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26話 だから会議は厄介なのである。

 読んでいただきありがとうございます!

「諸君、集まったな」


 古市先生が俺達を交互に見回し、威勢のいい声で確認をとった。少し五月蝿く感じつつ、何も言わず先生の言葉を待つことにする。いちいち反応すると面倒なので。


「君達に話さねばならないことがあってだな……」


 なにやら深刻そうな面持ちで話を切り出す先生。キョロキョロして近くの椅子を運び俺達三人の前に腰を落ち着かせた。そして軽く咳払いした後、閉じた瞼をカッと開き勢いよく立ち上がった。座った意味ねえじゃねえか。


「文化祭に出店することが決まったぞ!」


 その一言に俺は固まった。というか登大路も高畑も面食らったような表情を浮かべて先生を見つめている。俺達が状況を理解出来ていないのを察したのか、先生は静かに座り先程より落ち着いた声で説明を始めた。


「というのも有志の参加枠が一つ余ってしまったから埋め合わせということだが——」

「ちょっと待ってください。それは無理です」


 咄嗟に立ち上がり先生の説明を遮って俺はそれをすぐに否定した。先生は驚いた様子で俺を見つつ、否定について説明を求めた。


「というと?」

「そもそもカフェの来店者数が少ないですから、文化祭に出店したところで利益を得ることは出来ません。それに和尚とかいう奴との戦いに時間と手間を要します。そんな中で文化祭の出店の準備も行うとなると時間的猶予がないです。それに高畑の正式入部が決まっていないし——」


 そこまで説明すると先生は俺に近付き肩を叩き座るよう促した。おとなしく従って座り先生の反応を伺う。


「確かに君の言う通りだ。だが私にも案はあるさ」


 そう言って先生は右腕に携えていたノートパソコンを机の上に置き開いた。そして画面に目をやると俺は思わず目を疑った。


「SNSを利用するのさ。ブログとツブヤイターを駆使して宣伝、加えてポスターを制作して学校に掲示する」

「誰が作るんですか?」


 高畑がそう尋ねると先生は俺の方をちらっと見て頷いた。……やればいいんでしょ、やれば。


「俺がやる」

「えぇ! 京作れんの!?」

「ポスターぐらい造作もない。パソコン得意だし」


 そう告げると高畑は目を輝かせながら俺を見上げてくる。そして笑顔を浮かべて軽く拍手しながら俺を褒める。


「パソコン使えんのすご!」


 そんな俺達のやり取りを気にすることなく、登大路は先生に疑問を投げかけた。


「SNSは否定しませんが、それなりの土台があってこそです。そのアカウントとカフェの情報を出回らせる必要があると思うのですが」

「あたしに任せて! 友達に広めて認知してもらうよ!」


 先生が答える前に高畑が進んで役割を買ってでた。先生は元から頼むつもりだったのか、微笑んで高畑の意見を了承した。

 そのまま順調に話し合いは進み、いちのせCafeが文化祭で出店することに俺達も賛成した。そしてカフェは今日は休みにして対策を練ることになった。


「大まかな流れとして……。先ず高畑さんが認知度を広めキメラくんがポスターを制作。次に先生がSNSで情報拡散をして私がコーヒーを提供する……ってことでいいかしら?」

「いいよ!」


 高畑が元気に返事し登大路がそれに対し頷く。登大路がまとめた流れでも構わないっちゃ構わないが、正直インパクトに欠ける。もうひとつ、ふたつ程手を打っておきたいところだが……。


「何か言いたそうね、キメラくん」


 俺が頭を掻きながら思考を巡らしていたことに気付いたのか、登大路は俺の意見を求めてくる。彼女のお気に召さなければ、どうなるかは知れないが言わざるを得んな。


「……正直インパクトに欠けると思う。最近の奴らの傾向としてコーヒーだけでなく、ジュースとか紅茶を用意してみてもいいんじゃないかと」

「なるほど……」


 登大路は意外にもバッサリ否定せず思案し始める。その間に高畑が俺を急に褒めだした。


「すごいね京! ぼっちなのに分かってるじゃん! ぼっちなのに!」


 やけに人の心を抉る単語を強調してるような気がするんですが。気の所為だよね。いやそう信じたい。じゃないと俺の精神が。


「分かってるって言っても周りの奴らの会話を聞いてるからな」


 すると高畑は少し引いたような顔で俺を見つめ、『きもーい』と言ってくる。これ陽キャのダメなとこだよ。その場のノリか知らんがすぐに人を罵倒する。これは本当に最悪な行いだ。神に裁かれろ。


