4話 これが古市清菜の本性だ。
「登大路も含めて3人だ」
耳を疑った。なぜここにいるのか、という疑問は最初から持ってはいたが、そういうことだったとは。ついさっきまで一触即発の冷戦時代だったのだ。いつ開戦してもおかしくない状況だ。
「まあ私は資金援助とその他少しだけしか請け負わない。つまり、実質2人ってことだな」
ここに来て爆弾投下。事実上の開戦。この女は今まで遭遇した生物で最も厄介かつ嫌悪する存在である。正面きっては勝ち目は無いに等しい。
なんか先生が魔族に見えてきた。ん? 頭に角が見えるぞ? おや、背中から黒い羽も生えている。あ、この先生は悪魔だったんだ。幻覚によって確信を得た。
「よし紀寺。この部活動について教えてやろう」
悪魔が俺に語りかけてきやがった! やめろ、それ以上俺に話しかけ——えっ? これ部活動だったの? 全然そんな風には見えないんですけど。
「ここは、いちのせCafeを再興し、奈良市を代表するCafeへと育て上げることを主とした部活、『いちのせCafeプロジェクト』だ」
先生はドヤ顔に加え部活名に強いアクセントを置いて話す……先生、貴方が思ってるほど部活名カッコよくないですよ。なんなら単純すぎてダサいです。
「~~部みたいに部は付けないんですね」
「付けなきゃいけない決まりは無いからな。紀寺、そんな細かい事気にしてるからぼっちなんだぞ」
ドヤ顔から一転、冷たく憐れむような眼差しを俺に向けてきた。急に人の心を抉る発言に苛立ちを覚える。
先生こそすぐ思ったことを言うから彼氏いないんでしょ。心の中でそう毒を吐いた瞬間、俺の顔の横を何かが高速で掠めた。何が起きたか理解出来ず、ロボットのような動作で目をやると、そこには拳が確かに存在している。
見間違いだろうか、その拳から煙が出てる気がする。
「余計なこと考えてたろ?」
「い、いや。しょ、しょんなことは断じて……」
こっっっわ! 怖すぎて思わず噛んじゃった。この先生エスパーじゃねえか! いっそ、教師から超能力者に転職したらどうだろうか。その方が収入も良さそうだし彼氏ができるかもしれない。金狙いの。
そうやって心の中で嘲笑していると、一瞬先生にものすごい眼力で睨まれた気がして、咄嗟に背筋が伸びて真顔になる。
「まあいい。とりあえず明日以降のことだが、明日はここ集合。その次からはCafeに集合だ。案ずるな、行き方は明日教えてやる」
「あんま乗り気じゃないっすけど……了解っす」
「よし、では今日は解散だ。気を付けて帰れよ」
よーし、やっと帰れる。さっさと帰ってゲームしてアニメ消化して、飯食って風呂入って寝るか。
ああ、なんて合理的な時間の活用方法だろう。流石、奈良県民の紀寺京だ。我ながらプランを組むのが上手い。
帰宅後のプランを組んで、わくわくしている俺は教室を出て扉の前で一礼し、さようなら。と告げた。
顔を上げて廊下の方へ向く一瞬、奴……登大路と目が合った気がした。睨むような目付きだったがそんなことは気にせず、るんるんと歩いて帰った。
ふと空を見上げると、相変わらず雲が空を覆っているが、僅かに隙間から夕日が射しているのが見えた。