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49話 つまり秋風は彼と彼女の背を押す。

 読んでいただきありがとうございます!

 チャイムが一日の終わりを告げたと同時に、俺は足早に教室を去る。陽キャ共と同じ部屋で同じ空気を吸うのは、やはり息が詰まってしまう。


「京!」


 ふと口にされた俺の名前に反応し、首を声のした方へ向けると見慣れた女子がいた。


「……高畑か。何の用だ」

「えっと……。一緒に帰らない? 話したいこともあるしさ……」


 右手で髪を弄りながら話す彼女を見て、特に断る理由もなかった俺はそれを承諾した。

 俺が歩き出してから彼女も小走りで横に並んだ。


「ちょっと置いてかないでよ!」

「遅いのが悪い」

「ひど!」

「これがデフォルトだろうが」


 それもそうか、と納得する高畑だが、それはそれで複雑であることは黙っておこう。

 ……彼女からの話はあまり気が乗らんが致し方ないよな。

 はぁとため息をついて、辺りに目をやると談笑する女子生徒、遊び暴れるガキみたいな男子生徒、それを注意する教師の声が響いていたが、俺と高畑を取り巻く空気に限っては少し異様なものだったように感じた。






 あれから少し経った今、俺たちは夕日を受けながらゆっくりと見慣れた光景の中を進んでいた。

 普段なら交通量の多い隣の国道は、なぜか今日に限って妙なほど車通りがなかった。


「……で、話って?」


 少し尋ねづらい状況ではあったが、何となく察しがついていたが故に、せめてもの償いという意味を込めて恐る恐る口を開いた。

 高畑は何も答えてはくれず、そのまま静かに歩みを進めるだけだった。

 が、ふと赤信号で立ち止まった時、徐に言葉は紡がれた。


「部活さ、無期限活動停止なんだって……」


 その話し方に少し心臓がバクついた。てっきり彼女は全て聞いていると思った。だが、あくまで処分についてしか把握していない。つまり、俺が責任を持って自ら説明しなければならない。


「……すまん」

「なんで京が謝るの……?」


 頭を下げて静かに謝る俺に、彼女は細い声で応えた。その声色から彼女の悲痛な思いがひしひしと感じられ、責任感と無力感、罪悪感などが俺の心を鷲掴みにしていた。


「俺が自惚れて、見下して、登大路の妹と勝負して負けて、こうなったんだ……。先生と登大路の意思を汲み取らずに突っ走って、みんなに迷惑かけちまって……」

「そっか」


 俺が必死に謝ろうと早口で言葉を繋げたのとは対照的に、彼女は短くゆっくりとした言葉で俺に告げた。相変わらずの声色に、俺は既にどうすればいいのか分からなくなっていた。


「正直、あたし怒ってるよ」

「……本当に申し訳ない」


 彼女の怒りはもっともだった。俺の責任で彼女の居場所を、もっと言えば努力を奪ってしまったのだ。その怒りが俺に向くのは当然のことで、むしろ俺にはそれを受け入れることしか選択することは許されない。


「違うよ。あたし、京の行動には怒ってないよ」

「え?」

「京の気持ちに怒ってるの」


 そう訂正した後に、彼女はふっと軽く微笑んだ。

 その言葉と微笑みの意味が俺には理解できなかった。

 なぜ行動じゃなくて、気持ちに対してなのか。そもそも俺の気持ちってなんなのか。

 理解に苦しむ俺を見兼ねたのか、ついに彼女は静かに口を開いた。


「あたしが何かしたいって思っても京は止めた。でも、京はあたしに黙って一人でなんとかしようとしたでしょ?」

「そ、それは……しんどい思いさせたくねえから……」

「自惚れないでよ。京が一人でなんとかしようとしても、京もあたしも苦しいだけだよ。でも京が頼ってくれたら、多少なりとも苦しくなくなるはずだってあたしは思う」


 その言葉に俺は少し重荷から解放された気がした。あの日から強がって抱え込んでいたのを見抜かれ、自覚したからだと思う。

 依然として優しい眼差しを向ける彼女は、また少し微笑んで言葉を続けた。


「だから頼って……? あたし達、部員じゃん」


 彼女は優しい。こんな俺でも突き放すことなく、むしろ一緒に背負おうとしてくれている。正直に言うと嬉しくて堪らない。

 だが彼女の望みに答えることはできない。彼女が優しいからこそ、だ。


「——無理だ」

「うん」

「勘繰っちまうんだ。優しくされると。なんか利用してるんじゃないか、裏があるんじゃないかって。信じたって結局手のひら返されるって」

「うん」


 俺が拙く心中を吐露しても、彼女は優しく相槌を打っていた。やはり高畑は優しい。

 少しの沈黙の後、彼女は俺の右手を左手で軽く握って笑った。


「あたしは信用してるよ。京のこと」


 その言葉に俺は心が少し軽くなったのを感じた。俺が勝手に壁を作って遠ざけようとしていたのに、彼女はいとも容易く侵入してきた。

 だが不思議と不快感はなかった。むしろ同時に考え方が少しずつ変化していくのを理解した。

 少しだけなら——。


「……信じていいのか?」

「その方が嬉しいかな」


 高畑はきゅっと強く俺の手を握った。それを合図に俺は口を開いて意思表示を行う。


「作戦がある」


 高畑は一回、強く頷いて手を離した。タイミングよく青に変わった信号と同時に横断歩道を渡り、騒々しくなってきた国道の横を早歩きで進んでいく。

 やはり彼女は優しい。優しくて……強い。高畑という人材を引き入れた登大路は素晴らしい采配の持ち主だ。会社だったら人事部で最高の働きするだろうな。

 ま、それは置いといて、この作戦ははっきり言うと勝機は薄い。だが相応のリスクを背負わねば、勝利など到底得ることなんてできないと思っている。

 だから俺たちは勝負する——。

 その決意を表すかのように、俺は握り拳をつくって力を込める。

 後方から吹き付ける強い風が、俺たちの背中を押すように思えてとても心強く感じた。

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 彼の言う作戦とは……!?


 PS.サブタイトルを一部変更しました。

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