「すぐ罵倒するな。この桃色ビッチ」

「確かにそれは一理ある……。ごめん……って! 京も罵倒した!」

「いや俺は褒めただけだ。ビッチって賢いってことだぞ」

「そうなん? へへへ、照れるなあ」


 後頭部を掻きながらはにかむその表情は本気で照れてる人のそれに違いない。この子は本当に馬鹿だ。将来が心配だよ。悪い人に騙されそうで怖いです、普通に。

 高畑が『京に褒められた!』とウキウキな様子で登大路に報告しているが、彼女は苦笑しながらそれを聞いていた。


「では……新しい商品の案を提示して欲しいのだけれど」

「意見出しといてあれだけど、先生材料用意出来るんすか?」

「問題ない」


 先生は右手で拳を作り親指を立て頷いた。俺はその合図を確認し思考を再び巡らせる。ジュースとか紅茶っていっても正確にどれが人気か分からんな……。高畑に任せよっと。

 そう決めて考えるふりをしながら高畑を横目で見る。高畑は最初こそ瞼を閉じ腕を組んで考えていたが、直に挙手をして意見を述べ始めた。


「はいはい! タピオカとかどうかな?」

「それいいな」


 先生が頷きながら高畑の提案を肯定する。そして俺も巷でタピオカとかいうデンプンの塊が流行っているのを思い出し肯定の合図を送る。

 登大路はその意見を小さいメモ帳に書き記した。そして登大路も挙手をして意見を述べる。


「現時点でのメニューがコーヒーを始めとする飲料類のみなので、軽食を加えるのはいかがかしら?」

「誰が作るんだ?」

「それは私が責任を持って行うわ」


 彼女の意見は尤もだ。飲料類のみじゃ先が知れている。だが軽食をメニューに加えれば客足の増加は保証されよう。悪手ではない。しかしこれを全て行うとなれば一つ問題点が生じてくる。


「対策はそれでいいとして人手が足りない。これを三人で分担して行うとしても膨大な作業量だ」

「それもそうね……」


 俺と登大路はその壁を越えるための手段を求めて頭を抱える。三人でも不可能ではないが、俺と高畑のスピードでは登大路に追いつけない。むしろ足手まといになりかねない。


「あたしに任せてよ!」


 自信満々な様子で立ち上がり胸を張る高畑。ちょっとやめてください。目のやりどころに困ります。


「凪っちと夏渚っちに頼んでみる!」


 そう言って俺たちの返事を待たずに電話をかけ始めた。耳にかざしてすぐ二人の応答の合図が聞こえた。すげえ。三人で電話出来るんだ。時代は進歩してるんだな……。


「カフェの手伝いしてくんない?」

『うちは構わないけど』

『あーしも問題ないっす』

「ありがと! じゃね」


 二人が了承したのを合図に高畑は通話を終える。とりあえず人手問題が解消できたことに一息つく。さて、ここで新たな問題点だが……。


「具体的な軽食について高畑さんに意見を求めるわ。キメラくんには期待出来ないもの」

「おい」


 涼しげな様子で髪をふわっとかきあげて高畑を見つめる登大路に、かなり苛立ちを覚えた。急にディスられた挙句、それが正しいため反論すら出来ず完封されたのである。こんな綺麗な完封は俺史上初だわ。


「やっぱパンケーキ、サンドイッチが王道じゃないかな?」

「参考にするわ」


 登大路はそう言ってメモ帳にペンを走らせる。ちょっと待ってくれ。そのくらいなら俺だって知ってるぞ。わざわざ俺が省かれた理由が分からなくなってきた。


「器具は私が揃えておこう」


 先生は腕を組み気を利かせる。まあ先生の存在意義ってそんなもんですもんね。資金面でしか助けてくれないらしいし。

 そして登大路が先生に『お願いします』と依頼し、メモ帳をパタンと音を立て閉じる。

「では明日から各自分担された仕事に取り組んでください」

「「ん(はーい!)」」


 それを合図に今日の部活は終わりを告げた。いつもなら夜までだが、対策会議だった故に珍しく夕方に終わったのでウキウキが止まらない。さっさと帰ってのんびり過ごすとしますか。


「戸締りは私がしておこう。気を付けてな」


 部屋の窓を一つ一つ閉める先生の後ろ姿に挨拶をして、俺達は早々に部室から立ち去る。

 ふと窓の外を覗くと遠くの生駒山が珍しく霞んでおらず、むしろ清々しい程くっきりと見えていて、俺の口角が自然と少し上がった。そして俺は前を行く高畑と登大路の横に並んだ。

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