって、案の定見えるのは家か空だけである。

 普段と変わり映えしない景色だが、今だけは心を落ち着かせるのに適していた。


「よし」


 ある程度、平常心を取り戻してきたのを確認してから強く言葉にしてスマホを手に取った。

 いよいよ始まるであろう最大の戦いに思いを馳せながら——。






「悪いな。こんな時間に」


 そう告げると目の前の人物——高畑は一度頷いて言葉を発した。


「暇だったし大丈夫! それより話って?」


 胸の前で手をぶんぶんと振りながら否定した彼女は、机上のカップを手に取り口をつけた。

 否定の後に投擲された疑問に答えるべく、俺も一度カップに口をつけ、机上に置いてから口を開く。


「ま、おおよそ分かってるだろうが日時を決めた。来週の水曜、午後5時だ」

「別にいいけど、なんでその日時なの?」

「まあ平日のその時間なら全員居そうだし」

「急に適当なんだね……」


 はははと乾いた笑いで応じる高畑に、すまんと心の中で謝罪をする。

 が、これが適当な判断だと俺は読んでいる。もちろん日常会話で使われる適当ではなく、適切かつ妥当という意味で。

 というのも、昔テレビで登大路ホテルが取り上げられていた時、最も利用者が少なく、あいつの父親が屋敷にいる時間が最も長いのが水曜日だったのだ。さらに言えば、あいつの父親は昼の3時には会社を出るらしい。こんな社長で大丈夫か? と思ってしまうぐらい早い。


「でもまあ、京が決めたんなら従うよ」

「助かる」


 ともあれ、高畑は文句を言わずに了承してくれたので、あとは時を待つのみで特に何もする必要はない。

 ……いや、上手くいくように一応お祈りしとこう。登大路を助けれますように。


「あ、そういえば京」

「なんだ」

「綾乃っちを助けるのって、部員だからだよね?」

「そうだが……なんだよ急に」

「え、や、その、あ、深い意味はないけど気になって……」


 その疑問を肯定しつつ急になにかと質問し返すと、先程の様子とは一変して目を泳がせながらしどろもどろになった。


「ま、とにかく、登大路を助けて部活に来てもらわんとな。利益が上げられん」

「京って遠慮を知らないよね……」


 引いたように冷たい目で見られる。それはもう盛大に蔑んでいた。

 遠慮を知らないという言葉がブーメランになる歴史的瞬間を俺は目撃してしまった気がした。


「それが俺のアイデンティティだ。……ハムエッグサンドうま」


 ドヤ顔で言い放ったあとに、もぐもぐとハムエッグサンドを頬張る。

 この店に呼び出しておいてあれだが、ここに来るのは初めてである。しかしリピートは確定事項となった。ハムエッグサンドが美味すぎるからだ。

 手に持っていたハムエッグサンドを一つ食べ終わってから、ふと高畑が目の前に居たことを思い出し、ちらっと目をやる。

 高畑が妙な視線でじっと見つめていたから、少し怖くなった俺は慌ててコーヒーを飲み干して誤魔化す。が、ふっと笑みを零して彼女も机上のカップを手に取った。


「なんか無邪気だよね……。冷静で大人なのに危なかっかしくて子供っぽくてさ……」

「きゅ、急になんだよ。こわ」

「ひど! せっかく褒めてあげたのに!」


 ムスッとして俺を見つめる高畑。

 さすがに今のを褒め言葉と受け取るのは無理がある気がする。というか、普段褒めてこない人にこんな褒め方されたら100人中100人がビビるに違いない。


「ま、とにかく水曜日だよね?」

「ああ。頼む」

「うん! 任せて!」


 サムズアップしてみせた高畑はニシシと笑った。その顔に妙に安心感を抱いた俺は、その後に何か喋り始めたことに適当に返事し、残り一個となったハムエッグサンドを名残惜しく感じながら口いっぱいに詰め込んだ。

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